*ロバートとアルヴィン*

エドガールートご一読後お読み頂けると楽しめます





サリヴァン家はサリヴァー教の始祖、クロード・ルイス・サリヴァンの子孫である家系だ。

クロードは大昔この国に大きな厄災をもたらし、支配し破壊しようとした悪魔を祓ったとされる英雄の祓魔師であり神に仕える神父であった。

そのクロードが仕えていた神を信じ、英雄であるクロードを称えるのがサリヴァー教。


現在でもサリヴァン家の人間は代々教祖を務めており、長男に産まれた俺、ロバート・ティム・サリヴァンもその役目を負うはずだった。


そう、負うはず“だった”。


「エドガーに跡を継がせることにした」


「え?」


15歳の時だった。

父親に突然呼び出されそう告げられ、耳を疑った。

エドガーは俺の当時一番下の弟。5歳であり歳は離れている。


「エドに…?どうしてですか」


「あの子は神の子だ。クロードの再来だ」


「は…?」


話を聞けば、エドガーは父が祓魔師の仕事を見せるために連れて行った先で魔物に襲われたらしい。

慌てて助けようとした父の目の前でエドガーは大きな魔物を一瞬で消し去ったしまった。

普通祓魔師が魔物を祓うには時間をかけて神力を込めた道具が必要だ。

しかしエドガーは道具を使わず魔物を消した。


つまり、それだけ神力が高いということ。

それだけじゃなく、疲れも一切見せず、更には神力でどんな怪我でも治して見せた。

そして父は確信したらしい。


「この子は神の子だ、と」


「っ、そんな、じゃあ俺はどうするんです…、家を継ぐために今までやって来たのに」


「おまえには隣国の大きな教会でも任せようと思ってる。同時に祓魔師団の団長を…」


納得いかない。

納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない納得いかない…。


産まれてからずっと英才教育をさせられた。

自由に遊ぶこともなく、勉強づくめで。

身体が弱く、病気がちだった俺を父は叱咤した。

おまえの心が弱いからだと。

だから俺は父の期待に応えるために今までずっとずっとずっとずっと何もかも我慢して耐えてきたのに。


それがどうしてこんなに呆気なく。

それからの話はあまり頭に入って来なかった。

父の話が終わって部屋を出ると窓の外でエドガーが幼なじみのコルネとビオラと一緒に遊んでいるのが見えた。アイツは遊んでばかりだ。

末っ子ということもありアイツには今まで何の重圧も無かった。


いつも幼なじみと楽しそうに遊んで、そのくせ勉強は優秀な天才で、その上に神の子?

俺はが苦労して苦労して手に入れたものをアイツは生まれつき備え持っていた。


勉強も要領が悪くて苦労した。


身体が弱くて運動も苦手だった。


神力も低くくて魔物もまともに祓えなかった。


それを今までずっと俺は努力で補ってきた。

それを一瞬で、生まれつき天才というだけで、神力があるというだけで全て奪っていった。

何も努力してないアイツが…。

アイツが天才でも、でも、それでも、俺の方がアイツより優秀なのに…。


それから俺はエドガーの顔が見られなくなった。

顔を見れば腹が立って、暴言ばかり吐いた。

自信を失ったのかエドガーはだんだん暗い性格になっていった。


当然の報いだ、そう思った。

そう思うと同時にそんな自分にも嫌気が差した。

このまま家にいたらずっと劣等感と自己嫌悪に苛まれるだろう。

確か、隣街にある剣術学校は全寮制だった。

どうせもう家を継いで祓魔師になることはない。

せめて剣術の腕でも磨いて王都で働くのも悪くはないだろう。



「なぁなぁ~~!聞いてくれよロバートォ」


「………、何だ」


悩みの種というものは案外どこに行っても尽きないものだ。

剣術学校に異例の転入をした俺は周りから注目されるようになっていた。

もちろん、有名なサリヴァン家の跡継ぎから降ろされたことそれも噂になり、周りは俺のことを気にして噂をするが近づく者はいなかった。


まあ今更、友人も要らないし、剣術学校は頭の悪いやつばかりだ、そんな奴らと仲良くなる気はない。

…そう思っていたのだが、この、アルヴィン・フレータという男。

コイツだけ転入初日からしつこく話しかけてくる。


正直うざい。


「昨日他の女の子とデートしていたことがばれて力いっぱい叩かれたんだ…」


「ああ…」


アルヴィンの頬を見ると確かにくっきりと手形が残っている。漫画みたいで見事なものだ。


「全く!顔だけが取り柄なのに酷いよな!」


自分で言うのかそれ。


「…、俺には関係ない。あまり話しかけるな」


「ん?何でだ?」


「迷惑だ」


そうだ。迷惑だ。

周りでうるさくされて余計に目立つし。


「どうして俺に構うんだ、お前は…」


「ふふん、俺はお前とゆにっとを組みたいからだっ!」


「は?ゆに…?なんて?」


何故か自慢げに腰に手を当てて胸をはるアルヴィン。

聞きなれない言葉に眉をひそめた。


「えーと、ゆにっとっていうのは、二人で一つの…えーと…、なんか良くわからんが!巷で流行りの劇団の余興の…アイドルとかゆーやつのだ!女の子に人気なんだ!お前顔が良いから今より女の子釣れると思って!」


最低な本音が出た。


「よくわからないことに俺を巻き込むな」


「二人で学園のアイドル目指そうなっ!」


アルヴィンががしっと俺の肩を掴む。

ダメだコイツ人の話全然聞かない。

それからというものアルヴィンはしつこく付きまとってきた。

何度も追い払っても素っ気なくしても…。


「しつこい!!!!」


「うぉっ!?なんだ!?」


ついに俺がアルヴィンに怒鳴るとアルヴィンがビクッとする。


「なんなんだあっちへこっちへ付き纏って!いい加減にしろ!」


「なんだぁ、ロバート。イライラして…。生理か?」


「ぶん殴るぞ」


誰のせいでこんなにイライラしてると思っているんだこいつ。

アルヴィンは全く悪びれる様子はない。


「お前さあ、そうやって他人遠ざけて。友達作らないのか?」


「は?」


何でこいつにこんな事言われなきゃならないんだ。


「寂しくないのか?ずっと一人じゃ」


寂しい…?分からない。

寂しいとか…そんな感情とっくの昔に忘れてしまった。


「友達欲しいとか思わないのか、おまえ」


「友達…」


「そう、友達」


「俺と進んで友達になりたいという奇特な人間はいないだろう」


「おまえ、卑屈なのか自信家なのかわからないなぁ」


というかさあ、とアルヴィンが俺の肩に手を回した。


「俺はおまえと友達になりたいけど?」


「……ゆにっとはどうした」


「ユニットで友達!!!!」


アルヴィンがビシッとピースをする。

何のピースなんだそれは。全く意味がわからない。


「もう勝手にしろ」


「わーい!よろしくなぁ!ロバートっ」


アルヴィンががばっと抱きついてきた。


「くっつくな」


コイツはいちいち反応が大げさで声もデカイしうるさい、しつこいし鬱陶しい、俺とは真逆の人間だ。

けれどそれから一緒に過ごすうちに色々分かってきた。


何でも要領よくこなすように見えて影で誰より努力している、明るく振る舞うように見えてそれは他人に自分が辛いのを悟らせないようにするためのときもある、…まあ女癖は相変わらずだが。


弱音を吐かず、前向きで明るい。


過去に囚われ、弟を恨む俺とは大違いだ。

そういうところは尊敬すべき点なのだろう。


うるさいのにコイツのとなりは妙に居心地が良い。

だからこうして現在まで付き合いが続いている。


俺は隣を歩くアルヴィンをちらりと見た。


「ん~?なんだ~?どこに飲みに行く?」


「任せる」


まあ全部言ってやらんがな。

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