第11話 兄はツンドラ、弟はツンデレ


「おい、おまえらどこ行ってたんだよ!」


客間に戻るとぷんすかしてるエドガーくんが出迎えてくれた。

調べ物が終わって戻ってきていたらしい。


アッ、さっきの見た後だと可愛いかも。


勝手にさっきのロバートさんと比べてしまい、エドガーくんが可愛く見えた。

さっきとは違い威圧感もなくてなんかホッとする。


「ごめんね。お手洗いだよ」


「何だ便所か。なら仕方ないな…」


エドガーくんがむうと口ごもる。これも可愛い。

なんか脳感覚がバグってるから落ち着かなきゃ。

コルネさんと私はエドガーくんが座っていたティーテーブルの席に一緒に着いた。


「でもちょっとトラブルに巻き込まれて長くなっちゃった」


「トラブルぅ?」


「エドガーくん資料見つかったの?」


お兄さんに罵倒された、なんて話、エドガーくんを不快にさせるだけな気がして私は話を逸らす。


「あー、いや、休憩。ずっとやってらんねえ。糖分欲しい。で、トラブルって?」


逸らせてなかった。


「うーん、話すべきなのかなあ…」


コルネさんが困った顔をするとエドガーくんがむっとする。

ちらっとこっちを見たので、私に一応確認してくれている。コルネさんとしては話しておきたいらしい。

私は了承の意で頷いた。エドガーくんのことならコルネさんの方が分かっているし。


「なんだよ」


「会ったんだよ、“あの人”に」


「…マジで?」


エドガーくんが眉をひそめる。どうやらあの人で通じたらしい。


「げえ、最悪だな…。タイミング悪…」


おえーという舌を出す仕草をするエドガーくんと、それを見てコルネさんが苦笑いをした。


「向こうも言ってた。会わなくて良かったよ。アルヴィンさんも来ててとりなしてくれたよ。もう帰ったから」


あれはとりなしてくれたのだろうか、疑問。

肩を抱き寄せられてロバートさんを怒らせて消えていった。


「何の用だったんだ?」


「エドのお父さんに呼ばれたって言ってたよ。エドがやってる依頼が重大っぽいから話しとくって。まあ僕たちのほうが突発的に来たから運悪く重なっちゃったね」


「心配性だな。親父も…。よりによってあんなやつに話さなくていいのに」


エドガーくんがため息をつく。

さすがにエドガーくんもロバートさんが苦手みたいだ。


「エルは大丈夫だったか?」


「あ、うん、ちょっと怖かったけど大丈夫だよ」


「めちゃくちゃだよあの人。エルちゃんのこと芋臭い芋女だとか殺すのが正解みたいなこと言うんだもん」


コルネさんが全部告げ口した。エドガーくんはため息をつく。


「相変わらずのクソっぷりだな」


ぼろくそだ。


「まあ確かにアイツなら悪魔に利用されるかもしれない女なんか魂ごと抹殺しちまえぐらい言うだろうな」


「まさに」


さすがによく分かっている。嫌いあっててもさすがの兄弟だ。

エドガーくんは私の方を向くと、しっかり私を見た。


「俺はぜってえそんなことしねえ。意地でも守り切ってやるよ」


「えっ、あ、ありがとう…」


真剣に言われてちょっと戸惑ってしまった。

エドガーくん、優しい。


「ふ、ふん、感謝してるなら床に頭擦りつけてエドガー様ありがとうございますって言うんだな…!」


やっぱり優しくない。


「もー!エド!」


コルネさんがエドガーくんの背中をバンと叩いてエドガーくんがよろめく。

何すんだ!素直じゃないからでしょ!と二人が揉めてる様子に私は思わずクスッと笑ってしまった。


「な、何笑ってんだ」


「ふふ、なんでもない」


何となくわかってきた。エドガーくんたまに照れ隠しで偉そうな態度をとっているんだ。なんだか可愛い。

コルネさんがエドガーくんを慕う気持ちも一緒にいると分かってくる。

エドガーくんはなんだよ…とばつが悪そうに頭を掻いている。


「…、あの、ロバートさんってエドガーくんのお兄さんなの…?」


「…ああ、そうだよ。ロバート・ティム・サリヴァン。俺の兄貴。王都で祓魔騎士団に入ってる。つか今じゃ団長だ」


あんなエラソーなのによく上官が務まるよな、なんてエドガーくんは悪態をついている。


「団長…」


やっぱりここに来たときコルネさんが話してたプライドエベレスト級のお兄さんとやらか…。色々一致する。噂をすれば何とやら…。


「一緒にいた人は?」


私の質問にコルネさんはああ、と反応する。


「アルヴィン・フレータさんだね」


「アルヴィンはよくわかんねーけど兄貴とつるんでる物好き。国立騎士レザンスト学院って騎士専門学校あるだろ?たしかそこの教師やってる」


…、国立騎士レザンスト学院。

私たちの国では騎士の優秀さが有名で、確か祓魔師の学校より先にあった由緒ある学院。

国外からもたくさん留学生が来るっていう…。

だから似たような騎士服だけど違ったんだ。私が騎士服の見分けがつかないだけで教師としての服だったのかもしれない。


「腕は祓魔騎士団長であるロバートさんに並ぶくらいなんだよ。神力はないけれどサリヴァー教徒だしエドガーのお父さんにも気に入られてるんだよ」


「まあ変なやつだけどいないと困るよな」


「ロバートさんが暴れたら止められるのはアルヴィンさんくらいだもんね」


コルネさんとエドガーくんの会話に猛獣か何かなのかな?と思った。アルヴィンさんは調教師かなんかみたいな扱いなんだろうか。


「じゃあ二人とも騎士なんだ…?」


「アルヴィンさんは厳密には教師だから違うけど騎士としても活躍してるしそうかも」


「そうなんだ…」


コルネさんは部外者の私にここまで教えてくれて親切だなぁと思っていると、


「それよりコルネクッキー焼いてくれ!甘いもの食いたい!!」


エドガーくんが急にそう叫んだ。お兄さんの話はもう嫌だという意思表示かもしれない。


「ええ?唐突だなあ」


「糖分を欲してる」


「使用人さんに頼まないの?」


「コルネのクッキーじゃなきゃやだ」


二人の会話を聞いて少し呆れた。エドガーくん、駄々っ子だ……。


「もー、エドったら仕方ないなあ。じゃあ台所借りるよ?」


コルネさん困ったようにしてるけど少し嬉しそうだ。なんていうか人の世話焼くの好きなんだなあ。

というかエドガーくんのお世話が好きなの???

きっといつものことなんだろう。


「おう」


「少し待ってて、エルちゃんと仲良くねー」


コルネさんはそう言い残して手を振ると、部屋から出ていく。

コルネさんが居なくなった瞬間にしんと部屋が静かになる。


あっ……エドガーくんと二人きりだ………。

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