第5話 エドガー・モーリー・サリヴァン


「………………」


夜中に目が覚めた。また夢を見た。

今日のは何時もと違った。

最近喋っていた悪魔はまた黙り込んでしまっていて、私をじっと見ていた。

逃げるようにその場から離れた瞬間にパッチリと目が覚めてしまった。


夜中の3時だ。


「寝れなくなっちゃった…喉乾いたな…」


私はベッドから起き上がるとリビングへと向かう。

リビングがほんのり明るい。


ロウソクの灯り?


「寝れないのか?」


「わっ」


ソファのほうから声がしてビクリとした。

声とロウソクの主はエドガーさんだった。

ソファの上でロウソクの灯りを使って聖書を読んでいる。


「あ…、う、うん…」


「そうか、隣座るか?紅茶淹れてやる」


「え、い、いいよ」


断るとエドガーさんがちょっとムッとする。


「俺が直々に淹れてやるって言ってるんだから飲め」


「アッ、ハイ」


反射的に返事をしてしまった。

喉乾いたから助かるけど淹れてもらうなんて申し訳ない…。

私はエドガーさんの隣に座る。


「あの、エドガーさんも寝れない、んですか……?」


「夜番だ。夜の方が魔物は活発だからな。誰か起きてねえと。てか気持ち悪いから敬語と敬称はやめろ」


あっ、コルネさんにも言われたんだった。そう思ってぱっと思わず口に手を当てた。


「…あ、ごめんね…。夜番も…えっと、気を遣わせてごめんね…」


「何ですぐ謝るんだ?意味分からないぞ。夜番は四人で交代でやろうって決めたことだから気にしなくていい」


エドガーくんがそういいながら淹れてくれた紅茶を私の目の前に置く。ミルクティーだ。

一口飲んだ。おいしい。

蜂蜜が入っていてホッとする味だ。


「悪魔の夢でも見たか」


「え」


「毎日見るっていってただろ」


「あ、うん、見たよ。何だかいつもと違って大人しかったけど…何でだろ…」


そう私が聞くとエドガーくんは少しだけ考えた。


「…多分、俺たちがここにいるから夢魔が仕事しにくいんじゃないか」


「夢魔……?」


「夢を操る魔物だ。おまえは悪魔は一方的にしか喋らないと言っていたから多分悪魔が夢魔に見せたいと教えた夢を夢魔が伝えにきてる。同じ内容だったり曖昧だったりするのは悪魔が直接おまえの夢に出てきてるわけじゃないからだ」


夢魔…そんなのもいるんだ…。


「相手の悪魔はどうにかして自分のことを覚えさせてぇんだろ。ちょっと手ェ貸せ」


エドガーくんが私の手を引っ張る。


「わ」


すると、エドガーくんの手から光が溢れて、私の中にすうっと入って行く様子がはっきり見えた。


「え、な、なに」


「これが神力。俺が今おまえに少しうつした。呪いがあるから完全じゃねえけど低級の魔物は寄せ付けねえ。夢魔は低級だからもうこれで悪夢も見ないだろ」


もしかして、私の、為に?

そっか、コルネさんのいうとおり本当にいい人なんだ…。

こうやって実は他人を気遣うことができる人なんだ。


「あ、ありがとう…。エドガーくんも優しいんだね」


「はぁ!?や、優しくねえし!また俺が当番のときに起きてこられたらメーワクだし!!!」


「おっきい声だすとみんな起きちゃうよ」


「む」


素直に黙るエドガーくん。

口を一文字に結んでて、なんか可愛い。


「あ。…あの、あと、エドガーくん、手…」


私が掴まれたままの手を見るとハッとしたエドガーくんは顔を真っ赤にする。


「手?アッ、わ、わ、わるい!!わぁあぁぁあ!?」


「あっ」


エドガーくんが慌てて手を離すと同時に立ち上がろうとしたせいでバランスを崩してソファの後ろに転がってった。


「だ、大丈夫?」


ソファの後ろを覗き込むとエドガーくんがぶつけた頭をさすってる。


「だ、大丈夫だ…」


エドガーくんは恥ずかしそうに立ち上がるとソファに座りなおした。


「あ、紅茶ありがとう。美味しいよこれ」


「ん?ああ、淹れ方にコツがあんだよ。母さまが教えてくれた」


「エドガーくんのお母さんが?」


「そ」


仲良いんだ…。


「今度教えて」


「はあ?あ、いや、べ、別にいーけどよ」


「ありがとう」


「…別に…」


ニッコリ笑いかけるとふいっと顔を逸らした。

でも、思ってたより全然話しやすいかも。


「…それ、呪いの印か?」


エドガーくんがちらりと私の肩を見る。

あ、半袖の寝巻きだから少し見えてたのか。


「あ、うん、そうだよ」


私は袖を少しだけまくる。


「……、それ…………」


じっと肩を見つめて少しの間、押し黙ってしまった。


「?」


不思議に思っているとエドガーくんは目線を外した。


「ああ、いや、何でもねえ。……そんな跡まで残されてその悪魔、メーワクなヤツだな」


「うん、そうかも」


「まあ、半年後には天才の俺が何とかしてやるから」


ふふん、と得意げそうだ。

自分に自信があるみたいで羨ましい。


「うん。ありがとう。頼もしいね」


目を見てお礼を言うとエドガーくんが何だか気まずそうにまた顔を逸らしてしまった。


「…そんな正直に言われるとヘンな感じすんだけど」


「ふふ、なにそれ」


「ああ、もう!つーかおまえは寝ろ!身体壊しても知んねえぞ!」


そう言われて私は立ち上がって、部屋に戻ることにした。


「ごめん。じゃあもう寝るね」


「ああ」


「おやすみ」


ドアの前で少し立ち止まって振り返るけど返事はない。

でもドアを閉める直前に。


「…………、おやすみ」


優しい声でそう聞こえた。











近況ノートにキャライラスト上げたので良ければご覧ください。

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