第3話 篝銀

「アレ、あの幼なじみコンビはどこに行ったんです?」


家に入るなりエリックくんが首を傾げた。


「幼なじみコンビ?」


私はサンドイッチをテーブルに置くとエリックくんに聞いた。


「サリヴァン先輩とコルネ先輩です。幼なじみなんですよ」


「あ。そうなんだ」


なるほど。エドガーさんがコルネさんの言うことをすんなり聞いたのも合点がいった。

エリックくんが15歳で一年生、エドガーさんとギンさんが16歳で二年生、コルネさんが17歳で三年生。

そう聞いたから先輩だからと思ったけれどそれ以外にも理由があったんだ。


「買い物。と、エルが言っていたフロスト神父の所へ挨拶へ行った。俺は留守番」


ソファに座ってたギンくんが口を開く。


「あ、そ、そうなの。ごめんね、言わなくて」


私は慌ててエリックくんに向き直る。

さっき伝え忘れてしまったのだ。


「ヘーキですよー。えーと、フロスト神父ってダレです?」


「あ、一番近いサリヴァー教の教会の神父様なの…。毎日会うわけじゃないんだけど色々良くしてくれて…。その話をしたら心配するだろうから一応挨拶に行く、ついでに買い物してくるねってコルネさんがエドガーさん引っ張ってったの」


1番近いとはいえ街外れなのに歩いて30分くらいのところだ。

こぢんまりした小さな教会だけど寄付金で孤児を育てている。


「ああ、なるほど…」


エリックくんは納得したように頷く。

コルネさんもエリックくんが一生懸命やってくれてるから声かけなかったんだろうなあ。


「んー、じゃあ僕続きやりますね。家具も部屋に作らないと行けないので!ちょっと新しい部屋に行ってきます!これは貰いますね」


エリックくんはサンドイッチを手に取るとそのまま部屋を出て新しい部屋の方に行ってしまった。

ちゃんと繋がってるんだ。見慣れないドアが出来ている。改めて魔法ってすごい。


「……座れば?」


「ひょわっ!?」


変な声がでた。

ギンさんがいきなり話しかけてくるなんて思わなかった。びっくりした。


確かに立ちっぱなしじゃあ鬱陶しいよね。

そう思って私は椅子に座る。


「………………」


「………………」


沈黙が辛い。

というかなんかギンさんに見つめられてる気がする。


気のせい?


「………………」


いや見てる。めっちゃ見てる。

沈黙しながら椅子に座った私をじっくり見てる。

椅子とテーブルは部屋の真ん中、ソファは部屋の隅。

距離があるとはいえ圧が凄い。


「あ、あの、サンドイッチは」


「食った」


「あのじゃあコーヒーでも」


銀「コーヒーも紅茶もいらない」


じゃあ何で見てくるの!????


「あ、あの、ギンさん?」


「ギンでいい」


「え」


予想外の言葉に固まる私。


「ギンでいい。さんとか要らない。敬語もいい」


「え、あの…、じゃあ、ギン…くん」


ギンくんは少し顔を顰めた。

アッ、なんか不服そう。


「まあいいか……」


ポツリと呟くギンくん。良かった。

妥協してくれたようだ。


「もっと近くに座れば」


「えっ」


なんか次なる爆弾を投下してきたよ?


「椅子とソファじゃ遠い。こっち座れば。今は俺は一人しか居ないから近い場所に居てくれたほうが守りやすい」


あ、そういうことか…

分かりにくいけれど、私を気遣ってくれているんだ。

コルネさんが結界を張ってくれたらしいけど、この家の中だって安全とはいいきれない。


「あの、ありがとう…」


「別に」


私は椅子から立ち上がると人一人分空けてギンくんの隣に座った。

ふとギンくんが持っているモノが目に入った。


「それ…珍しいね」


「ああ。刀だ。ウチの家宝」


「刀…」


知ってる。

ずいぶん昔の裕福だったころにお父様が色んな国の武器をコレクションしてた。

その中にも刀があって、見たことある。


「それ知ってる…珍しいよね」


「俺の国のモノだ。神力が込められた特別製で御神刀と呼ばれている」


「そうなんだ…。ギンくんってやっぱり違う国の人なんだね。エリックくんも知らない宗教って話をしてたし…」


「ああ。遠い島国だ。こことは文化がだいぶ違う。苗字と名前も反対で母国ではギン・カガリじゃなくて篝銀カガリギンだし名前も漢字で書く」


「カンジ?」


私が首を傾げるとギンくんはポッケがらメモとペンを出してメモに『カガリ ギン』と書いた。

私が覗き込むとこっちがカガリでこっちがギンと指差して説明してくれる。


「難しいね」


「まあな」


ハッとした。


ち、近い!


覗き込んだからギンくんとの距離がめちゃくちゃ近くなっていた。

私はばっと離れる。


「ご、ごめんね、近かったね」


「近くにいろと言ったのは俺だが?」


ギンくんが不思議そうに首を傾げる。


「そうだけど!そうじゃなくて!」


ギンくんがさらに不思議そうな顔をした。

そうだよね!意識してるの私だけだからなんだか恥ずかしい。

でも男の子とまともに話す事なんてなかったからふとした時に意識してしまう。


「あ、あの、ギンくんはなんでこの国に?」


とりあえず、話題をすり替える作戦。


「魔物が一番多い国だからだ」


「…え、そうなの?」


「祓魔師育成学校、なんてあるだけ変だろう。それだけ魔物がたくさんいるということ。むしろこの国が発生源だと俺と父は踏んでいる。根源を断つために来た」


魔物が多い…根源を断つため……


いやまさか私が魔物吸い寄せたりはしてないよね????まさかね?


「しかし悪魔が人間の娘に呪いというのも不可解だ。悪魔は魔物と違って知能がある。意味のない呪いはかけない。操られた、取り憑かれたとはまた意味が違う。手間と時間がかかるしな。俺は何か裏がある気がしている」


「えっ…?」


ギンくんに目を見つめられてどきりとした。


「この国の魔物の発生率、大昔に悪魔が暴れていたという事実、そして君、何かの関連が有るのは確かだと思う。そうなれば俺には余計君を守る義務がある」


「…何かの関連…………」


「だが、君が心配することは何もない。いつも通り過ごしてくれ。俺たちが守るから」


ギンくんが初めて無表情を崩して笑いかけてくれた。

ギンくんはぶっきらぼうで冷たい人みたいな印象を受けていたけれど違っていたみたい。

言い方がキツイこともあるけど正直にズバッと言うってだけで、根は優しいのかも。

でも笑顔は本当に一瞬で次の瞬間には元の無表情に戻っていた。

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