第2話 エリック・トイ



「うん!これでカンペキですね」


エリックくんは朝からお昼までの数時間で魔法を使って家に部屋を増やしてしまった。

魔法ってすごい。

外で一生懸命頑張ってくれてたエリックくんにサンドイッチと飲み物を運びに来た私はエリックくんに声をかける。


「魔法ってすごいんだね…魔術師の人に会ったの初めてだから知らなかった…」


完成した家を見上げる。

ボロ屋が綺麗になるどころか敷地が増えて新築みたいだ。


「僕なんて下手なほうですよ?出力を最小限にしてますし。ちょっと無理すると今朝みたいになるんです。だから一部屋だけですし」


ふうとため息をつくエリックくん。

今朝の事とは部屋に突っ込んできたことらしい。

話によるとエドガーくんが魔法でもっと早くつかないのかと言い出して無理矢理高速移動魔法を使ったら止まらなくて突っ込んだらしい。

保護魔法もしていたので怪我はなかったとか。


「でも、すごいものはすごいよ!私びっくりしちゃった」


「…、お姉さんは魔術師を差別しないんですね」


「差別?」


私が首を傾げると、エリックくんはうーんとうなる。


「…そもそもよく分かってないんですね。まあ魔術師は少ないですもんね…。魔術師は魔力…つまり魔物と同じチカラを操るから嫌がられているんです。そもそも宗教家でもないですし」


「えっ?そうなの?」


「ええ。まあ一部宗教家の魔術師もいますが…。神に与えられた聖なる力、いわゆる“神力”がなければ本来は祓魔師にはなれないんです。ですが、魔術師の差別に対しては祓魔師育成学校の校長も問題視してまして、人間であることは変わりないですし…。ですから僕に白羽の矢が立ったってわけですけど…本来魔術師である僕が祓魔師なのは“異例”なんですよ。魔術でも魔物退治はできますけど」


「そうなんだ…」


全然知らなかった。

元々は箱入りだったから自分は世間知らずだと思ってたし、ここに暮らすときも初めはすごく大変だったけれど…。

魔術師の存在は知っててもそんな話初めて聞いた。


「ああ、異例と言えば、カガリ先輩もそうですね」


「ギンさんも?」


「異例、というかナゾ、なんですよねえ、アノ人。シントーとかいう聞いたこともない宗教ですし。その割には魔族や魔術師にも理解があって…魔族と友達だったって話もしていたような?使う力も…何か違うんです」


「そうなの…」


「まあ、宗教が違うくらいじゃウチの学校には結構いますけど。サリヴァー教は多神教ですし他の宗教の人だって主が違うだけって認識なので、案外ゆるっゆるですよ?」


「ゆるっゆるなんだ…」


「まあクソ八重歯先輩とコルネ先輩はサリヴァー教ですよ」


「クソ八重歯先輩」


「あ、すみません。サリヴァン先輩」


言い直した。

どうやらエリックくんはエドガーさんのことが嫌いみたい。

エドガーさんも魔術師風情がとか言っていたし、エリックくんは魔術師は普通嫌がられるって言っていたからそのことで仲が悪いのかな。


「コルネさんの事は名前で呼ぶんだね」


「あの人にはなんとゆーか…ある意味逆らえなくて…?良かったら名前で呼んで、なんて言うんですもん…。誰にでも平等に接するし…」


エリックくんが恥ずかしそうに頭を掻いた。


「男相手でも天然でタラシてくるんですよー!あの人ホント怖いですっ」


「分かる気がする……」


さっきのことを思い出して、少し赤面した。

コルネさんみたいな優しい人に下からお願いとか言われたら正直断りにくい、すごく。

有無を言わさないような、圧倒的な雰囲気もある。


「それにしても結局住むことになっちゃってすみません。近くに借家があれば良かったんですけど…ここ陸の孤島みたいですし、一番近いのも少し離れた教会ですし…僕がもう少し魔力が使えれば家も建てられたんですがそれも無理で…」


完全なる山の上だ。山というか、丘というか。

1番近い宿がある街までは歩いて40分。

わりと遠いのでもし何かあったときに困るらしい。


「ご、ごめんね、私が変なところに住んでるから…」


「お姉さんが謝る必要なんてないですよー。まあ一緒に住んでたほうが守りやすいですし!偉いですね、お姉さんは。一人で一生懸命、頑張ってたんですね」


エリックくんがよしよしと私の頭を撫でた。

可愛らしい笑みを私に向ける。

なんて優しい子なんだろう。


エリックくんは15歳で私よりひとつ年下らしいし、可愛らしい小さい子だと思っていたけどよく見ると私より少しだけ背が高くて、手も大きい、ちゃんと男の子だ。


「…、撫でられたのなんて久しぶり…」


「ふふん!褒められたから褒め返してみました!」


エリックくんが何故か誇らしげにドヤ顔をする。


「ふふっ、なにそれ」


思わず笑うとエリックくんも嬉しそうな顔をした。


「やっぱり、笑ってたほうが可愛いですよ?」


エリックくんのセリフに思わず赤面した。

男の子に面と向かってかわいいなんて言われた経験私にはない。

私の様子を見てエリックくんはくすりと笑った。


「ほら、中に入りましょう?風が強いですから」


「えっ、う、うん。あ、サンドイッチ」


「中で食べます!」


「わわっ」


エリックくんに背中を押されて家に入る。


か、可愛い、なんてエリックくんもさらっとすごいこと言うなあ……。

エリックくんのほうが可愛いよ、って言ったら怒るだろうか…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る