クエスト12/猫とオナニー



「バカなのっ!? アンタってどこまでバカなのよっ!! どうしてわたしがそんなの付けなきゃいけないのよ!!」


「ぐッ、蹴るなら気が済むまで蹴ってくれッ!! だが――――この猫耳カチューシャだけでも!! 尻尾は諦めるから!!」


「あったりまえでしょうが!! そもそもその尻尾どうやって付けるのよ!!」


「これか? そりゃアナルパールついてるしケツの穴にブスっと」


「うぎゃああああああああああっ!? そんな変態なのわたしに向けないで変態!! この変態がぁっ!!」


 土下座するアキラの背中に、理子はドスドスと足裏で蹴りを入れる。

 どうしてこうなったのだ、何がどうしてこんな事を頼む結論に至ったのか。

 彼女は眉間の皺をほぐしながら、必死になって冷静さを保とうとした。


「あ゛~~もう……、ほら、言ってみなさいよ。どーしていきなりこんなコト言い出したのか」


「…………怒らないで聞いてくれるか?」


「内容次第ね」


「………………ムラムラしたから、オレの好きなネコ耳と尻尾つけてエロいポーズとかして貰って、それをオカズにオナニーしようかと」


「~~~~~~~っ、ぁ、アンタねぇ!! ちょっとは取り繕いなさいよっ! お、オナニーとか!! 恥じらいってモンはないの!?」


 顔を真っ赤にして叫ぶ彼女に、アキラは立ち上がって堂々と言った。

 性欲に支配されつつある今、恥じらいなど明日まで出張中である。


「オナニーしないとお前を襲うがよろしいか?」


「よろしいワケあるかっ!! せめて何も言わずにこっそりしなさいよ!! 見て見ぬフリしてあげるから!! その為にエロ本まで出したんでしょうが!!」


「ッ!? ば、バカな!! 気づいてたのかテメェ!!」


「気づくわよ!! こんなに堂々と置かれたら嫌でも気づくわよ!! ああもうっ、見て見ぬフリしてたのにぃ~~~~!!」


 地団駄を踏み始めた理子の生足を、嘗め回すように見ながら。

 諦められないアキラは、再度頼み込む。

 今はただ、ネコ耳の彼女が見たい。


「スマン、お前の気遣いを無駄にしちまったな……だからネコ耳を付けてくれ」


「話が繋がってないっ!! 謝罪になってないわよおバカ!!」


「出来れば、上半身は裸でハートのニップレスを貼ってくれると嬉しいぜ」


「だれがするか!! 勝手にオナニーしてろバカ!! バカバカバカ!! アキラのド変態!!」


 どうしてくれようかコイツ、と理子は睨むが。

 アキラとしては、そんな姿ですらムラっとくる。


(頼むだけじゃダメか、なら――)


(コイツ……目が諦めてないっ!! 何か断る理由っ!! 何が悲しくて恋人でもないのにそんなコトしなくちゃいけないのよっ!!)


(誠意を見せなければ、そう、オレに差し出せる物は何か)


(――――最悪は実力行使、…………まぁ、多少は妥協しても良いとしても、ネコ耳カチューシャぐらいなら、でもそれで調子に乗られるとヤバイし)


 睨みあう二人、緊迫感が部屋を支配する。

 理子が拳を握りしめた瞬間、アキラは服を脱ぎだして。


「――――ちょっとっ!? 何で脱ぐのよ!!」


「これがオレの誠意だ、全裸で土下座しよう。そしていつの日か部屋から出られた時にはお前に一生忠誠を尽くす」


「いるかそんなもの!! 冷静になりなさいよ!! 今のアンタは性欲に支配されてるのよ!!」


「性欲に支配されるだろうが!! 理子テメェは自分がどんだけエロい体してんのか分かってんのか!!」


「逆ギレっ!?」


 全裸でギラつく目をし始めたアキラに、その勢いに理子はたじたじとなる。

 彼はその勢いのまま、ガシっと彼女の両肩を掴む。


「ひぃっ!?」


「良いか、良く聞け――お前は女性としてとても魅力的なスタイルをしてるんだ!!」


「ぎゃうっ!?」


「そのロケットおっぱいはなぁ、体育の度に男全員の視線を集めてんだぞ!!」


「し、知らないわよそんなの!! そりゃあ見られてるぐらいには知ってたけど!!」


「いーやお前は知らん!! 普通の授業の時だってなぁ!! 後ろの席のヤツからお前のケツとか太股とか、制服の上からでも分かる巨乳に欲情してんだよ!! オレがどれだけアイツらを牽制してだなぁッ!!」


「そりゃどうもありがとう!! そういう所は好きだから!! でもアンタはどうなのよ!! ――――ぁ」


 うっかり聞き返してしまい、視線を泳がせる理子。

 アキラはうんうんと頷いて、あっさり告げた。


「欲情してないとでも思ったか? 正解だ、お前の事はそんな目で見ちゃいけないと思ってたからな、今思うとエロ本のヒロインに理子の姿を重ねていたかもだ」


「聞きたくないーーーーっ!! そんなの聞きたくなかったわよ!!」


「な、だから……エロビキニで良い、ネコ耳とエロビキニでおっぱいが揺れそうなポーズをしてくれれば良い」


「したらアンタ調子乗って襲うでしょーがっ!!」


「……………………あー…………しないぞ? 多分、一発抜いたら冷静になるぞ? 多分」


「断言しなさいよそこは!!」


 このままだと貞操のピンチだ、確かにこんな状況では性欲も溜まろう。

 理子とて、それぐらいの理解はある。

 だが、こんな形でなし崩し的にセックスまで行く危険性を受け入れる事なんて出来ない。


(で、でも……オナニーさせとかないと、この先もっと危険になるかもだし、う゛う゛っ、なんでそんなに大きくしてんのよぉ!!)


 ちらりと下を向くと、怖いぐらい立派になったアキラのアキラが。


(ああもうっ! わたしだって性欲はあるんだからねっ!! 自分一人だけ辛そうにしてさぁ!!)


 だが、ここは女としてのプライドにかけても口が裂けても言えない。


「――――少し、少しだけ考える時間をちょうだい」


「ああ、良い答えを期待してるぜ!!」


(おっし時間は稼げたっ、後はどうすれば、うー、どうすれば良いのよホントさぁ!!)


 るんるんと待つアキラは、理子を逃がすまいと肩を強く掴んだままで。

 それが一層、彼女の危機感を煽る。


(だ、妥協案……ネコ耳をつければアキラは大人しくなる? いいえ違うわ、絶対に最低でも半裸まで要求する)


 そもそも、オカズ云々で言うならここ数日の事でも思い出せば良いのではないか。

 でもそれを言ったとしても、何かと反論してくる事が容易に想像できる。


(…………腕力でこられたら、わたしに勝ち目はない。そしてアキラにはオナニーさせる、わたしは妥協しない、その為には何かでわたしが上だと思い知らせるコトが必要――――)


 そして今、彼は全裸だ。


(アキラは今、弱点をモロ出しにしてるわ。……でも弱点はそれだけ? コイツの弱点……)


 必死に記憶を巡らせる、少女マンガもアキラの弱点と言えよう。

 幼い頃のおねしょのエピソードなど、恥ずかしい思い出などもそうかもしれない。

 だが、効果が薄い。


(わたしが昔の失敗を知ってるように、アキラも同じくわたしの失敗を知ってるわ、それに子供の頃だとノーカンとか言いかねない。なら……最近?)


 最近だと何があっただろうか、あるにはあるがどれも些細な事で。


(――――違う)


 その時、理子は気づいた。

 この部屋に来たからこそ、露出した変化。


(アキラは……わたしのコトが好き、ええ、一度も面と向かって言ってくれないけど? ……わたしも言ってないけど)


 惚れた弱みとは良く言うではないか、そして先日、理子が襲われたのもきっとそういう事で。

 なら今なら。


(アレが……通じる? うん、イケるかも、今のアキラになら……通じるかも)


 確信半分、これは賭けに近い。

 だが理子へ非常に分のある賭けだ、試してみる価値はある。

 深呼吸をひとつ、女には武器があると瞳を潤わせて。

 ――――まるで、恋する乙女の様に、そしてとある決心をして。


「…………ね、ねぇアキラ……その、オナニー、したいのよ、ね?」


「あ、ああッ」


 その瞬間、肩を掴むアキラの手が緩んだ。

 恥ずかしそうに頬を染め、ウルウルとした瞳でちらちらと上目遣いをする彼女の姿を見てしまったからだ。


「そ、そのね、良いよ、オナニーしても、でも……条件があるの」


「何でも言ってくれ、何でもするから!!」


 ネコ耳カチューシャの出番か、おっぱい丸出しとまでは行かなくとも下乳だけ、或いはパンツとか拝ませてくれるのかもしれない。

 恥ずかしがりながら、そんな姿を見せてくれるのかも。

 そうアキラの心は期待に膨らんで、――その瞬間。


「あ、あのねっ……――――えいっ」


「ひゅッ!? ッ?? ぁ?? ぇ?? ぃ??……………………あ、あのぉ? り、理子さん? 何をしているのでしょうか?」


「ふふふ、見て分からない? 油断大敵って言葉知ってる?」


「オレの予想が正しいのなら、はい、ちょっと止めて欲しいなって、ほら、危険な行為なら例のガスとかありますし、止めた方が良いかなと思うんですよオレは」


 アキラは冷や汗を滝のように流しながら、必死になって懇願する視線を送った。

 とてつもなく最悪な状況だ、思いもしなかった。

 危機的状況過ぎて、性欲が一気に霧散する。


「――――今からわたし、寝るから。アンタはトイレでオナニーしてきなさいよエロ本でも使って」


「その、理子様? 断るとか、理子様のエッチな姿をオカズにしたいなぁって言ったら…………?」


「例のガスが効果を発揮するのと、アンタの金玉が握り潰されるのと、どっちが早いか試してみる??」


 そう、アキラのゴールデンボールは理子の手に握られていた。

 しかも、程良い強さで。

 もはや彼は青い顔で冷や汗を流しながら頷くしかなく、断れば男としての死が待っている。


「――――アンタ一人でオナニー、出来るわよね? ええ、わたしも鬼じゃないから、わざわざ言わなきゃどんな妄想しても怒らないわ。ねぇ? オナニー、一人で出来るでしょ??」


「はい!! どうかオレにトイレで一人でオナニーさせてください理子様!! エロ本を持って行きます!!」


「よろしい、じゃあ行ってきなさい」


「ご命令の通りに!! たっぷり出してきます!!」


 彼女が金玉を解放した途端、アキラは適当なエロ本を掴むとトイレへ走る。

 やれやれと大きなため息を吐き出しながら、理子は背を向けてベッドに潜り込んで。


(な、何とかなったぁ~~~~っ!! 危なかった、マジ危なかったわ、…………わたしも隠れてオナニーしとかないとムラムラして危ないかもしれないわ)


 だが、その方法を考えるのは後だ。

 精神的な疲れからか、理子は睡魔に襲われあっという間に瞳を閉じて。

 その後、すっきりした顔をしたアキラは後悔にまみれながら隣で寝た。

 ――――ところで一方、全てを見ていた天使のオッサンと言えば。


「ふーむ、これはテコ入れが必要で? この二人には娯楽の使用制限と……ぐふふ、アキラはんの性欲の暴走と、理子はんの愛欲を刺激すればもっと尊みエネルギーうはうはの可能性がありまんがな!! 面白くなって来たでぇ!! 今夜は徹夜で色々考えなければ!!」


 二人は天使のオッサンの企みなど知らずに、それなりにグッスリと眠っていたのだった。 


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