自分を信じてくれなかった彼女とは何があっても恋人には戻らない

ハイブリッジ

第1話

『下着泥棒に痴漢……全部○年△組の××くんが犯人(笑) 決定的な証拠写真もあり!!』



 ある日のこと、唐突にクラスのグループチャットへ僕が犯人だという内容の文章が写真と一緒に送られてきた。


 どれも見に覚えがなく嘘で固められていた。写真も全て合成だ。


 だ、誰がこんなひどいこと……。


 翌日、学校に行くとクラス中から冷ややかな目が向けられた。


 その中でも同じクラスで彼女の朝宮星奈あさみやせなからはより一層の軽蔑の視線を向けられた。



「………………最低ですね」



「ぼ、僕はやってない!! 信じてよ星奈っ!」



「近づかないでくださいっ!」



 必死の訴えも星奈に一蹴される。



「私はあなたを軽蔑します。……あなたの彼女であることが恥以外の何ものでもありません。金輪際、私に関わらないでください」



「ま、待って……」




 ◼️




 〈屋上〉



 必死にやっていないって訴えても誰も信じてくれない。


 あのチャット以降、学校ではイジメられ心身共にもうボロボロだ。


 …………もう限界だ。



「何してるの?」



 飛び降りようと決意した時、後ろから声が聞こえた。


 振り向くとそこにいたのは隣のクラスの鷹来翠たかきみどりさんが立っていた。


 鷹来さんはテレビに出ているモデルさんとかより綺麗で学校の有名人だ。



「そんなところにいたら危ないよ」



「……………………放っといてよ。もう無理なんだ」



「ふーん」



 鷹来さんは軽い返事をするとこちらに向かって歩いてくる。



「よいしょっと……」



 飛び降りようとしている僕の隣に座る鷹来さん。



「わあっ結構高いね、ここ」



 鷹来さんは足をパタパタさせて笑っている。



「………………」



「話、聞いてあげるけど?」



 そう言って、鷹来さんは微笑んだ。その顔を見て僕は鷹来さんとはほぼ初対面なのに何故だかわからないけど話してもいいかなと思ってしまった。


 ……もうもしかしたら誰かに聞いてもらってほしかっただけなのかもしれない。



「…………ぼ、僕何もやってないんだ。なのに誰も信じてくれなくて痴漢とか……犯罪者扱いされて、水かけられたり殴られたり、彼女だった星奈にも何度も叩かれたり……もう疲れたんだよ」



「そっか……」



 鷹来さんは僕の話を嫌な顔せず耳を傾けてくれていた。



「…………辛いよね」



「………………」



「やってないのにさ、皆から犯罪者扱い。誰からも信じてもらえない。追い討ちにイジメだもんね」



「……………………鷹来さんも思ってるでしょ」



「ううん。思ってないよ」



「……………………嘘だよ」



「だってやってないんでしょ?」



「……………………うん」



「じゃあ信じる」



「………………どうして?」



「好きな人がやってないって言ってるんだもん。信じないわけないじゃん」



「………えっ? す、好きな……えっ?」



「皆が信じなくて私だけは信じてあげる。だからさ……死ぬとか言わないでよ」



 そう言って鷹来さんは僕の手を優しく取ってくれた。




 ◼️




 屋上で鷹来さんに助けられて何週間後に僕の無実が証明され、イジメもなくなり前の日常が戻ってきた。


 なんでも鷹来さんが色々とやってくれたみたいで本当に頭が上がらない。



「あ、あの……」



「…………」



 星奈が話しかけてきたが無視をする。



「ご、ごめんなさい。わ、私その謝りたくて」



 歩き続けるが付いてくる星奈。



「ま、待ってください、お願いします!」



 構わず歩いていると星奈が歩いている前に割り込んできた。



「私、あなたのことを信じてあげられなくて」



「…………もう関わらないでほしいんでしょ」



「そ、それはその違っ…………ほ、本当にごめんなさい!」



 頭を下げる星奈。僕は星奈には目もくれずその横を通り過ぎる。



「ま、待っては、話を聞いてください!」



「僕は何も話たくない。新しくできた彼氏さんと仲良くしたら」



「や、やめっ……そんなこと言わないで。お、お願いします」




 ◼️




 〈別の日〉



「あっ……」



 下校していると途中で星奈が待っていた。ここ最近毎日こうやって待ち伏せをされている。


 気づかない振りをしてスルーするが隣を歩いてくる。



「あ、あの……私別れたんです」



 聞いてもいないが話し始める星奈。



「あの人、あなたの冤罪を広めた最低な人だったんです。私、そうとは知らずに付き合ってしまって……」



 星奈はチャットの事件以降、クラスの中心人物と付き合っていたらしい。最近まで仲良く付き合っていると聞いていたけど別れたのか……。まあ関係ないけど。



「で、でもあの人とはそういうことは何もしていないので安心してください。あの人前々からキスとか無理矢理しようたするので嫌いだったんです」



「………………」



「ぁ……」




 ◼️




 〈別の日〉



「こ、これ欲しがってましたよね? あなたの喜ぶ顔が見たくてお願いして探してもらったんです」



 今日も帰り道で星奈に待ち伏せをされていた。



「あ、あとこれも……。あの私とあなたが好きなミュージシャンのライブチケット。お父様に頼んでVIP席を用意してもらったんですよ!」



 鞄からチケットを二枚取り出す星奈。



「も、もちろんこれで許してもらおうなんて思ってませんし許されるとも思ってません。で、でも一度でいいのでまた二人でデートをしませんか?」



「…………」



 最近、星奈から昼夜問わずスマホに謝罪の言葉が大量に送られてくる。


 ……正直ものすごく迷惑だ。帰ったらブロックをしようと思う。



「…………」



「ぅぅ……………………」




 ◼️




 〈別の日〉



「……っ!?」



「えへへっ……ご、ごめんなさい」



 鷹来さんと買い物の約束をしているので家を出ると家の前に星奈が立っていた。



「………………」



「ま、待ってください!? あなたに謝りたくて……お、お願いします聞いてください」



 星奈を通り過ぎようとするが強引に前に入られてしまう。



「もういいから。ほっといてよ」



「ほ、本当に申し訳ありませんでした。ど、どうすれば……その、許してもらえますか?」



「許すとかじゃなくて……僕のことはもういいから放って置いて」



「そ、それは嫌なんです。私、もう一度あなたの恋人になりたくて……」



「…………」



「な、何でもしますから! あなたが気の済むまで殴ってもいいですし、性欲の捌け口に使ってもらっても構いません。お、お金だってお父様にお願いすればいっぱいもらえます。だ、だから──」



「そんなの無理に決まってるよ」



「えっ……」



「星奈とはもう恋人になれない。だって信じてくれなかった。あの後学校でイジメられて……死のうかとも思った」



「そ、そんなにも追いつめて…………」



「……僕は星奈なら信じてくれると思ってたのに」



「ぁぁっ……ほ、本当にごめんなさい。わ、私……私はなんてこと……ごめんなさい」



 何度も謝罪の言葉を述べながら涙を流す星奈。



「も、もう絶対あなたを疑うことはしません! 何があっても信じます! お願いします! もう一度チャンスを私にください!」



 深く深く頭を下げる星奈。


 ……今さらそんな言葉を聞いても遅いよ。



「…………ごめん。僕、鷹来さんと付き合ってるから」



「えっ? た、鷹来さん……な、なんで」



「あの時、鷹来さんだけが僕を信じてくれたんだ。他の誰も信じてくれなかったのに、鷹来さんは僕の手を取ってくれた。大丈夫だって信じてるって声をずっとかけてくれたんだ」



 僕が今ここにいるのは鷹来さんのおかげなんだ。



「……もう金輪際僕と関わらないでほしい」



「う、うそ……ですよね」



「さようなら……。もう行かないと」



「い、行くって……も、もしかして今からその人と会う…………い、いや……嫌です、絶対に嫌っ! い、行かないでください!! お、お願いしますお願いします!」



「…………」



「な、なんで……どうして……どうして私、彼を信じてあげられなかったんだろう」














「…………私が悪いんだ。一生かけて彼に償わないと駄目なんだ」




 終わり

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