第17話 壮馬式処刑術

※この話には、今まで以上に残酷な描写が登場します。苦手な方はご注意ください。

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 壮馬達が現場を見渡せる小道に辿り着くと、奏斗達は既にひどい状態になっていた。

 皮膚のあちこちが切り裂かれ、口からは血が滴っている。

 既に重症だが、そんなことはお構いなしに追撃を加える宮崎達によって、さらに危険な状態になりつつあった。


「こいつは……ひどいな」

「まあ、人間が筋切りステーキ肉みたいな扱いを受けることはよくあることじゃないですか。大尉」

「そんじゃ、筋が切られてちょうど旨そうな頃合いになったら助けるか?」

「ちょっ⁉ 大尉‼ 早く助けましょうよ‼ 奏斗達が可哀そうです」

「冗談に決まってるだろ、隼人。さっさと助けるぞ」

「了解」

「……冗談きついですって。大尉」


 壮馬は凛と武の独特のノリに振り回されていた。

 とはいえ、目下の重要事項は奏斗達を助けることである。壮馬は意識を切り替えた。

 見ると、ちょうど宮崎達が逃げるための準備を始めたところであった。

 奇襲の時が近いことを悟って、壮馬は意識を研ぎ澄ます。

 一瞬にして、ハンターの意識に切り替えた壮馬はその瞳に無機質な攻撃性を湛えた。


(ほう、いい目だな。まだまだ粗削りだが、素材は良質だな)


 武は壮馬の様子を見てそう思った。

 隣を確認すると、凛も硬質な針山のような攻撃の意識を全身から発していた。


(こいつは相変わらずおっかねぇな。まあ、良い感じに仕上がっているな)


 二人の様子を確認した武は二人に話しかけた。


「よし。隼人、凛。俺が挙げた手を下した瞬間に突入しろ。隼人は左半分の2人、凛は右半分の2人を担当して、それぞれ救出しろ。俺は左端で戦っているリーダーを助ける」

「「了解」」


 そうして、壮馬達は静かに奇襲の瞬間を待つ。

 宮崎達が荷物を抱えて、互いに相談し始める。

 健太と戦っている男の指示を待っているようだ。

 状況を分析した武は、相手が確実にこちらに対応できない瞬間……彼らが奏斗達を始末しようとするギリギリの瞬間まで待ち、やがてその手をゆっくりと挙げた。

 壮馬と凛が武器を構え直す。

 そして……武が手を降り下ろした。


 その瞬間、壮馬と凛は跳躍し、現場上空付近にあった小道から奏斗達の戦う小道まで一気に降下した。

 着地した瞬間に壮馬は宮崎の剣を弾き飛ばし、その反動で吹っ飛んだ宮崎に肉薄すると、その右腕の筋肉を正確に切り裂く。

 その上で、腹に向かって思い切り蹴りを入れて吹き飛ばした。


「ガハッッッ⁉」


 宮崎はその一撃で臓腑を痛め、口から血を盛大に吐き出した。

 そのまま軸足を回転させて、反対の足を踏み込むと、再びスキルを放って高速移動し、明人を殺そうとした姿勢で驚き固まった、宮崎の取り巻きの一人の腕を軽く切り裂く。

 剣速の風圧で姿勢を崩したその男の正面の腹に回し蹴りを叩き込み、宮崎と同じ方向へと吹き飛ばした。


「げほっ、おえっ、がっ、はっ……な、なにが、起きた?」

「げほっげほっ……だ、誰だ、あいつらは?」


 壮馬は近くで奏斗達の様子を確認した。

 死んではいない。だが、意識を失っている。とてつもなくひどい怪我で、すぐに治療が必要だった。

 壮馬は奏斗達に手持ちの回復薬をかけて応急処置をすると……笑顔を浮かべた。

 ただし、その内心には激怒と表現するのも生ぬるい殺意が宿っていた。

 壮馬はさんざん自分を痛めつけ、妹を奪おうとし、挙句の果てに親友達をここまで傷つけた宮崎達に対し、激しい殺意を覚えたのである。

 この瞬間、壮馬の中で宮崎達は、処刑すべき悪魔となった。


 壮馬は、重傷を負った宮崎達に、ツカツカと歩み寄りながら、宮崎達に話しかけた。


「よぉ。誰だか知らないゲス野郎。俺の名前はお前ら如きに名乗るべき名前じゃない。だが、あえて言うなら、俺は他人をいじめるゲス野郎が大嫌いなジェントルメンだ。覚えておけ」

「な、なんだと……」


 宮崎が、意味が分からないといった様子で壮馬の自己紹介を聞いた。

 なんだこのカッコつけた野郎は。イケメンだしなんかムカつく。というのが宮崎の素直な感想であった。

 

「ついでに言うとな。どんな時でもメリットを優先して動けるクールガイだ。お前らみたいな低俗な動機で動いたりしない。その俺が、お前ら低俗共に教育をしてやるのが社会のためになるだろうと判断した。その意味が分かるか?」

「さっきから、何一人でごちゃごちゃ言ってんだ‼ わけわかんないこと言ってないで、どっか行きやがれ‼ 俺達の邪魔をするな‼」

「ほらね。やっぱりそうだ。分かってないなら教えてやるが、お前ら幼稚なボンボン共に、お仕置きをしてやるって言っているんだよ。本当はお前らのような紙切れほどの価値もない生ける害悪みたいな愚か者への教育なんて面倒だから引き受けたりしないんだが、今回は別だ。お前らは先ほどの蛮行をもって、無視しても構わないただの害悪から無視できない全人類の公害へと変わった。だから、今回は特別に俺が教育してやるってわけだ。理解したか?」


 そこまで言った時には、壮馬は宮崎達の目の前に辿り着いていた。


「さて、レッスンを始めよう。レッスン1。『やられる覚悟がないならやるな』。ジェントルメンな俺からのありがたい言葉だぞ? そのちっぽけな脳みそにちゃんとメモしておけ」

「な、何なんだよ‼ 何が言いたいんだよ‼ ちくしょう。こうなったらこっちからやってやる‼」

「はい、メモの時間終了。次は実践を交えて学んでみようか。さて、君はあそこで伸びている善良な彼らに何発蹴りをお見舞いしたかな? え? 分からない? じゃあ、俺が教えてあげるからよーく数えろ。その体でな」


 そこで壮馬は異空間から予備の剣を取り出すと、両手に二本の剣を構え、引き絞った。

 腹の痛みでうまく動けない宮崎達はその様子に何が行われるのかを悟り、全身に恐怖が駆け巡った。


 「や、やめ、やめろ! やめろよぉぉ‼」


 その次の瞬間。

 刺突の嵐が宮崎達を襲った。

 


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼


「「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼‼‼‼」」



 流星群のように降り注ぐ刺突は、宮崎達の急所を確実に避けて、その体の正面から背中までを確実に貫通しながら、布に糸を縫い付けるミシンのごとく瞬時に彼らの体を穴あきチーズに変えた。

 宮崎達の悲鳴はこの世の全ての苦痛をまとめて味わったかのごとく悲痛な物であった。


 やがて剣閃の嵐が収まると、宮崎達はもはやボロ雑巾よりもボロボロの状態であるのに意識だけは残っているという奇妙な生物になり果てていた。

 そんな宮崎達に壮馬は回復薬をかける。

 宮崎達の穴あきになった体が徐々に回復していく間に、壮馬は更なる「教育」を続けた。


「さて、第1のレッスンの答えは58発でした。ちなみに計算は適当だ。しょうがないよな? 一部始終を見てなかったんだから。でも君達はまだまだたくさんゲスなことしているみたいだし、この程度で済んでいるのはむしろ甘い判断だな。あ、改心してちゃんと教育を受けたくなったらいつでも言ってくれよ。ちゃんと計算して君達の体に『教育』してやるからな」

「ヒィィィィ‼ た、助けてくれぇぇぇぇ‼‼ 誰かぁぁぁぁ‼‼」

「さて、第2のレッスンを始めよう。レッスン2。『謝る時は徹底的に自分の非を認める』。さあ、今度はうまくできるかな? ちなみにこのレッスンの推奨年齢は5歳! 君達の精神年齢では少し難しいかな?」

「ヒィィィィィィィ‼ す、すいませんでしたぁぁぁぁ‼ お、俺達が悪かったぁぁぁぁ‼ だから、だから、痛くしないでぇぇぇぇ‼‼」

「んー、50点! 徹底さが足りないな。自分達を卑下するのを忘れているぞ。せめて『無駄に肥え太ったのに味は賞味期限の切れた豚肉よりもマズイ家畜以下のごく潰しでした』くらいの非の認め方じゃなきゃダメだ。落第点だな」


 そこで壮馬は、一旦言葉を切り、ニヤリと笑って続きのセリフを言った。

 この頃には宮崎達の体は、まだ穴がふさがり始めた段階であり、完治していなかった。

 しかし、そんなことには構わず、壮馬は彼らに更なる苦痛を宣告した。


「さて、謝ることに失敗したらどうなるか知っているか? え? 知らない? じゃあ、今回も体を通して教えてやろう。というわけで、第二ラッシュの時間だ」

「や、やめ、やめてぇぇぇアアアアアァァァァァァァァァァァァァ‼‼‼‼‼」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼


 再びの剣閃の嵐に、宮崎達の体はハチの巣状にくり抜かれた。

 二度目の激痛を経て、彼らの意識は既に許容限界を超え始てしまった。


「あ……あぁ……あっ……」

「うっ……あっ……」

 

 そんな呻きを最後に彼らの意識は闇に沈んでいった。

 そこまでやって、壮馬はようやく冷静に戻った。

 冷静になった頭で今しがた行った自分の言動を思い返して、内心ひきつった笑みを浮かべた。


(や、やばい。意識を刈り取ってしまった。てか、さっきの俺のどこがクールガイなんだ! こんな暴力的な姿、日葵には絶対に見せられない!)


 少し離れたところで宮崎の取り巻きを無力化していた凛は、壮馬が冷静になったことを見計らって話しかけた。


「落ち着きましたか? 鬼畜ジェントルメン」

「……それ、俺のこと?」

「もちろんです。彼らだって一応人ですよ? やり過ぎでは?」

「……それは俺も自覚している。ちょっとこいつらへの長年の鬱憤が爆発してしまったんだ」

「人は怒った時にその本性を表すと言いますが、あなたの場合は嗜虐趣味のサディストですね」


 凛はやれやれといった感じでため息を吐いた。

 と、そこで武が空中を跳躍して壮馬達の所にやってきた。

 遠くを見ると、武と戦っていた男は宮崎達を見捨てて既に逃走を開始していた。


「……隼人。遊び過ぎだ。お前は後で反省会するから覚悟しとけ」

「はい……」

「よし。凛と隼人はこのまま基地に帰還しろ。こいつらはセブラだけはぎ取って、残りは放置で構わん。リーダーが作戦通り逃げた以上、こいつら自体にはもはや戦略的価値はない」

「了解」


 そうして、壮馬の初仕事は終わった。

 失敗はあったものの、無事、奏斗を助けられたことに壮馬は安堵した。

 一度だけ奏斗達の方を振り返ってから、壮馬は凛と共に元来た道を戻り始めた。





——————

【あとがき】

 ここまで読んでくださってありがとうございます。

 今回のエピソードですが、壮馬の暴力的な言動に正直不快に思われた方もいたのではないかと思います。作者としてもどうするべきか悩んだのですが、実験的な意味も兼ねて投稿させていただきました。

 不快だった方もそうでなかった方も、もしよかったら意見等を応援コメントでいただけるとありがたいです。別にこのエピソード以外のエピソードに応援コメントをつけるという手法でもいいので。作者は未熟なので、皆さんのコメントがあると非常に参考になります。

 それでは失礼します。



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