014 後部座席に飛び込む

「うわわわわわっ!」

 それでも、逃げる以外の選択肢はない。息が上がり、足が上がらない。

 遠くに公園の入口が見えてきた。車が一台停まっている。

 便利屋のオープンカーだ。運転席には便利屋が乗っているのが見える。

(助かった……!?)

 そう思った瞬間、車は動き出した。運転席の便利屋はバイバイという身振りで、手を振っている。

(ええええ──!?)

 佳穂は無我夢中で便利屋の車を追いかけた。

(なんで──!?)

 スピードはすでに限界だ。下り坂に足が笑っている。

 それでも、逃げる。前へ──逃げるんだ。

 気持ちが、勝手に体を動かした。

 風を掴み、前へ──!


 佳穂の体が浮き上がる。

 ドサッ!

 佳穂はオープンカーの後部座席に飛び込んだ。

「……ってててて」

「お、おお前──! なななんなんだ!!!」

「なんで!? なんで、逃げるんですか!?」

「知るか! あと3分くらい自分でなんとかしろ!」

「3分もですか!?」

「うるせぇ! ってえか! お前、なんでそこに乗ってる!? せっかく掃除したのにまた吐く気か!?」

「私、飛べるんです! この羽根で!」

 佳穂はバタバタ翼を振ってそう答えた。

「はあ?! なら飛んでにげろよ!! 降りやがれ!」

「嫌です! 便利屋さんこそ、助けるつもりがないなら、なんでここに来たんですか!?」

「知らねえよ! お前、変身してから性格変わってねえか!? 大体、お前が負けたら修理代が出ねえだろうが! コイツの!!」

 便利屋はそういうと車のボディをポンポンと叩いた。

 ゴン! ゴン!

 ひどい音がした。

「あーっ!? くそったれ!」

 バイクの女だ。

 追いついて来て、またもや蹴りを入れたらしい。

 便利屋はたまらずハンドルを切る。タイヤの軋みをあげながら、便利屋の車は広い通りに躍り出た。本牧通りだ。女のバイクも当然付いてくる。

 だが、それを待っていたかのように、もう一台のエンジン音が迫ってきた。山の上で見かけたバギーだ。

「姐さん!」

「大丈夫ですか!?」

「姐さん言うな! あと残り何分!?」

「残り、2分15秒!」

 助手席の男が答える。

「くっそう! もう終わりか! ハツ、ガツ! 挟み撃ちするよ!」

 バイクとバギーは二手に分かれ、オープンカーの両脇に並んで走る。

「ハツ! 捕まってろよ!」

 運転席の男が叫ぶ。

 バギーは、急ハンドルを切ると便利屋の車に体当たりした。

「ひゃあああ!!!!」

「うわあああ!!!!」

 頑丈なバギーのロールバーの衝撃がはっきり伝わってくる。

「くっそおおおお!!!」

 便利屋は、アクセルを思いっきり踏み込んだ。オープンカーはうなりをあげて加速する。急ハンドルで細い通りに入ると、2台の車とバイクは山手へ向かう坂をかけのぼった。

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