第5話、えっちなコスチューム

 マンションの一室の前で姫川さんは立ち止まる。

 姫川さんの部屋のドアには鍵穴がなく、代わりに指紋認証装置が設置されていた。


 彼女が自分の親指を押し当てる。すると機械音が鳴り響き、扉がゆっくりと開いた。


「ささ、上がってー」

「お、おじゃまします……」


 玄関には女の子らしい小物が並べられており、とても綺麗に掃除されていた。


 こうして異性の家の中に入るのは初めてで緊張で足が震えてくる。そんな僕の事を見ながら姫川さんはくすっと笑った。


「そんなに硬くならないで良いからさ。一人暮らしだからわたししか居ないし安心してよ」

「そ、そっか。それじゃあ遠慮なく……」


 姫川さんは僕を部屋の中へ案内する。


 その部屋もやはり僕の家とは全く違い、まるでモデルルームのように整頓された清潔感のある空間が広がっていた。しかし床には美少女フィギュアやタペストリーなどが無造作に置かれているので、そのアンバランスさがまた不思議な魅力を生み出している。


「ご、ごめんね。本当は掃除しないといけないの分かってるんだけど……衣装作るのが忙しくてなかなか手が回らなくて」

「へえ凄いね。自分でコスプレに使う服まで作ってるんだ」


「うん。やっぱりこういうのって徹底的にこだわりたくて。床に転がってるフィギュアとか、あれを参考にしてるんだよ?」

「え、そうなの……?」

 

 僕はもう一度、床に置かれた美少女フィギュアをまじまじと見る。どのフィギュアも際どい服装をしていた、短いスカートに胸元は大きく開いていて谷間が見えるようなデザインだったり、中には大切な部分だけを隠したほぼ全裸のような格好をしているものもある。


 そしてエロコスプレイヤーSaraが撮ったコスプレ写真と同じ服装をしたフィギュアもあって、姫川さんの言っている事は全部本当なんだと思い知らされる。


「えっと……それで、姫川さんが今日着るっていう服装はどのフィギュアと同じなの?」

「まだその服装のフィギュアは発売されてなくてさ。来月発売だったかな……でも待ち遠しくて我慢出来なくて、ゲーム画面をスクショしてスマホの画面を見ながら作ったの」


「そ、そこまで好きなんだね」

「えへへ。もう本当に可愛くてえっちなの。それでめちゃくちゃ時間かけて丁寧に作ったんだから。武森も期待してて、それと絶対に良い写真撮ってよね」

「う、うん……出来る限り頑張るよ」


 自信満々な様子で語る彼女に圧倒されつつ、僕は小さく返事をした。


 それから姫川さんは着替えをする為にクローゼットを開ける。そしてハンガーラックにかけられていた衣装を手に取った。


 それは僕が今までの人生で一度も見た事のないえっちな服だった。黒い生地に白いレースをあしらった透け透けなデザインのキャミソールとガーターベルトにストッキング。そしてブラジャーは大切な部分がぎりぎり隠れる程度の超マイクロビキニで、ショーツに至ってはもはや紐にしか見えない代物だ。まさかあれを着るのかとドキドキしながら見ていると、彼女はその服をまた元の場所に戻していた。


「あは、今の着るかと思ってびっくりした?」

「び、びっくりしたよ……今のほとんど裸になりそうな服だし……」


「ふふ、残念ながら今日はこれじゃないんだ。武森が上手に写真を撮れるようになったらお願いしよっかな。ほら、今のってぎりぎり過ぎて危ないでしょ? 何枚も写真撮ったのに大切な所が見えててボツになったら勿体無いし」

「確かに……僕の写真撮影の技術が試されるってわけだもんね」

「そそ。まだ初めてだしこれからーって事で。それで今日着る衣装はこっち!」


 そう言って姫川さんは別の衣装を取り出す。


 それは公園で彼女が言っていたように、一見するとチャイナドレスのようにも見えた。けれど胸を隠す布がない、下半身だって超ミニで股の間は上手く隠せているものの、そのまま着たらパンツが見えてしまうだろうというギリギリのラインだった。


「どう? 可愛いでしょ? アズレンのシリアスってキャラが着てる春節仕様の特別な衣装なんだ」

「か、可愛いけど、めちゃくちゃ露出度高いっていうか……胸を隠すのはどうするの?」

「あ、だいじょぶだよ。おっぱいを隠すのには別のパーツがあるの、それがこれね」


 そう言って姫川さんはクローゼットの中から細長い布を二枚取り出していた。それを胸に被せて上手に大切な部分を隠すそうで、胸元に金具で取り付けてそのまま布を垂れ下げる仕組みになっている。しかしこんな薄い布で隠すだけじゃ心もとないのは当然に思えて、僕は慌てながら姫川さんに問いかけた。


「あ、あのさ、その布の下ってもちろんブラジャーとかするんだよね……?」

「え、しないよ。この布をおっぱいにそのまま被せるだけだよ」


「えぇ!? そんなの危なくないの?」

「だいじょぶ。激しく動かなきゃズレないし、布の先端に重りになる飾りが付いてるの。これがあるからちょっとくらいなら動いても平気なの」


「じゃあニプレスとかを付けて隠すって感じ……?」

「外で着るならそうするかな、万が一もあるし。でもねゲームのキャラクターは下にニプレスとか絶対に付けてないと思うの。やっぱりコスプレするならさ、そのキャラクターの事をリスペクトしたいから、こういうのは出来るだけ再現したいんだ。それに室内の撮影だし写真はちゃんと隅々までチェックしてからアップするから、安心してね」


「そ、そういう問題なのかなぁ……」

「そういう問題! わたしなりのこだわりなの。それじゃあ着替えてくるから武森はここで待っててね!」


 そう言い残して姫川さんは隣の部屋に入っていく。僕はそんな彼女の後ろ姿を眺めながら、えっちな衣装に身を包む姫川さんの魅力を引き出す写真を撮れるのか、不安を覚えずにはいられなかった。

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