【完結】隣の席の陽キャJKが超有名なエロコスプレイヤーだって事を、この世界でただ一人、僕だけが知っている

そらちあき@一撃の勇者、第二巻発売中!

第1話、えっちで可愛い姫川さん

姫川ひめかわさんだよね、こんなところで何してるの?」

「んえっ……!!!???」


 僕に後ろから声をかけられて、彼女はびくっと肩を震わせる。


 さっきまでとは明らかに違う様子で振り向いた彼女は、マスクをしていてもやっぱり見間違いようがない程に美しかった。


 彼女の名前は姫川セラ。


 透き通るような白い肌、ぱっちり二重の大きな碧い瞳、そして整った目鼻立ち、マスクの下の頬はほんのり赤く染まっている。彼女の片親がイギリス人という事もあって、日本人離れしたその容姿は絶世の美少女といった感じだ。親譲りのブロンドの髪がキラキラと煌めいていて、まるで天使か女神でも見ている気分になる。


 制服姿じゃない彼女を見るのは初めてだが、それでも目の前にいる女の子が姫川さんだってことはすぐに分かった。姫川さんのほうも僕の事をちゃんと認識したようで驚いた表情のまま固まっている。


 クラスでは隣の席だけどあまり話した事はないし、特に親しい関係というわけではない。けれど、挨拶したらいつも返してくれるくらいには知り合いだったはずだし、無言のまま固まってしまうなんてどうしたんだろうと、僕は思わず苦笑いを浮かべながら質問を繰り返した。


「ねえ姫川さん、何してるの?」

「……っ、あ、あんた……武森たけもり? ど、どうしてここに……?」


「妹に買い物頼まれちゃってさ。初めて来たんだけど、凄い所だねここ。人が大勢いて」

「は……初めて? ていうか何で、マスクだってしてるのに……わたしって分かったの?」


「え。確かにマスクしてるし服装も学校とは全然違うけどさ、席だって隣だもん。すれ違ったらすぐに分かったけど? それにしても姫川さんってばすごい格好してるね。なんかバニーガール? 青い服に網タイツ履いてるみたいだけど。うさ耳のカチューシャすごく似合ってるね、可愛い」

「っ……! み、見るなぁ!!」

「うわっ!」


 彼女は突然、顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。いきなりだったのでびっくりしたが、よく考えれば別に僕に見られること自体は問題ないはずなので怒られる理由がよく分からない。確かに肌の露出度が凄くて少し目のやり場に困ってしまうけど。


 姫川さんは胸元を隠して背中を向ける。でも似たような格好をしている人はこの場所にたくさんいるし、姫川さんだってこの衣装で人前に出ることに抵抗があるわけでもないはず。それなのに彼女はマスクの下で顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。


 その様子を不思議に思って僕は首を傾げていた。まあ確かにクラスの女子がこんな格好してたら、みんなびっくりしてしまうだろうけど――この『コミケ』というイベントでは、姫川さんの格好も別に珍しいものではないようなのだ。


 妹に頼まれて初めてやってきた『コミケ』というイベント。お祭りみたいな雰囲気でアニメやゲームのキャラクターに扮した人がたくさんいる。姫川さんみたいな露出度の高い服装の人だって大勢いるからそこまで恥ずかしがることは無いと思うんだけど。


 そんなことを考えていると姫川さんは背中を向けたまま震えた声で呟く。


「た、武森……こ、この事は黙っていてよね……。わたしがコスプレしてるなんて知られたら、学校中の噂になって大変なことになるんだから……」

「そっか、うん。わかったよ。誰にも言わないようにする」


「ほ、本当だからね……!? 絶対だよ……!!?」

「うんうん、口は堅い方だし大丈夫だって。じゃあ僕は帰るから。それじゃあまた学校でね」


 そう言って僕は手を振った。そんな僕を見ながら姫川さんは何か言いたそうな表情をしていたけれど、僕はそのまま踵を返し足早に立ち去る。


 体調不良で家から出れない妹に頼まれていた『ドウジンシ』っていう漫画本も買えたし、後は早く帰ってあげるだけだ。


「それにしても『コミケ』って凄いなあ。人も大勢だし、仮装している人だっていっぱいいたもんなあ。それにしても姫川さん可愛かったなあ」


 東京ビッグサイトの国際展示場を眺めながら僕はそう呟いた。コミケ――アニメや漫画の祭典だと妹から聞いていたが、訪れた人達の熱気は凄まじいものだった。人の波に押し潰されそうになってびっくりした。


 高校二年の夏休み、初めて訪れたこの場所で色んな経験が出来たなと今日の事を思い出す。


 でも――この時の僕は知る由もなかった。

 どうしてあの時、姫川さんが僕に向かって怒鳴ったのか。


 この『コミケ』というイベントが一体何なのか、そして姫川さんが何の目的であんなえっちな服装をしていたのか、その事を僕は全然知らなかったのだ。


 そして夏休みが明けた後、僕の運命は大きく変わる。


 それがまさかあんな事になるなんて――今の僕は思いもしないまま、夏の香りを感じながら帰路についたのであった。

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