おまけ:帰り道

部長に呼び出されたせいでまだ足が震えている。

あの人はなぜあんなに怖いのに変態なのだろうか。


俺はなんだかいろんなものを失った気がして、帰路に就く足取りもいささか重い。


引きずった足でエレベーターを1階で下り、広いロビーを抜けて自動ドアから外に出た。突然車のクラクションや街行く人の声が耳に入ってきて、少し頭がくらみそうになる。


「ゆ、勇くん!」


不意に背後から明るい声がして振り向くと、水瀬先輩だった。先輩も今帰りのようだ。俺は「お疲れさまです。」と一言挨拶して、そそくさと駅の方へ歩き出す。


「ちょ、ちょっと、待ってよ。なんかすごい偶然だね!!」


いやあなた、絶対待ってたでしょう。

あまりにも偶然を装うのが下手すぎる。というか、水瀬先輩は演技自体が下手なようだ。


水瀬先輩はふと俺のコートの端を引っ張って歩くのをとめた。俺は張り切りすぎた散歩中の犬がリードの存在を忘れていた時のように仰け反って先輩の方を向かされる。


「ねぇ、勇くんは私のこと嫌いですか?」

「き、嫌いじゃないですけど…。」


さっきの怪力に驚きすぎて、水瀬先輩の可愛さに気づく余裕がない。先輩は荒れる髪を耳にかけて抑えながら、ニコッと笑みを漏らした。


「じゃあ、一緒に帰りましょうよっ!」

「は、はぁ…。」


この日、俺は生まれて初めて女子と帰り道を共にした。



*



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