第10話 明かされた真実…

 僕達の目の前には、魔王ヴァルサリンガが立っていた。

 この状況はどう見てもマズい状況だった。

 魔王軍の幹部を前にしたルットやロット…それにリットですら震えて動けずにいた。

 僕はとりあえず魔剣シーズニングを構えて、塩に聖属性を付加して水と混ぜ合わせたホーリーウォーターセイバーを作りだしていた。

 

 『そう身構えるな! 我は魔剣シーズニングを持つ者を見定めに来たとは言っていたが、何も戦おうという訳では無いから安心しろ!』

 「先程の勇者達のパーティーを皆殺しにしておいて…そんな話を信じろと?」


 僕は先程勇者達が戦っていた場所を見た。

 死体が無い程に消滅させてあったので、グロい状態を見る事は無かったのだが…


 『ふむ…確かに、そうは言っても信じられぬ…か?』

 「幹部の仇と言って殺されるかもしれない相手に、武装を解除する程、間抜けじゃないよ。」

 『いやいや、本当に何もしないさ…魔剣シーズニングを持つ者がどんな奴かを見定めたかっただけ…?』

 

 魔王ヴァルサリンガは、僕に対して魔法を放った。

 すると…特に何も感じなかったが、妹達は僕を見て驚いた顔をしていた。


 『フッ…やはりな! そうか…そうだったのか⁉ フフフフフ・・・ハーハッハッハッハッハッハーーー!!!』

 「な…何がおかしい?」

 『いや…スマンスマン! そうか、そういう事だったのか!』

 「何を言っているのかは分からないけど、妹達には手を出さないでくれ!」

 

 僕は妹達を庇いながら言った。

 すると魔王ヴァルサリンガは、妹達を見て言った。


 『そこの娘どもか? 安心しろ、興味は無い…が、妹達か! 魔剣シーズニングを持つ者よ、お前はその娘どもと血縁があると思っているのか?』

 「どういう意味だ⁉ ここにいるのは僕の妹達だ‼」

 『お前は何も聞かされていないのか? お前とその娘どもに血縁関係は無い! お前は…我が魔剣シーズニングを封印した遺跡にいたオーブに入っていた赤子だからだ!』

 「嘘だ‼」

 『嘘では無い…その証拠に、お前の髪と瞳は黒いだろう? この世界には黒髪や黒い瞳の人間は存在しないからな!』

 

 僕は妹達を見た。

 すると、妹達は僕を見て頷いていた。

 そしてロットが鏡を取り出して僕は映った僕を見た。

 すると、茶色だった髪の色は黒くなっていて、瞳も黒だった。


 「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だぁ~~~~!!! 僕の黒髪は、祖父譲りの物だって…ギルマスが言っていた!」

 『なら、その男が偽りを申したのだろう…お前を発見した場所は、何持たぬ民の神殿で見たのだからな…間違いない‼』

 「何持たぬ民?」

 『何持たぬ民は、生まれながらにしてジョブを持たぬ民で…スキルのみしか持たぬ民と聞いていた。 まぁ、その力の弱さゆえに滅んだという話だがな。 まさか、その生き残りがいたとは!』

 

 もしも魔王の話が本当だとすれば…僕がジョブを持たないでスキルだけしか持っていない理由に説明がつく!

 という事は…僕は本当に…父さんと母さんの子供では無く、リットやルットやロットは妹ではない…のか⁉

 信じていた物が…僕の信じていた物が………


 「お兄ちゃん! しっかりして‼」

 「そうよ、例え血が繋がっていないとしても、私達はお兄ちゃんの妹だから!」

 「お兄ちゃんは私達の優しいお兄ちゃんだよ!」

 「リット…ルット…ロット…」

 『ほぉ…血の繋がらない娘どもの言葉で我に返ったか…』

 

 そうだ…僕達は兄妹だ!

 例え血の繋がりは無かったとしても、これまで生きて来た人生で一緒に暮らした時間は嘘じゃない!

 僕は…心の底からそう思ったのだった。


 【封印の第一段階が解除されました。 構えて念じろ、テクニカルセイバー!】

 

 僕はテクニカルセイバーを念じた。

 ホーリーウォーターセイバーは解除されて、魔剣シーズニングから緑の刀身が現れたのだった。

 そして時が止まった様な感覚がしてから、体が勝手に動いて…気付くと魔王の後ろに立っていた。


 『お前…何をした⁉』

 

 僕は魔王ヴァルサリンガの方を見ると、左腕と左の角を斬り落としていた。

 僕は魔王ヴァルサリンガに向かって剣を構えた。


 『その剣の輝きは…まさか、お前…魔剣シーズニングの封印を解いたのか⁉』

 「封印の第一段階って、シーズニングの事だったのか…」

 

 僕は再び魔王ヴァルサリンガに斬り込みに行こうとした。

 だが、魔王ヴァルサリンガは…左腕を拾い上げると…


 『魔剣シーズニングを持つ者よ、忘れぬぞ! この屈辱を…』

 

 そう言って姿を消して行った。

 辺りを見渡すが、そこには既に魔王ヴァルサリンガの気配は無かった。

 僕は急に力が抜けて座り込んだのだった。


 「お兄ちゃん、魔王は?」

 「どうやらもういないみたいだ?」

 「なら帰ろう! 私達の家に…一緒に!」

 「本当の兄妹じゃない僕を…まだお兄ちゃんと呼んでくれるのか?」

 「お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん!」

 「私達のお兄ちゃんには変わらないよ。」

 「お兄ちゃん、早く帰ろう!」


 僕は妹達に連れられてその場を去った。

 そして冒険者ギルドに寄り、魔王が現れた報告と勇者2人のパーティーが魔王に殺された事を報告した。

 僕はライラさんにギルドマスターに言伝がある事を告げて、その場を去った。

 多分、ギルドマスターと話が出来るのは当分先になるだろうからだ。

 期待されていないとはいえ、勇者2人が魔王に殺されたのだ。

 それは世界中に伝えなくてはならない、緊急の案件で当分の間は忙しくなるからだった。

 僕達は冒険者ギルドを出て、家に向かった。

 そして家に着くと妹達は、普段と変わらず接してくれたのだった。


 勇者2人…知の勇者と魔の勇者が魔王ヴァルサリンガに殺された事は瞬く間に世界に広がって行った。

 ギルマスは当分忙しくて、話をする暇は無かった。

 そしてしばらくすると事態は落ち着いてきて、ギルマスのテスタおじさんとライラさんは家に来た。

 それはあの報告から、10日後の事だった。

 僕は魔王ヴァルサリンガに言われた事をテスタおじさんに話すと、テスタおじさんは父さんの遺言状を見せてくれた。

 

 そこには…まだ明かされていない文章があるのだった。

 その内容とは?

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