第9話 出会っている筈なのに・後編

 間抜けな勇者2人のパーティーはいま…キングディライノスが見える位置にいた。


 「あれって…バーゲストじゃないよな?」

 「あれがバーゲストに見えるのなら、病院に行け! どうみても、災害クラスの化け物じゃねぇか⁉」

 

 この間抜けな勇者2人は…さすがに自分の力量を心得ていて、それ以上前に進む事は無かった。

 ここで1つ明かすと、この間抜けな勇者2人のレベルはというと…?

 ジーニアスがレベル28でウィンザーはレベル26だった。

 逆にキングディライノスのレベルは、推定100台クラスだった。

 ただし…それも勇者2人の目線での話だが…?

 なので、どうみても勝てる訳がないのである。


 「英雄の…名前は解らないが、1つ気付いた事がある!」

 「なんだ?」

 「英雄とはいっても所詮は冒険者だ…ならば、依頼の為に冒険者ギルドに寄るだろう?」

 「それ…今思い付いたのか? なら、お前は何で待っていなかった?」

 「君が抜け駆けしようとして飛び出すからだよ。」

 「なんだ、俺の所為かよ?」

 『グルルルルルル‼』


 間抜けな勇者2人は、唸り声を聞いてその場から一度立ち去った。


 「なら、冒険者ギルドで張るか?」

 「島国とはいえ、ここは広いからね。 その方が得策だろう…」


 間抜けな勇者2人は街に帰ろうとしていた。


 ・・・・・・・・・一方、冒険者ギルド内では?・・・・・・・・・


 テッド達は冒険者ギルドに帰っていた。

 草原で無事にラビットを捕獲したので、ギルマスやライラに獲りすぎた魚を分ける為に来ていたのだった。


 「テッド…そういえば、勇者を名乗る2人がお前等を探していたぞ!」

 「僕達…を?」

 「何でも剣聖や魔人や聖女を仲間に引き入れるとか言ってやがったらしい。」

 「妹達を? あ、上位ジョブ狙いか…」

 「恐らくな…だが、ここにいる冒険者達は、誰一人としてテッド達の情報を漏らしてはいない。 それに、奴等が聞いて来ても素性は明かさない様に伝えておいたので漏れる心配はないだろう。 街の住人達までは口止めしていないから安心は出来ないがな!」

 「そうですか…こちらでも注意しておきます…が、家に尋ねに来たりはしませんよね?」

 「その懸念も無くはないが、勇者とはいえ冒険者には変わらないからな! その辺の分別はあるだろう。」

 「わかりました。 当分の間、家から出ないようにします。」


 そう言って僕達は冒険者ギルドから出た。

 そして入れ違う様に、勇者2人のパーティーが入って来た。


 「ここに英雄達は帰って来たか?」

 「あぁ、先程までいたが…また狩りに行くと言って出て行ったな。 帰りは1週間後という話らしいが…」

 「また空振りか! どうなっていやがる‼」

 「失礼…英雄たちの特徴を教えてはくれまいか? 僕達は彼らの姿を知らないんでね…」

 

 冒険者達は勇者達にに話した。


 「この街の英雄様は、年齢は12歳で、剣聖様は11歳、魔人様と聖女様は10歳の子供だ。」

 「はぁ? ふざけているのか⁉ そんな子供に魔王の幹部が倒せる訳がないだろ⁉」

 「おい、オレは嘘を言ったか? へへへ…」

 「い~んや、真実しか話してないな…キヒヒ…」

 「コイツ等、正直に話す気は無いらしい…」

 「そうだね、この冒険者の話を聞く限りだと…やはり今から草原に戻るか?」

 「1週間後ならな、その方が合う確率も高いだろ? それに夜の移動はあまりしたがらないし、野営をしているだろうからすぐに見付かる筈だ!」


 そう言って、勇者2人とそのパーティーは出ていった。

 冒険者達はニヤリと笑うと、奴等が出て行った扉を見て言った。


 「俺達は誰一人として嘘はついてないよな?」

 「あぁ、全部真実だ!」

 「まぁ、普通に考えて…正直に話した所で他所から来た者は信じないわな! 俺達だって最初は信じられなかったんだから…」

 「だが、これで…奴等は1週間は街には帰って来ないだろう。 テッド達にも平穏が訪れるだろうな…?」

 「だが、誰か知らせないとテッド達は知らないままだろ? 誰か伝えに言ってやれ!」

 「それは、俺とライラが行くので安心しろ! それと、今日はテッド達が魚を捕まえてきて、職員だけでは喰いきれない量があるので酒場の厨房に卸しておいた。 ん~? まぁ、貰い物だしな…お前等、好きに喰え! 褒美だ。」

 「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」


 冒険者ギルド内は宴会と化し、ギルマスとライラはテッドに家に赴いた。


 「テッド、俺だ!」

 「あ、ギルマス!」

 「今は仕事中じゃないから名前で呼べ!」

 「じゃあ、テスタおじさんとライラさん? どうしたんですか?」

 「話があるんだが…良いか?」

 「あ、はいどうぞ!」


 僕は2人を招いた。

 僕達はこれから夕食だったので、テスタおじさんとライラさんの分も用意した。

 そして久々に兄妹以外の顔なじみと一緒の大人数での食事会となった。

 

 「実はな、ギルド内の冒険者達がテッド達は狩りに出て1週間は戻ってこないと言ったら、街の外に出て行ったという話だ。 なので、当分の間は静かだから安心だろ?」

 「そうですね…ところで、僕の素性とかは聞かれなかったんですか?」

 「ギルド内の奴等は正直に話したそうだが、誰1人として信じていなかったそうだ。」

 「まぁ、普通に考えれば当然ですよね? あの人達が僕達と会った時も、強そうな人達に会わなかったか?って聞かれたし。」

 

 そしてしばらく談笑をしていると、テスタおじさんは僕の頭を見て言った。


 「テッドは、風呂にでも入ったのか?」

 「いえ、僕はこれから入りますが…何でですか?」

 「お前の髪…そんなに黒かったか?」

 「あぁ、自分じゃ気付かなかったんですが…どうも最近黒くなり始めたんですよね。 魔剣の影響でしょうか?」

 「確かに魔剣の所持者は、その特性で髪が白くなったり、瞳の色が変化する者もいるからな…」


 テスタはそう言って誤魔化した。

 実はあの手紙に書かれている事で、前回には書かれていなかった部分があった。


 【オーブから出て来た赤子は、髪と瞳の色が黒く…妹達が生まれてきた時に、カノンが魔法で僕の色に近くなる様に茶色に染めたのだ。 だが、妻は長い時を掛けて徐々に魔法が解かれて行くかも知れないと言っていた。 その妻もこの世にはいないので、もしかすると魔法が解けて来る時期が早まるかもしれない。 もしもテッドの髪が黒くなった場合は、父からの遺伝かもしれないと伝えて置いてくれ。 ただし…テッドの素性を隠す場合だけどね。】


 あの話でカノンの魔法が解けかかっているとしたら、その内にはテッドの髪は黒に戻るだろう。

 あの話…テッドに話しても良いのだろうか?


 「テスタおじさん、どうしたの?」

 「いや…お前の髪の色を見ていたらな、バットンの親父さんを思い出してな。」

 「父の父というと…祖父ですか? 僕は祖父に会った事が無いので…」

 「あぁ、お前が生まれる前に亡くなったからな。」


 テスタはバットンの父親には会った事が無い。

 テスタは、素性を隠す事に決めたのだった。

 そして話が終わると、テスタおじさんとライラさんは帰って行った。

 

 「1週間は大丈夫って言う話だけど…その間はどうするの?」

 「街の中にいる分には大丈夫だろうし、買い物とかにも行っての平気だろうけど…1人で行動せずに行くのなら一緒にね。」

 「うん!」


 それからの1週間は、僕は調味料の確認や合成を試したりしていた。

 リットは、料理の研究や調味料を使った実験をしていた。

 ルットとロットは、魔導書を読んだり…服や小物を作っていたりしていた。

 そして…ギルド内の冒険者達はというと、ギルドからの依頼で草原に足を運んでいたのだった。

 連絡班と攪乱班に分かれて、勇者2人のパーティーを監視と動向を探っていたという。

 1週間後…勇者2人のパーティーは、疲れ果てた姿で街に戻って来たという。

 そして偽情報を掴ませてから、また街の外に追い出したという。

 そこまでは良かったんだが?


 「まずいな…? 食材が残り少ない。」

 「野菜やパンは何とかなるけど、肉や魚が足りないね。」

 「なるべく街の外には出るなとは言われたけど、肉を買うのも高くつくしね…」 

 「まぁ、街の外は広いから早々に出会わないと思うんだけど?」


 僕ち妹達は用意をしてから冒険者ギルドに顔を出した。

 事情を話して、街の外に行く許可を貰ったので草原に足を運んだのだった。

 そして草原で獲物を探していると…運悪く勇者2人のパーティーに出会ったのだが…?


 「やぁ、また君達か! う~ん?」

 「おい、ジーニアス…まさか、このガキどもを疑っているのか?」

 「いや、さすがにそれは無いと思うけど…なぁ?」

 「こんなガキに魔王の幹部が倒せる訳がねぇだろ!」

 

 そう言って、勇者2人のパーティーは街の方に戻って行こうとしていた。

 僕達は、彼等とは逆の方向に足を運ぼうとしたその時だった。


 『見付けたぞ! 魔剣シーズニングを所持する者よ‼』

 

 僕達と勇者2人のパーティーは、声のした方に振り向いた。

 するとそこには、黒いマントを着た肌の青く角の生えた威厳のある男が宙にいたのだった。


 『幹部や目の報告は嘘では無かったのだな…こんな子供に我が幹部達が倒されていたとは⁉』

 「我が幹部って…ヴァルギスタイガーやフェルスリーヴァの親玉って事?…という事は?」

 『我はヴァルサリンガ…魔王ヴァルサリンガだ‼ 我が幹部を倒した者達よ…我はお前達の力を見定めに来た!』

 

 最悪なタイミングで僕達の正体はバレてしまった。

 そして勇者2人のパーティーは、僕達を見て言った。


 「やはりあの子供達の事だったのか⁉」

 「あのガキどもがか? これなら手間が省けるという物だ!」


 勇者2人は、魔王を無視して僕達の元に来た。


 「お前達を仲間にしてやろう! 大人しくいう事を聞け‼」

 「いや、僕達の所に来い! 上手く使ってやるから…」

 

 僕と魔王は呆気に取られた。

 この勇者…いや、もう馬鹿だな!

 馬鹿2人はこの状況を解っていなかった。


 『何だお前等は…お前等に用は無い‼ 失せろ‼』

 「何だと⁉ 僕は知の勇者だぞ!」

 「俺は魔の勇者だ!」

 『フン…何が勇者だ! 我が幹部達にすら見限られたお前達に用は無い‼ 雑魚は失せろ‼』

 「雑魚だと⁉」

 「誰が雑魚だって⁉」


 馬鹿2人は相手の実力を解っていないのだろうか?

 あ、馬鹿だからか…

 その馬鹿の1人の魔の勇者は、魔王ヴァルサリンガに対して背後からエクスプロージョンを放った。

 魔王ヴァルサリンガはモロに喰らった…がダメージは殆ど無かった。

 だが、魔王を怒らせるのは十分だった。

 魔王ヴァルサリンガは、馬鹿2人のパーティーに狙いを定めたのだった。


 『お前等…誰に牙を剥いたのか、解っているんだろうな‼』


 魔の勇者ウィンザーとその仲間達と、知の勇者ジーニアスともう1人は武器を構えていた。

 そして勇者と魔王の戦いが始まろうとしていた…ので、僕達は気付かれない様にその場から立ち去ろうとしていた。

 だけど…?


 『おい…何処に行く気だ?』

 「どこを見ている! お前の相手は俺達だ! このクソ魔王!」

 「僕達を無視するなんて、調子に乗っているのですか? 甘く見てくれたものですね。」


 いやはや…この馬鹿2人は、この状況でも口が悪いままだな。

 だけど、魔王の意識は完全に馬鹿2人に向いたので、僕達はこっそり移動したのだった。

 そして振り返ると、魔王優勢で馬鹿2人のパーティーは劣勢…というより、相手になっていなかった。

 僕は妹達に言って、街とは反対側に全速力でその場から逃げたのだった。

 

 「頼むから足止めくらいはしておいてくれないかな?」


 だけど、その思いは虚しく…あっという間に決着が着いていたのだった。

 そして魔王ヴァルサリンガが振り返ると、僕達のいない事に気付いて苛立った魔王ヴァルサリンガは、勇者とそのパーティーを皆殺しにしたのだった。


 『魔剣シーズニングを持つ者よ! 逃げても無駄だ! 大人しく出てこい‼』


 そう言われて誰が素直に行くだろうか?

 僕達は離れた場所で身を潜めてやり過ごそうとした…が、見付かってしまった。

 どうやら、魔王軍の目という監視役にマークされていて、報告を聞いた魔王ヴァルサリンガが追って来たのだった。


 そして僕達と魔王ヴァルサリンガは、再び対峙する事になるのだが…?

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