第1話 ルットとロットの神託の儀

 あの魔王軍の幹部である、ヴァルギスタイガーを討伐してから3か月が過ぎていた。

 テッド達の自宅謹慎は、1週間ほどで解けたのだった。

 その間に何があったかと言えば…?

 

 1.あれから3日後にリットの11歳の誕生日があった。

 盛大にお祝いをし、ルットとロットはプレゼントをあげたが、僕は忘れていた。

 そうしたら…リットからこんな要求をされたのだった。


 「お兄ちゃん…1日だけ、一緒に寝てくれる?」

 「そんな事で良いの?」


 リットも…僕や他の妹達もそうだが、両親が死んだのは僕が9歳の時で、皆も10歳満たなかった。

 リットは人一倍責任感が強く、家では母さんの代わりになって仕切ってはいるが…実は一番の甘えん坊で、意外に脆い所もある。

 そんなリットの願いだったので、僕は一緒に寝てあげる事にした…のだが?


 「そのパジャマ…何か透けてないか?」

 「ほら、最近寝苦しいから…ルットに作って貰ったの。 それに今日はお兄ちゃんと一緒だし…」

 

 確かに、一緒のベッドで寝るのは久しぶりだ。

 年齢を考えると…あの頃に比べて体も大きくなったし、体温も高い…のかな?

 僕は腕枕を作ってあげて、リットと一緒に寝たのだった。

 寝ている最中に、首に擦り寄られたり、頬をつねられたりした感覚もあったが…ぐっすりと寝むれたのだった。

 翌朝は、リットは久々に寝坊をした。

 そして僕が家を出ようとすると、リットはルットとロットと一緒に熱心に話をしていたのだった。

 年頃の女の子だから、色々あるのかな?

 そう思いながら家を出たのだった。


 2.ギルドマスターからの自宅解除…

 魔王軍の幹部を倒した事は、グランベリオン公爵の耳にも入った。

 それで何が変わったかというと、実は何も変わってはいなかった。

 ただでさえ、魔獣殺しで英雄となって目立っているのに、更に魔王軍の幹部を倒した何ていう話が広まったら、収拾がつかなくなるという事で、一部の者以外には伏せられる事になった。

 時期を見て発表をする…という事で、この話は終わったのだった。


 3.魔王軍の幹部襲来…

 を警戒していたが、全く無かった。

 てっきり報復にでも来るかと思ったが、そんな兆候は微塵も感じられ無かった。

 まぁ、ヴァルギスタイガーは色々油断していたので勝利出来たので、あのクラスが襲って来ないのは正直言ってありがたい。

 その為…普通に狩りが出来て食料を確保したり、余った物は肉屋に売ったりしながら金を稼いでいた。


 4.スキル確認…

 レベル43まで上がっていたので、色々スキルを覚えていた。

 とは言っても、射程アップや放出アップというのが主で、目新しいと言えば…

 レベル40で覚えたマーベラス調味料という物だった…のだが、空欄だった。

 これには何かの条件があるらしく、それを達成して覚えるという仕組みらしい。

 色々試したけど、全部無駄に終わっていた。


 ちなみに…レベル30以上は、調味料…というより、香辛料が主だった。

 レベル31・辣油、レベル33・マスタード、レベル35・ハバネロ、レベル37・ジョロキア、レベル39・山葵、レベル41・山椒、レベル43・花椒…という物で、どれも子供の舌には絶大なダメージがある香辛料だった。

 そしてこれらの香辛料は、攻撃にも適していて…濃度上昇や性質変化により、更なる破壊力を秘めた攻撃手段となったのだった。

 それも…喰らった魔物が気の毒に感じる位に…


 *危険ですので、香辛料を攻撃に使わないで下さい。


 5.ルットとロットの誕生日…

 ルットとロットは、10歳になった。

 プレゼントを用意しようと思ったが、リットに直に選んだ方が良いだろうという事で雑貨屋に行った。

 ルットは布材や革材、ロットは糸や紐以外に鉱石や魔石を選んでいた。

 多少高くついたが、今後の装備のグレードアップの為と言われて、値段に糸目を付けなかった。

 別に2人共遠慮をしないで買ったつもりだったが、思った以上に金額が行かなかった。

 

 …と前置きが長くなってしまったけど、ここから本編が始まります。

 この後、リットの時と同じように2人を連れて神殿で神託の儀を受けに行った。

 

 僕等が神殿に入ると、一斉に注目を浴びた。

 神殿関係者にお布施を払おうとしたら断られた。

 神殿長は僕を呼んでから僕を隣に立たせて、皆に話をした。


 「本日は神託の儀にお越しになった方々、これから皆には神託が授けられるだろう。 仮にその神託が望まぬものだったとしても、落胆する事は無い! 望まぬ物だったら努力をして変えれば良い、神託が全てでは無いのだから…ここにいる英雄テッドは皆も知っているとおもう。 彼はジョブなしでスキルには調味料という前代未聞のスキルを授けられた。 だが彼は努力を怠らず、皆に笑われながらも信念を貫いて英雄と呼ばれるまでになった。 彼は努力でそれを勝ち取ったのだ! これから神託でどんな物であっても受け入れよ! 嫌なら努力をしろ! そうすれば自分の運命も替えられるのだから…では、神託の儀を始める!」


 そう言って僕は解放され、神託の儀が行われたのだった。

 次々に神託を授かった子供達は親に報告して褒められたり、僕の方を見て努力をしろと励まされたりしていた子供もいた。

 そしてルットの順番が回って来たのだった。


 「お主は…リターンズの者か! では、神託を始める…」


 神殿長は神に祈りをすると、神からの言葉を聞いて驚いていた。


 「ルット・リターンズの神託は…ジョブ・魔人、ジョブ・裁縫士、スキル黒魔法だ!」

 

 神殿中でざわついたのだった。

 それもその筈、2つのジョブを手に入れたのはリット以外で2人目だからだ。

 そしてロットの順番が回って来た。

 ロットは必死に祈りを捧げていた。


 「またもリターンズの者か…では、神託を始める!」


 神殿長は神に祈りを捧げると、これまた驚愕した表情になった。


 「どうなっているのだ? リターンズの者達は…あぁ、済まない! ロット・リターンズの神託は…ジョブ・聖女、ジョブ・彫金士、スキル白魔法だ!」


 それを告げると、神殿長は座り込んだ。

 またも神殿中が騒めき出した。

 僕もリットも顔を見合わせていた。

 これは…非常にまずいことになった。

 魔道士の最上位の魔人に、治癒術士の最高位の聖女…

 生産系のジョブに関しては、想像していた通りだが…これは本当にまずかった。

 僕等は神殿を出ると、冒険者ギルドに急いだのだった。

 そして冒険者ギルドに入ると、受付のライラさんにギルマスの部屋に通して貰う様に話した。

 僕と妹達は、ギルマスの部屋に行き…話をしようとした。


 「またテッド、お前か…今度は何だ? 魔王でも倒したとか言わないだろうな?」

 「それはない! だけど、それ位にインパクトのある話なのは確かで…今日神殿に行って、ルットとロットの神託の儀を授けて貰ったんだけど…」

 「リットと同じ最上位ジョブとか言わないだろうな?」

 「あれ? 何で分かったの?」

 「何だ⁉ マジだったのか⁉」

 

 僕はギルマスに神殿での神託の儀での説明した。

 ギルマスは頭を抱えていた。


 「どうなっているんだ、お前の妹達は…?」

 「それは僕が聞きたいよ! それで、2人の冒険者登録をしたいんだけど、下でやると大騒ぎになるから、ここでやって貰えないかな?」

 「そうだな…どうなるかが目に見えそうだからな。 おい、ライラ!」


 ギルマスがライラさんを呼ぶと、冒険者登録用のクリスタルを持って来させるように言った。

 ライラさんは受付に戻ってから、すぐに戻って来た。


 「クリスタルを持ってきましたが…もしかして、ルットちゃんとロットちゃんですか?」

 「あぁ…ルットは魔人で、ロットは聖女だそうだ。」

 「はぁ………リターンズ家の人達って一体どうなっているんですか?」

 「俺が知るか! ライラ、やる事は解っているよな?」

 「はい。 では2人共…指を貸して。」


 そして、ギルドカードを作る為に手続きを行って行き…

 ルットとロットも冒険者になる事が出来たのだった。


 「これからは4人で冒険する事になるな?」

 「家族でパーティーね。」

 「私がお兄ちゃんやお姉ちゃんと?」

 「なら、私達の装備品も作らないと…」

 「ギルマス…さすがに母さんが使っていた杖…とかは無いよね?」

 

 ギルマスは考えている感じだった。

 この感じは…多分あるな。


 「あるにはある…だが、カノンが使っていた武器は杖ではないぞ? それに、魔道士用の…カノンが使っていた物がもう1つある。」

 「え? 母さんて杖を持ってパーティーにいたんじゃないの? 治癒術士だよね⁉」

 「治癒術士ではあるが、杖では無かった。 本なんだよ、白の書と黒の書の2冊な。」

 「母さんは、白と黒の魔法が使えたの?」

 「黒は別に魔道士だけが使えるという訳では無いからな。 治癒術士も黒魔法の一部は使えたんだよ。 例えば、水魔法や風魔法とかな。」

 

 ギルマスは部屋を出て行った。

 そして分厚い2冊の本を持って来た。


 「使える者が居ないと思っていたからな…カノンの死後は封印をしていたんだが…」


 ギルマスはそう言って、ルットに黒の書をロットに白の書を渡した。

 すると、本は光りだして本が開いてページが捲りだしていった。


 「ルット、ロット…読めるか?」

 「私は読めるよ! ただ、ロットの白の書の文字は読めないけど。」

 「私も読めます。 ルットの場合と一緒で、黒の書の文字は読めない。」

 「その本はな、杖と同じ役割を持っていて…本を開いてページを捲りながら、その項目に手を当てながら魔法を放っていたな。 元はバットンが古代遺跡から見付けた本でな、何ていう遺跡だったけな?」

 

 ギルマスは説明をしていたが、ルットとロットは本を夢中になって読んでいた。

 そして一通り読み終えると、次は本の外装を見ながらロットと話をしていた。

 戦闘時にどうやって本を固定するか…とか、どんな装備をしたら良いかとか…

 しばらくして、2人のギルドカードが完成して、僕達は家に帰る事にした。

 そして家に着くと同時に、ルットとロットは部屋に籠ったのだった。

 部屋の中から魔道機材の音が聞こえて来ているので、冒険用の装備でも作っているのだろう。

 リットは夕飯の準備を始め、僕は今後の事について考える事にした。

 

 「さて、明日から色々大変になるな。 4人で冒険かぁ…まぁ、家に残しておくよりかは近くにいた方が安心かな?」


 僕は楽観的に言ってみた。

 翌日、討伐時に2人の魔法の威力を目の当たりにするまでは… 

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