第19話 向き合うとき

逃げ続けて逃げ続けて、今ようやく気付く。

俺は逃げていたのだと。

俺は、俺が逃げていることすらわかっていなかった。


何から逃げているのか。

それが、魔人の長の求めるもの。

つまり、


「『責任』」


魔女

「・・・うん。

私の予想だともう少しかかるかなと思っていたが・・・。

やっぱり、選ばれるだけの素質があるね。


そうだとも。

魔人の長が求めるもの、同時に、君の弱さが起因したトリガー。

つまり、君の力のカギを握るものが、『責任』だよ。


順を追って話していこう。

まずは、なぜ君は『責任』を背負うべきなのか。

これは自分で説明できるかい?」


「あぁ。

それは、俺があいつを殺したからだ。」


魔女

「そうだとも。

君が、彼を殺した。

その責任を君は負わなくてはいけない。


では、それを知った今、自分を傷つけてくれという要求は君の眼にはどう映る?」


「・・・無責任だ。」


魔女

「そうだね。

この責任は、たとえ君がどれだけの苦痛を乗り越えたとしても消えることはない。

また、長は君が要求したあと、殺せばいいのか?と聞いてきたはずだ。

痛みを知り、苦しみを知って、死をもって償う。

それについてはどうかな?」



「・・・それもまた、無責任だ。」


「どうして?」


「それは、俺が死ぬことと責任を取ることは関係がないからだ。」


魔女

「・・・よくできるね。

そうだとも。

君が死ぬことと責任を取ることは別問題だ。

ガレン君が苦しみながら死んだ。

なら、君も苦しみながら死ねばいいのか。

いいや、それは違う。断じて違う。

たしかに、君が先日までいたメイレンでは、〈人の命を奪ったものは死罪に値する〉とあるが、それも必ずしも正しいとは言えない。

まぁこれは難しい問題だよ。

本来、責任とは個人が何かをしたとき、その結果を個人が背負うことだ。


しかし、だ。

例えばの話だが、君には過去に戻る力があるとしよう。

そして君は現実でお茶をこぼしてしまい、友人の大事な服に汚れをつけてしまった。

友人は激しく怒り、君に、どう責任取ってくれるんだ、と問い詰めた。

しかし、君には過去に遡る力がある。

つまり、過去に遡り、服を汚したという事実を上書きすることができる。

この力があると、何か起こりそうな気がしないかい?」


「・・・本来そこにあったはずの責任がなくなる。」


魔女

「ふむ。

まず初めに、君の考えは正解だ。

しかし、これには別解もある。


確かに、君が過去に遡りお茶をこぼす前に飲み干してしまえれば、お茶をこぼしたことによる服の汚れは文字通りなかったことになるわけで、そうなれば前まであった責任はもう無いことになる。


しかし、過去を遡った君からすれば、そうはならないんだ。


君以外の人にしてみれば、確かにその責任はなくなったように見えるだろう。それどころかそんな責任に気付くことも無い。


しかし、それは君が過去を改変したからである。

どういうことか、それは責任を抹消するにも過程が必要だってことさ。


それを踏まえると次のことが言える。

責任を完全に抹消する方法は、その問題自体を無かったことにすることである。

そしてその行動こそ、『責任を取る』唯一の方法と言えるだろう。


しかし、現実的に考えればどうだろうか。

もしこの世界に時間を操る力があっても、それを全員が持っているわけでは無い。

では君たちはどうやって『責任を取る』のか。


君は過去を改変する力、持っているかい?」


「いや、持ってねぇけど・・・。」


魔女

「じゃあ君はどうやって責任を取ってきた?

もし本当に君が私の服を汚したとして、君はどう責任を取るんだい?」


「・・・あ、新しい服を買ってあげる・・・とか・・・?」


魔女

「ほう、でも私はこの服を大変気に入っているんだよ。」


「・・・それと同じものを買ってくる。」


「それがここに届くまではその服はないの?

今着たいんだけど。」


「・・・・・・」


魔女

「・・・といった具合で、結局私が損をするだろう?

明日に大事な面会でもあってごらんよ。

責任、取りっこないでしょう?」


「・・・・あぁ。」


魔女

「責任を取るなんてこと、できる訳ないんだ。

そう。つまり、何をしても完全に責任を取る方法はない。

何かをすれば報われるとか、そんなものじゃないんだよ。


それが、『責任を負う』ということさ。

この先も未来栄光、消えることのないものを背負って生きていかなければいけないのさ。

それが『責任』だ。」


「・・・・・・・・」


魔女

「・・・一気に話しすぎたね。

休憩がてらお茶タイムといこうか。」



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