第18話 俺が弱い理由

「俺が弱い理由・・・。」


魔女

「そう。君が弱い理由だよ。

見当はついたりするのかな?」


「・・・この力を使いこなせていない、とか?」


魔女

「ふむ、まぁ、外れてはないけど、30点の回答だね。」


外れてないのに30点かよ、と思ったのはさておき


魔女

「それと、気づいていると思うが、君が強くなる成長のカギは間違いなくその与えられた力だ。

それを完全に使いこなせるようになると一人で国一つ落とせるようになるからね。

では、どうして君が弱いのか。

それは、君の言った通り、この力を使いこなせていないからだよ。

そして、その使いこなせない理由こそが魔人の長の求めるものさ。」


「魔人の長の求めるもの・・・」


魔女

「焦らなくていいから、君と彼との会話の中で彼が一番大切にしていた、重要視していたことは何だったか考えてごらん。

もう一つ踏み込んだ話をするなら、彼が君に激怒した理由は、君にそれが無かった、それに留まらず一番ダメな方に進んだからだよ。

まぁ、彼に教師とか絶対向いてないしね。

そこは彼の非もあるといえばある。

しかし、今はそこより、ダメな方へ進んだ君を正さないといけない。

私たちの役割は、いわば『教官役』といったところだからね。」


「あいつは・・・・・・」


俺が痛みを求めた時に怒りだした。

つまりそこに彼が求めたものと違う、逆なものがあるのだろうか。


そもそも、どうして俺は会いに行きたがったんだ・・・?

何を求めてそこへ行った。


昨日の俺は、確かに狂いかけていた。

・・・どうして?

人を殺したから、じゃないか・・・?

いやそれなら、どうして今までこうも平然としていられた?

何が俺を狂わせるトリガーになった。


あぁ、それは間違いなくあの魔人だろうな・・・。


ふと、魔女の吐いた言葉が頭を遮る


『誤解』


・・・いや魔人というよりは、あいつの言ったことだ。

あいつは俺に何て言った・・・?

死ぬときの苦しみを想像したか、ガレンの周りの人間がどう思うか考えたか、とかだったっけ。

そうか、それで俺は何も答えられなかったり、中身のない答えを出して、人を殺したことを自覚していないって言われたんだ・・・。


「・・・『自覚』・・・?」


魔女

「おぉ、そうだよ、そうだとも。

まずはそこだよ。

ちなみに、何に対する自覚かな?」


「俺が・・・殺人者であることの自覚・・・。」


魔女

「ご名答。

よくできたね。

彼が君に求めたものは、まず、『自覚』だ。

君には、人を殺したという自覚、自分が人殺しである自覚を持ってもらう必要がある。

では、どうして君は『自覚』をする必要があるのだろうか。」


「俺が『自覚』を必要とする理由・・・。」


『自覚』

俺が、俺を人殺しと自覚すること。

それを必要とする理由。

それがあることで何が変わるのだろうか。

そもそも、自覚をしていなかったあの時の自分は・・・

自分が殺人者だと自覚することに恐れていた。

自分は止めようとしたとか、それでも止められなかったから仕方がないとか、何とか理由を作り出して自分を肯定化していた。

自分は殺人者ではない、あれは仕方のなかったことなんだって。

そんなはずはないとわかっていても、そう信じたい気持ちがあって、そうありたい自分がいた。

それがきっと、魔人の長の言った『保身』の意味なんだと思う。


「・・・・・・・・・」


魔女

「・・・まぁ、焦らないで良いさ。

それでこそ私の出番ってわけさ。

まず、君は何をどう考えた?

今の君の思考を教えて欲しい。」


「・・・俺が考えていたのは、まずは今までの自分のこと。

自分があいつを殺したことは間違いないのに、それを何とかして否定して、自分は悪くないと自己を肯定化していたことに気が付いたってこと。

それから、さっき魔人の長に言われた、『保身』の意味について。

あれを聞いたときは、本当に何のことかわからなかった。

でも、今になってようやくわかった。

俺が自己を肯定化して、現実から逃げ続けることが、長の言う『保身』の意味なんだって。」


魔女

「ふむ。

まあまあいいところまでは来ているかな。

ただ、それではまだこの話の核心には届かない。


ヒントをあげるよ。

この問題はさすがに難しいだろうからね。


今君は、自分が人殺しであると自覚した。

しかし、彼に会っていたときの君はそうではない。

では、今の君から見ればあの行動、自分を傷つけてくれという要求はどう映る?」


「・・・・・!」


ハッとした。

そうか。そういうことだったのか。


魔女

「気づいたかな?

あの行動の愚かさに。」


「あぁ、ようやく気が付いたよ。

・・・長い長い、終わりの見えない旅をしていた気分だ。」


あいつを殺してまだ数日しか経っていないのに、本当にここに至るまでの時間が長く感じた。






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