身なり
〈ユキナ視点〉
総務課の備品室から戻ると
経理課の部屋の中にも
ほんのりと甘い香りが残っていた…
( ・・・・・ )
頼まれた物を渡そうと
顔を俯かせたまま
福谷さんの机に向かって足を進めると
課長が私に声をかけて来た
課「白石もまだ20代だろ…
もっとこぉ…色々としたらどうだ?」
「・・・・・」
課長が誰と比べて
何を言いたいのかが分かり
目線を床に向けたまま
立ち止まってしまった…
課長の言う“色々”は
私にはできない…
「はい」と返事をするわけにもいかず
なんて答えていいのか分からない私は
ただ顔を伏せる事しか出来ず…
課「その眼鏡も…
もっと洒落こけたデザインがあるだろうに」
入社当時も
こんな風によく言われていたけれど
26歳になった今では
あの頃よりもずっと居心地の悪い時間に感じる
課「いっその事コンタクトにしたらどうだ?」
いつの間にか
側にまで近付いて来ていた課長が
私の顔を下から覗きこんで来たから
「ヒッ…」と思わず後ろに下がってしまった
(・・・あっ…)
あんな至近距離で
自分の目を見られたくなくて…
まるで課長から
セクハラでも受けた様な態度をとってしまい
おずおずと顔を上げて
課長の方に目を向けると
私が心配した通りの顔をしている
課「なんだ、まるで私が何かしたみたいに」
「あっ……あの…」
顔を赤くして
眉間に皺を寄せた顔をしている課長は
「だいたいその眉も」と立てた人差し指を
私に向けて怒りだしてしまった
フクタニ「課長、白石はただ驚いただけで」
福谷さんが課長と私の間に立ち
誤解だと言ってくれたけど
課長の怒りは治らず
ドカドカと足音を立てながら
自分の席へと戻って行き
何かを掴んでまた私の前へと歩いて来た
課「コレを読んでみろ!
なんて書いてあるか声に出して読んでみろ」
課長が手に持っていたのは
会社の就業規則が書かれた冊子で
あるページを開き手で叩きながら
私の前へと突き出している
フクタニ「落ち着いてください
白石の身なりは社会人として何の問題も」
課「問題ないわけないだろ
その生え揃った眉はなんだ!
血色の悪い顔をして」
福谷さんの声を遮り
更に声を上げた課長は
私の眉やカサついた唇を指摘しだした
課「受付や営業課みたいに
外部とのやりとりが少ないとはいえ
もっとちゃんとするべきだろッ
キミは20後半のいい大人だろうが」
「・・・・・・」
福谷さんや高島さんが
課長を宥めている中
私の意識は5年前の過去にいた
【自分が特別可愛いとか勘違いしてない?】
【雪菜って化粧の時間長くない?
ベタベタ塗りたくってキモいんだけど!笑】
・
ヒロインになんてなりたくない みゅー @myu0226
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