〈アスカ視点〉









トオル「眼科には行けたか?」






後ろからかけられた声に

キーボードを叩く手を止めて

ゆっくりと振り返ると

口の端を上げた溝口が立っていた






( ・・・・・・ )






笑っている様には見えるが…

立ったまま俺を見下ろしているその目は

全く笑っていない…






アスカ「えぇ、無事に行けましたよ」






トオル「お前がコンタクトだったなんて知らなかったよ」







( ・・・何か気付いたな… )







直感でそう思った…

俺と先生の関係に気付いたんだと…







アスカ「そんなに…

   言って回るモノでもありませんからね」







トオル「・・・そうだな…

   言わなきゃ誰も…気付かないだろうな」







きっと、俺も溝口も…

コンタクトの話なんかしていない…






溝口は小さくフッと笑ってから

指をある方向へと指し…



顔を向けるとスタッフの名前が書かれた

大きなホワイトボードがあり

何が言いたいのかも分かった…



   




トオル「営業課の人間なら

   同じ課の人間全員の動きも分かるからな」







アスカ「便利ですよね」







トオル「いつ行っても…いないわけだ…」







小さく笑みを浮かべてそう言うと

「お前も来週からは書かなきゃな」と

自分の席の方へと歩いて行った





俺があのボードに書かれていた

溝口の予定を見て

先生を連れ出していた事にも気付いているようで





来週からは俺も外回りについて行く事となり

あのボードに予定を書き込む事となる





俺のいない日に

先生に会いに行くと言っている事が分かり

椅子の背もたれにギシッと背中を深く預けて

PCのモニターに顔を向けたまま

「無理だよ」と呟いた…







アスカ「口開けて」






おにぎりを食べさせながら

コップに注いだお茶を飲ませようと

コップを先生の顔に近づけると

少し戸惑った目を俺に向けて来たから

「いい子だから開けて」とコップを唇に当てると

躊躇う様に口を開けた






「・・・んっ…」






唇の端からお茶を溢した先生は

慌てて自分の服の袖で拭こうとしたから

その左手を掴んで止め…




自分の顔を先生の首に近づけて

舌で垂れたお茶を舐めると

ビクッと身体を反応させ

顔を赤くしている先生に







アスカ「次は溢しちゃダメだよ?」







そう言ってまたコップを顔に近づけ

先生にお茶を飲ませた






( あの人はもう…俺の籠の中だよ… )






ポケットからスマホを取り出して

LINEを開くと

【起きました】と先生から届いていて

フッと笑い「お利口さんだね」と口にした





俺の言った事を守り

ちゃんとLINEを送ってくるあの人は

俺の可愛い飼鳥だ…






アスカ「ずっと…そうしてたらいいよ…」





















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