おやすみ…

〈ユキナ視点〉










アスカ「先に先生を送るよ、住所どこ?」







「・・・・・・」







部屋に届いた食事を食べ終えると

「出ようか」と言ってタクシーを呼び出し…




「えっ…」と言いながらも

荷物を持ってホテルの前に停まっていたタクシーに

青城君と並んで座っていると

私の住所を運転手に言うよう顔を向けてきて

「その後に」と自分の住所を伝えている…






( ・・・帰るんだ… )






着いた時とは違って

何もなくあのホテルから出てきた事が

なんだか…寂しく感じていた…






あのチャイムが鳴らなかったら

どうなっていたんだろう…






そんな事を考えながら

自分の足元に目線を落としていると

「酔うよ?」と揶揄う様な声が聞こえ

「へっ…平気」と言って顔を下げたまま

「慣れてるから…」と小さく呟くと…







アスカ「慣れ…ねぇ…」






「・・・・・・」







揺れる振動に体を預けていても

頭の中や…身体の奥は…






1時間程前の…

あのソファーの上での事でいっぱいだった…







( まるで… )







6年ぶりに感じた熱に

意識のほとんどを取られ…

まるで…欲求不満みたいだ…






自分でそう思いながら

段々と恥ずかしくなってきて

席の上に置いている手をグッと握り締めると

「明日は無理かな」と聞こえ

顔を青城君に向けると

自分のスマホを見ながら

「今日残業出来なかったから休日出勤しなきゃ」と

誰かと連絡をとっているようだった…






「・・・そう…なんだ…」






明日のランチの約束なんて頭の中から

スッカリ消えていて…




心は安心しているはずなのに…

身体の方は…残念がっているみたいに

どんどん苦しくなっていく…






運「この辺りですか?」






「あっ…はい…ココです…」






タクシーのドアがギィと開き…

「タクシー代」と言って財布を取り出そうとすると

青城君から手を掴まれて

「運転手さんも忙しいんだからまた今度でいいよ」と

早く降りる様促され「う…うん…」と

車から降りて青城君の方を見ていると

ウィーンと音を立てて下がる窓から

「おやすみ先生」と笑っている顔が見えた…






「・・・・・・」






おやすみと返せず

バックの肩紐を握りながら

ただ青城君の顔を見ていると

私の目を後部座席に座った 

ままジッと見上げていた顔が

フイッと運転手さんへと向けられ…




 



アスカ「やっぱり二人共おります」







「・・・ぇ…」







そう言って会計を済ませると

タクシーから降りてきて

「部屋…どこ?」と

私の手を握ってきた…






「・・・アノ…」






アスカ「髪も目も…そのままだよ?」






青城君の言葉にパッ髪に手を当てて

ヘアゴムを外したままだった事を思い出し

直ぐにでも自分の部屋へと逃げたくなっていると

「行くよ」と手を揺らされ…





青城君の言う通りに

自分の部屋へと案内すると…





部屋の鍵を開けて

ドアの向こう側へと入った瞬間

後ろにいた青城君から抱き寄せられて

激しいキスをされた…





驚いて戸惑っているのか

喜んでいるのか…

よく分からないけれど…





彼のキスに目を閉じて

荒い口付けを受けていると

下着に手をいれられ直接感じる

青城君の指の感触に思わず声を漏らした







アスカ「あれからずっと垂れ流してたの?笑」






「・・・ッ…」







自分の顔が真っ赤になっているのは

鏡を見なくても分かっていて

青城君が言った言葉も…本当だった…





食事をしていても…

ホテルから出て行く時も…

タクシーの中でも…





青城君の声すらにも反応している

恥ずかしい自分がいた…







アスカ「ホテルと違って壁薄いし

   声気をつけないと知らないよ?」







その言葉と同時に片足をグッと上げられ

自分の中にアツイ熱を感じた…



 



普通は…

キスから始まって…

それなりの甘い時間の後に

感じる筈のその熱は

イッキに私の中に入ってきて…





苦しい痛みと一緒に

甘い声が漏れ出ていた






青城君の身体が私から離れた頃には

玄関からベッドの上へと移動していて

ちゃんと着ていた筈の服は

全て取り払われていた…






アスカ「おやすみ…先生…」






乱れた髪を撫でながら

そう囁くのが聞こえて

「おやすみ」と言葉を返すことも出来ない程

甘い睡魔に襲われていた私は

数年ぶりになんの不安も感じずに瞼を閉じ…








アスカ「・・・おやすみ…鳥籠の中で…」








青城君がそう囁いていたなんて知らない私は…

フワフワと浮いた感覚の

幸せな夢の中で笑っていた…








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