〈ユキナ視点〉









青城君は…

手ぐしで髪をとかしながら

ただずっと額や瞼にキスをしてくるだけで…

いつもみたいに唇どうしを重ねてくる事はなく…






なんだか分からない

フワフワと浮いた気分のまま

目を閉じ続けていると…






グゥ〜とお腹の音が聞こえ

思わず自分のお腹へと手を当てた







アスカ「ふふ…先生食事に行ってたんじゃないの?笑」






「・・・・・・」






どうして知っていたんだろうと

不思議に思って目を開けると

私の目尻の横を撫でながら

機嫌よく笑っている彼の姿が見えて 

「なんで…あそこに?」と問いかけた







アスカ「先に…何してたのか答えてくれないの?」







青城君の顔から優しい笑顔は消えたけれど

私を見ている顔は怒っている感じもなく…




撫で続けている手もそのままだったから…

「今日は…」と一階のロビーで

高島さんから呼び止められた話から全部…

何故だか素直に話していた…






「・・・電話…気付かなくて…」






アスカ「・・・・・・」







青城君は黙って私の話を聞きながらも

ずっと目を見つめてきていて…





さっきまで頭の中で聞こえていた

記憶の中の声達は…

いつの間にか…聞こえなくなっていた…






アスカ「ふっ…何か食べようか?」







小さく笑って体を起こすと

テーブルに置かれているメニューを手に取り

「先生も選んでよ」と言って

ソファーに腰を降ろす青城君に

少しだけ戸惑っている自分がいた






青城君が私に対して…

少し変わった感情を向けているのは確かで…






誰かと食事をしていると知って

あんなに怒って電話をかけてきたんだろうし…

もっと何か言われるのかと思った…






だけど…彼の機嫌は

いつの間にか戻っていて…

今も笑って私を呼んでいる…






ベッドから降りて青城君の近くに腰を降ろすと

「どれにする?」とメニュー表を差し出され

ファミレスの様なメニューの写真を見て

懐かしいなと感じていた…







「・・・ぇっと……かっ…カルボナーラ…」






アスカ「他は?コレだけでお腹の虫は大人しくなる?」







揶揄うような物言いに

少しだけムッとしたけれど

青城君に何かを言い返したり

叩いたりできる関係ではなくて…






顔をメニュー表に向けたままでいると

「適当に頼むから先生も食べてよ」と言って

部屋の壁に取り付けられている電話の方へと歩いて行き

注文の電話をかけていた







青城君が電話をしている間

部屋の中を見渡し…

6年ぶりに来るそう言う場所に

なんとなく落ち着かない気持ちでいると






アスカ「何か見る?」





「・・・・・・」






注文を終えてソファーに戻って来た青城君に

少し距離をとって座り…

無意識に髪を耳にかける仕草をして

ヘアゴムを外したままだった事を思い出した





「ぁ…」と言って

ベッドの方へ行こうとすると

手を引かれたのと同時に

視界がぐるっと動いて…

私は…青城君の足の上に座っていた…






アスカ「先生…何系が好き?」






「・・・なん…でも…」







そう答えながらも気になるのは髪の毛で…

ベッドに横なっていたし

乱れた髪じゃ余計にソウ…見える気がして

必死に手で整えていると

「いいよ…このままで」と聞こえた後に

また…髪を優しく撫でられる感触がした…






アスカ「会社でもないんだし…このままでいいよ」






「・・・ンッ…」






青城君は肩にかかっている髪を

後ろの方へと持っていくと

首筋に唇を当ててきてクチュッと音を立てる

その暖かい感触に思わず身体が反応してしまい

腰に回されている手をギュッと掴んだ…






アスカ「・・ねぇ…先生…どれが好き?」






ラブストーリー、アクション、コメディー、SF…

映画のジャンルを問いかけていた筈なのに




彼の手はリモコンから離れていて

「ココ?」と問いかけながら

頸の部分にリップ音のたつキスを落とし

「ちがッ…」と背中を反らせて逃げる様な動きをしても

腰を後ろから抱きしめられていて

彼の唇が首元から離れる事はなく…






アスカ「・・・じゃあ…コッチ?」






髪を横に流していた手が脇の下から伸びていき

自分の胸元に触れた瞬間「ャッ…」と

更に弓反りとなった…






キスも6年ぶりなら

こんな風に身体を誰かに触られるのも6年ぶりで…






久しぶりに身体に走る

なんとも言えない刺激に身体をバタつかせていた…







アスカ「どっちがスキ…」






「・・・んッ………ンッ…」






アスカ「ねぇ…どっち…」






耳に唇を当てて

小声で問いかけてくる彼にすら

大袈裟な反応をする自分の身体に

一気に熱が込み上げてくる…






アスカ「答えなきゃ分からないよ?」






6年ぶりの甘い刺激の続きを欲しているのか…

本当の私の姿を知る彼が

「キレイだ」と言ってくれた事が嬉しいからなのか…






( どちらか分からないけれど… )





この時…

初めて彼から触れられる事に対して

抵抗する気持ちはなかった…








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