怖い…

〈ユキナ視点〉










「・・・あっ…」






連休も終わり…

いつも通りに出勤するのがなんだか怖くて…




時間をズラしてから

階段を使わずにエレベーターで4階まで行くと

チンっと音を立てて開いたドアの向こうに

腕を組んで…目を細めて立っている青城君の姿があり

通路に出ようとした筈の足はピタリと止まって

エレベーターから降りれないでいる…







アスカ「・・・・・・」







時間をズラしたのも…

階段を使わなかったのも…

理由は青城君で…





GW中に彼からきた連絡には一切返事をしてなく…

通知画面を見るたびに怖くなっていって

LINEのアプリを消してしまっていた…






ガタッと音を立てて

エレベーターのドアがゆっくりと閉じようとしだすと

青城君はスタスタと足を進めて

閉まりかけたドアを開けて

「着きましたよ」と

エレベーターから降りようとしない

私の手を引いて歩き出し






グイッと引っ張られる腕は

少し痛い位に強引で…






彼が行こうとしている

階段通路に行きたくないと感じた私は

腕を引いて「あおぎ…くん」と声を上げたけれど

青城君は振り返る事も

歩く速度を落とす事もしてくれず…




むしろ引っ張る腕の力を強めてから

バンっと叩くようにドアを開けて

階段の通路へと入って行った






( おっ…怒って…る… )






今までも機嫌の悪い顔を何度か見たけれど…

こんな風に腕を掴まれたり…

壁側に突き飛ばされた事はなかった…





掴まれていた部分は

まだ少し…痛みの様な熱い感じが残っていて

もう片方の手で掴まれていた場所を小さく摩っていると

「LINE…」と低い声が聞こえてきて

腕の痛みを忘れる位に

ドク…ドク…と心臓の音が響き出した…






「・・・・・・」






アスカ「スマホ出して」






「・・・スマホは…」







肩にあるバックを守る様に胸元に寄せると

小さく舌打ちの様な音が耳に届き

一歩後ろに下がろうとしても

壁が背中に当たり…





これ以上は下がれない…

逃げ場はないと言われてるみたいで…

冷たい壁の感触にゾクリと恐怖を感じた






バックへと伸びてきた手に

「青城君」と抵抗しようとしても

乱暴に肩から取り上げられたバックは

青城君の手の中にあり

私のスマホを探しているようだ…





直ぐに見つけたスマホを

勝手に操作する青城君を横目に感じながら

怖くて何も言えずにいると

「実家は楽しかった?」と

乾いた笑みの混ざった声が聞こえ

何も言えずに小さく震える自分の足元を見つめていると







アスカ「お母さんが心配して荷物を送ったみたいだけど…」






「・・・アッ…」







青城君が母からのメールを見ている事に気付き

パッと顔を向けると

冷たい目でコッチを見ている青城君の顔があり

「返して」と喉まで上がってきていた言葉は

どこかへ消えてしまった…






アスカ「GWに帰った筈なのに

  ちゃんと食べてるのって…

  随分と心配症なお母さんなんだね?」







「・・・それは…」







アスカ「それは…なに?」







青城君の「なに?」と言う言葉に

肩を震わせ顔を下げよとすると

顎を掴まれて無理矢理顔を上げる青城君に逆らえず

彼の冷たい目と視線を交わしていると

もう一度「なに?」と問いかけられ





カタンッと音を立てて床に落ちたのが

何かも分かり無意識に床に目線を向けようとすると

グイッと顎を引かれコッチを見ろと

言っているのが分かった…







アスカ「連絡取れないスマホなら…いらないでしょ?」






「ゴメ…ごめんなさい…」







怖くてたまらなくなり

咄嗟にそう口にすると

青城君の目元はさらにキツくなり

「俺が聞きたいのはそんな言葉じゃないよ」と言って

顔を近づけてきたから

パッと顔を外らせると首元に熱い物を感じた…






「ツッ……やッ…」






青城君を離そうと体を押すと

手首をパシッと掴まれて

壁に押さえ込まれたまま

首の左側に感じる熱さはドンドン下へと下がっていって

「ヤダッ…」と声を上げても

青城君はやめてくれず

乱暴に口付けられていく音が耳に届き

視界はいつの間にか滲んでいて

必死に腕に力を入れるけれど

ビクともしない青城君の腕の強さに

余計に怖くなっていった





彼は…4つも年下だけど…

私よりも体は大きく

力だって全然敵わなくて…





全然…可愛い青城君なんかじゃない…






突然押さえられていた圧がなくなり

やめてくれるのかと思った瞬間

私の身体はクルッと反転させられ

目の前にはコンクリートの壁が見えた…






( ・・・なっ…なに… )






髪を結んでいるヘアゴムが取られ

「あっ…」と髪に手を持って行こうとすると

また手首を掴まれてしまい…





左腕は青城君の肘部分で抑えられているのか

重たい痛みを感じていて

これ以上乱暴に扱われるのが怖くて

目をギュッと閉じていると

髪を持ち上げられた感触のあと首の後ろに

さっきまで感じていた熱さとは別に

小さな痛みも感じ彼が何をしているのかが分かった…






「ヤメッ…あお……クンッ……アッ…」






腕と手首の圧が解かれ…

自分の身体を守る様に両手で胸元を抱きしめて

床へと座り込むと

彼も膝を曲げて私の後ろに屈んだのが分かり

怖くて目を開けれないでいると

「俺のだよ」と聞こえてきた






アスカ「アンタは俺のモノだよ」






「・・・・・・」






そう言うとコツッと立ち上がり

数歩あるいた後に立ち止まって

何かを触っている音が耳に聞こえていたけれど

ずっと…自分自身を抱きしめたまま

目を閉じ続けていて

その目からは熱い雫が流れ落ちていた





しばらくすると

彼の足音がまた私に近づいて来て

震えがまた強くなりだしていると

コトッと足元に何かを置かれ





「次消したら許さないよ」と

耳元に熱い吐息と共に冷たい声が聞こえ

「いい?」と問いかける彼に

目を閉じたまま必死に首を縦に振った







アスカ「それでいいんだよ」







少し笑っている様に聞こえる

彼の声が余計に怖く感じ

ギュッと抱きしめている腕を強め






階段を登って行く

彼の足音が遠くなっていくのを

ジッとうずくまったまま聞いていた…






彼は…

6年前の淡い記憶のせいで

私にかまうのだと思っていたけれど…





そんな可愛いものではない気がした…









































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