昼休み…

〈トオル視点〉








白石さんを泣かせてしまった翌日…

俺は彼女に謝ろうと思い

自販機で買った缶コーヒーを手に

経理課のドアを軽くノックしてから開いた






( ・・・やっぱり居た )






彼女を社員食堂で見た記憶はないし

前回たまたま訪ねたこの時間に

彼女は自分の席でカロリーメイトを食べていたから

昼休み中は経理課ここ

一人で居るんじゃないかと考え…

どうやらその感は当たったようだ






「お疲れ様です」と部屋の中へと入ると

彼女は顔を窓側に背けていて

俺と話をしたくないと言っているのは

何となく伝わっていたが…






トオル「昨日の事を謝りに来たんだよ」






「・・・・・・」






トオル「泣かせるつもりはなかったんだけど…」

   






彼女の顔が窓ガラスに反射して映っている事に気付き

そんなに怒っているのかと表情を見ると

彼女は…まるで怯える様な顔をして

また小さく肩を震わせていたから

俺が怖いんだと理解した






トオル「・・・・・・」






普通なら…

缶コーヒーを差し出して

「ごめんね」と立ち去るべきなんだろうけど…






トオル「白石さんは、コーヒーはブラック派?

   微糖派?それとも甘いカフェラテ派かな?」







「・・・・・・」







俺は…彼女と話したかった…

だからこそ、人のいないこの時間を狙ってきたんだ…






買って来た缶コーヒーを

彼女のデスクにコトッと置いて

「俺は苦いのダメなんだよね」と言いながら

隣りの席の椅子を手で引き寄せてから腰を降ろした







トオル「後輩達の前では良いカッコしたいから

   ブラックを普通に飲んでるけど

   結構しどくてね…胃がキリキリするんだ…笑」






「・・・・・・」







白石さんは顔を背けたまま何も答えず

俺の置いた缶コーヒーにも手を伸ばそうとはしなかった







( ・・・彼女が隠したいのは…目だったよな… )



 




トオル「ねぇ白石さん、俺の目が何色か知ってる?」






目の話をすると

彼女は小さく反応し「目…ですか?」と

口をきいてくれたから

口元が軽く緩むのが自分でも分かり

「俺も黒じゃないんだよ」と背中に語りかけた






トオル「少し灰色が混ざっててさ…

   よかったら俺の目も見てよ」






白石さんは少し間をおいてから

ゆっくりと顔をコッチに向けてきて…

不安なのか度の入っていない眼鏡を何度も触っていて






以前「お局さん」とあだ名をつけた時には

地味に感じた仕草も雰囲気も…

今は全く違って見える






( ・・・初々しい位に女の子だな…笑 )






顔を見るのが恥ずかしいのか

下に下げたまま中々顔を上げない彼女に

小さな笑みを一つ零し




椅子から腰を上げて

彼女の足元に膝を曲げてゆっくりと屈み

彼女の顔を下から見上げてみると

俺の目を見て小さく「ぁ…」と口にしている







( ・・・残念だな… )







クォーターである俺の目が多少変わっていても

あまり可笑しな話じゃないし

むしろ「青くないんだな」なんて言われた事もある





白石さんは「きれい…」と小さく呟いているけど

俺からみれば彼女の本来の目の方がずっと綺麗だ…






視界に映る黒い両目を見て

次はいつ…あの目を見ることが出来るんだろうと思い

少し残念な気分になっていると

俺が彼女の目を見ている事に気付いた白石さんは

パッと顔を背けて「ありがとう…ございます…」と

ボソボソとお礼を伝えてきたから

プッと吹き出してしまった







トオル「目を見せてお礼を言われたのは初めてだな…笑」







「すっ…すみません…」







例え彼女の口から返ってくる言葉が

謝罪やお礼だとしても




仕事とは関係のない

プライベートな会話を彼女と出来た事が

ただ何となく嬉しかった…




















   






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