呼び出し

〈ユキナ視点〉










( ・・・やだな… )







いつも早めに出社してるけど…

今日は更に早く家を出て会社へと向かっている…






『明日7時半に階段に来て』






あの後…

また青城君に返事を返すのを忘れていて…





金曜日のお昼にLINEが届いていたけれど

気付いたのは夜遅くて…

翌日でいいかと思い

次の日の土曜日に返事を返したら

1日何も返ってくることはなく…





既読ムシも未読ムシも嫌いだと言っていた

青城君が怒ってないわけがない…





月曜日の出社時間をずらそうかと悩んでいると

日曜日の夕方過ぎに

7時半に出社するようLINEが届いていて

一気に憂鬱な気分が増していた…






( ただでさえ行きずらいのに… )






木曜日は福谷さんとも気不味い雰囲気のままわかれ

金曜日は急な休みをもらい…

何となく福谷さんに顔を合わせづらく感じていた…







【 いっつも顔俯けてて…気持ち悪いよね… 】







歩く足を止めてフルフルと震える手を

ギュッと握り小さく深呼吸をしてから

また足を進めた…






皆んながそうだったわけじゃない…

でも…顔を隠そうと下を向いて歩いていると…

いつからか…周りからも…

変な目で見られる様になっていった…





( ・・・・・・ )





ロビーにはまだ誰の姿もなく…

指定された階段のドアを開けると

数段上の階段に座っている青城君の姿があり

「この前は…ごめんなさい…」と謝ると

「ついて来て」と階段を登り出し

青城君の後を黙ってついて行くと

私のフロアのある4階の1番上の段差に腰を降ろして

「座りなよ」と言われた





青城君と距離をとって座ると

「どっちがいい」と

コーヒーショップの紙袋を差し出され

怒ってるんじゃと様子を伺って

手を伸ばさないでいると

「早くして」と紙袋を揺らすから

紙袋を受け取り中を覗くと

ピンクと茶色のドーナツが入っていた





( どっち…一個くれるのかな… )





どうしたらいいのか分からず

紙袋を眺めたままでいると

隣りから「長いね」と声が聞こえ

「チョコ…いい?」と

控えめに問いかけると

「どうぞ」と笑う声が聞こえてきたから

そっと顔を向けた






アスカ「コーヒーはいたって普通の

   オリジナルブレンドだから

   砂糖とミルクは自分で入れてよ」






「・・・怒って…来たんじゃないの?」







青城君は…機嫌がよさそうで…

文句を言う為に呼び出されたと思っていたから

不思議に思い…そう尋ねた…






「LINEの…返事が……その…」







アスカ「・・・中々既読つかないし…

   一言いおうと思って待ってたら来ないしね」







「・・・来ない?」

   






もう一つの紙袋から

カップに入ったコーヒーを取り出している

青城君を見ていると

「風邪は治った?」とカップを差し出して来た






「・・・うん…」






金曜日の朝も私を待っていたんだろう…

そして、朝の着信は中々現れない私に

電話をしたんだと分かり…

変な…気分だった…






誰かに待たれるのも…

並んで何かを食べるのも…





( ・・・・・・ )





心配をされて電話がかかってくるのも…

全部が久しぶりで…





どんな顔をして

なんて言っていいのかわからなくて…

落ち着かない気分だった…






アスカ「ふっ…とりあえず朝・昼・夕・晩かな?」





「・・・・・・」






ピンクのチョコレートがかかった

ドーナツを頬張りながら

「とりあえず1日4回はスマホ見て」と言う青城君に

小さく頷いてから「いただきます」と言って

私もドーナツを口へと運んだ





憂鬱な気分の今日…

朝は何も食べる気がしていなくて

バックの中に水筒と一緒に持って来ていた

キャンディでも舐めようと思っていたけれど

その必要はなくなり





陽が高く登ったお昼に水筒に入った

冷たい麦茶を飲みながら

ホットじゃなくて正解だったなと思った






「ドーナツと…コーヒー代…千円で足りるかな?」






新入社員である青城君は

先輩達よりも早く出社しなければいけないみたいで

8時前になると「行きますね」と立ち上がり出したから

バックから財布を取り出して

お金を差し出すと青城君は笑った顔で

階段を登って行ってしまい






アスカ「後日、まとめて請求する予定だから」






姿の見えなくなった上の階から

青城君の声が聞こえてきて

「後日?」と首を傾けた…





青城君がきてから

やっぱり落ち着かない毎日で…





寒い冬が来るまでは

この冷たい麦茶を

毎日飲み続ける気がした…






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