シワだらけの…

〈ユキナ視点〉










アスカ「請求書…お願いします」







青城君が差し出して来た請求書は

まるでワザと握り潰したかの様にシワだらけだった…





入り口から1番遠い席にいる

私に持って来たりするから

先輩達もまた変な目でいるだろうし…





( ・・・前回も… )






社員証を掴まれた時は

人違いだと言って誤魔化したけれど

こう…何度も私の所に来られると

やっぱり嫌で関わらないでほしいと思う…





額に当てている手をどけて

顔を深く俯けたまま

差し出された請求書を確認していくと…






( ・・・これ… )






恐らくコレは

さっき私を追いかけて来た

溝口トオルが握っていた請求書だ…




あの後、経理課に来るんじゃないかと

ずっとソワソワとしていたけれど

青城君がコレを持って来たと言う事は

あの人はもう経理課ここに来る事はないだろう…






( ・・・でも…どうして青城君が… )






チラッと視線だけを隣りに立つ青城君に向けると

私の体の真横に立っていて…




まるで…

手前の席にいる先輩達から見えない様にと

隠してくれているみたいだ…






もしかして…

溝口トオルが目の事を話したのだろうか…






ドグンと嫌な音を感じながらも

青城君には早く出て行ってほしく

請求書の確認を急いで終わらせてから

「大丈夫です…」と伝えた






( ・・・早く…向こうに行って… )






前に座っている福谷さんが

コッチを見ている気がして

顔を下に向けたまま

素っ気なくそう伝えると

カチッと何かが音を立てて床に落ち

(えっ…)と顔を向けれないでいると

「すみません」と青城君の声が聞こえ…






( ・・・・・・ )






私の視界の端に青城君のスーツが映り込み

彼が床にしゃがんだのだと理解し

少しだけ顔を向けると

私がいつも見ている低い視界の中に

ジッと私の目を見ている青城君の姿が見えた…






アスカ「・・・・・・」






私を見上げているその顔に

ある記憶が蘇ってきて

なんて…言っていいのか分からなくなった…






アスカ「変でしょ…男なのにこんな唇…」






( ・・・・・・ )






彼と話したのは

あの告白をされた日だけかと思っていたけれど…







アスカ「雪の降る日に産まれたんですか?」







違う気がした…

私は…彼と…

何度か話した事があるんだ…






ペンを机の上へと置いて

「お願いします」と軽く頭を下げてきたから

彼がこの部屋から出て行くんだと分かり

目を隠したい私はまた顔を俯けて

青城君の背中を見送る事もしなかった…






「・・・・・・」






彼はきっと…

私の秘密を誰にも言わないだろう…





私の秘密を知っていて…

誰にも話さないからこそ

彼がココに来た気がした…







フクタニ「なに?やっぱり知り合いなの?」






前の席座っていた福谷さんが

私に近づいて来て話をかけてきたから

「いえ…多分…」と言って

シワだらけの請求書を見せると

「何これ!?」と声を上げだし







フクタニ「アタシや高島に出したら何か言われると思って

   ワザと白石に出したのね…

   新入社員の癖に…溝口の入れ知恵かしら」







福谷さんは「見てよコレ」と言って

他の先輩達と話し出し

私と青城君の事は全く疑う様子はなかったから

肩を落として安心し

顔を下げたまま仕事を続けた…

































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