35 不器用だが、優しい―

 明日。妹が旅立つ。


 彼女が旅立つ前日には、まるで其れが決まっていたかのように、テレビで彼女が

好きだったアニメの再放送がやっていて、その内容も、旅立ちをして、成長する少女の物語だった。出来過ぎていると思った。


 世界が彼女の旅立ちを称賛している様に思われた。


 しかし、妹は、こんな、パンデミックの最中に、大変だなと思う。


 其れは、不運であったが、仕方の無い事だった。


 其れも、また予言のとうりで、その経済不況も、かつてかっれが危惧していたとうりだった。


 頭が痛い。


 目がしばしばする。


 此れは、予言染みた何かなのだ。


 私は、彼女を、送りに行こうと思う。


 死にそうだ。


 彼女は、きっとこの容を望んでいないだろう。


 僕は、彼女に何か、贈り物を送ろう。


 餞別を送ろう。


 絵を描いて其れが喜ばれるだろうか。


 何かもっとしっかりとした絵を描いておけば良かった。


 連絡先でも交換しておこうかとも思った。


 此れは、大事な節目なのだ。此れ迄大したことは、してやれなかったが、僕は何か彼女にしてやらないと駄目なのでは無いのか。


 勉強して、大学に進学して、きっともう中々そんな機会は無くなるだろう。


 見送りには行こう。 


 彼女を見送りに行こう。


 迷惑だろうか。


 どう思っているだろうか。 


 分からない。


 見送られて迷惑だ。


 と思っているかも知れない。


 迷惑。


 一人で行ける。


 車も運転できる。


 私の見送りなんて要らないのだろうか。


 行ってらっしゃい位いった方が良いのか。


 其の場所迄見送った方がいいのか。


 子供で無くなるとこういった感覚が鈍ってくる、単純に鈍ってくる、僕は分からない。


 僕が邪魔になりはしないだろうか。


 僕で、彼女のプランが破壊されるのでは無いのか。


 お兄ちゃんに、家族の興味が集中してしまうのではないのか。


 僕は邪魔だ。


 妹の邪魔なのだ。


 僕は、彼女の邪魔に違いない。


 家族は長男の私を優遇するし、僕が居ない方が妹にはいいに違いない。


 そう考えた。


 母は、きっと仲良し兄妹を望んでいるが、僕達は如何なのだろうか。


 仲がいいと言えるのだろうか。


 希薄な兄妹ではなかろうか。


 全く会話をしていない、希薄な兄妹ではないだろうか。


 どう、思うだろうか。 


 この事については、どう思うだろうか。 


 結果がでて居ないからだろうか。


 一体、僕は、如何してこう見栄を張らないと気が済まないのだろう。


 この、状態で、何か他人の為に何かするのが、かっこ悪くて、恥ずかしくてしようがないのだ。


 何か、成果があれば、僕は、何かしてやれるのに。


 一文無しに来られても迷惑だろう。


 幾らか収入があれば、何か買って遣れるのに、何かしてやれるのに。


 如何して、僕はこうなのだろうか。


 大事な時間を、無駄に過ごしているのではないだろうか。


 彼女は親に対して何か思う事は無いのだろうか。


 やはり、彼女は、親が好きなのだろうか、嫌いなのだろうか。


 嫌いだが、好きなのだろうか。 


 好き嫌いじゃ言い表せないだろうか。


 金銭的依存が其処にはあるから何も言えないのだろうか。


 其れだけでなく、きっと母の事は好きだと思う。


 父の事はどうだろうか。


 分からない。


 僕が父を毛嫌いしているだけの事かも知れない。


 彼女の家を知って、犯罪者の様で気味が悪くはないだろうか、住所を知られて気分が悪くならないだろうか。僕だったら新居を誰かに知られるのは厭だ。


 完全に孤独に成りたいと思う。


 新居がばれれば完全に終わりでは無いのだろうか。


 そして、腹が痛い。


 僕は防犯ブザーに成れるだろうか。


 監視カメラは在るのだろうか、危険な物件では無いのだろうか。


 新居。家賃は結構な値段だった、一般家庭にはきつい値段だった。大丈夫なのか。

 僕は、そしてお腹が痛い。


 どういう訳かお腹が痛いのだ。


 お願いするのか。


 私は、行きたいのか。


 見送りに行きたいのか。


 たいのか。


 私に自分の意志は在るのか。


 何かしたいがあるのか。


 王様では無いのか。


 考え方が王様の様では無いのか。


 分からないのだ。


 只。分からない。


 僕は、誰かの為にと思っているのか。


 僕は、何か圧力を感じているのだ。


 確かに重い圧力を感じているのだ。


 あなたにとって大切な人は誰ですか。


 僕は、一人になった。


 妹が死んで、兄弟姉妹が死んで、僕は一人になった。


 寂しく何てなかった。


 人が離れていくのも、変わっていくのも、死んでいくのも運命だ。


 教師の、仕事に就いてから私は、数多くの旅立ちを見送ってきた。


 子供が大人に成っていく様を見送ってきた。


 涙腺の脆い私は泣いてしまう。


 この仕事をしていて思うのは学校の教育と言うのは、間違っている、期待しない方がいいという事だろうか。


 賢い優秀な生徒とそうで無い落ちこぼれとには、大きな差があり、そういったに対しても平等に同じペースで内容も同じ内容を教える。


 出来る人は、先先に勉強していいし、飛び級があってもいいのに、学校教育は、大学までは、高校までは間違っている。


 私立の名門の学校は話が違うのだとは思うが、其れは如何なのだろうか。


 実際は分からない、そもそもが教師なんて要らないんだろう、環境と場所さえちゃんとしていれば、人は本を読んで勉強するもので在る、其れを強制する事に意味は在るのだろうか。


 テストで点さえ取れればいいのである。


 私はそんな事を考えて居た。


 母親として、娘の引っ越しに連れ添った。


 夫も付いて来た。


 斜坂 暁 

 斜坂 罠

 斜坂 佳


 この三人が順番に、娘、母、父であった。


 

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