6 悪のヒーロー 門答詰、冷酷な暗殺者 冷徹殺、セックス体位専門家 井原 空助

 法律に引っ掛かるかすれすれの事をして、そのスリルを味わうのに取り付かれてしまった無答 詰は、警察や、国の要人、世間から痛い目で見られていた。


 公安の人間はもう彼に呆れていた。


 捕まえようにも証拠がなく、手掛かりはあるのだが、其れを上手い事躱す、巧みな処がカリスマ的で、警察でさえ一部の者は彼に熱狂したものである。



 無答 詰 無資格で危険物を取り扱い、人の命を助け、ライフラインを整える、無資挌だが確かな能力を持ち、試験を受ければ必ず合格できる能力を持っているのに、犯罪擦れ擦れの危ない事ばかりに手を染めては、国の公安から追われる悪党であった。


 悪の科学者。正義のヒーロー。


 綺麗な花、汚い草。


 醜いアヒル、美しい白鳥。


 この世界は必ず反対の者が存在する、其れは+と-のイメージで分けられる、陰と陽で分けられる。


 其れは人間の創った概念で、上と下の関係とは違ったもので、上と下の概念からの派生のもので、生きると死ぬとは違ったもので、希望と絶望の対比にも程遠い、勝ちと負けの対比其れがこの世界の善悪を決めているのかも知れない、略奪、奪う事は罪なのか、無抵抗には、我々は何も出来ない、存在するだけのものに罪はあるのか。


 冷徹 殺(ころし)に殺された。


 冷徹殺しは、悪を見つければ躊躇いなく抹殺する。


 何の躊躇も無く抹殺するのだ。


 お寺や教会を焼き払ってしまう終うくらいの徹底ぶりで腐敗したものは、政府だろうと宗教上の聖地であろうと焼き払って抹殺した。


 冷徹 殺の名は、世間では悪名高いが、其れは純然たる腐敗と悪の抹殺であり、彼の政治は間違ってはいなかった、ただ殺す。


 強大な力も諸共せずに殺す。


 そう、彼には痛みが無い。


 そして異常な正義感の強さは、彼をおかしくして、抹殺、速殺、悪即斬。まさに冷徹にして、非凡にして、綺麗な殺し。


 冷徹家は代々、処刑の実行人兼、悪人の取り締まりを兼ねてきた、一族。厳しいその家風は、正に冷徹な殺しと、徹底した正義の心を育むものであった。


 立ち鼎、千鳥の曲、立ち松葉。深山、立ち花菱、鵯越の逆落とし、碁盤攻め、首引き恋慕、絞り芙蓉、鳴門、千鳥、椋鳥、鵯越、抱き上げ、雁が首、手懸け、しがらみ、百閉、本駒懸け、帆かけ茶臼、茶臼のばし、理非知らず、時雨茶臼、てこがかり、こたつがかり、獅子舞、撞木ぞり、寄り添い、つり橋、後ろ櫓、御所車、二つ巴、窓の月、石清水、流鏑馬、火燵が隠れ、宝船、締め小股、押し車、鶯の谷渡り、浮橋、抱き地蔵、達磨返し、乱れ牡丹、仏壇返し、菊一文字、松葉崩し、燕返し、白光錦、花菱攻め、内枠、八重椿、俵抱き本手、唐竹割り、浜千鳥、網代本手、揚羽本手、富車、襷掛け、壽本手、笹船本手、洞入り本手、鶴瓶落とし、せきれい本手、横取り、鴨の入首、裾野、つぶし駒掛け、式小股、月見茶臼、締め込み千鳥、締め込み錦、後つけ、後ろ矢筈、立膝とり、忍び茶臼、さがり富士、茶臼がらみ、突きまわし、抱えどり、卍崩し、逆手絡み、座禅転がし、虹の架け橋、筏茶臼、反り観音、織り茶臼、本茶臼、横笛、八つ橋、櫓立ち、砧、巣篭り、零松葉、松葉ぞり、イスカどり、番外。


 くだらない。


 体位の研究。


 一種の学問。


 井原 空助は、セックス体位の専門家だ。古今東西のセックスを研究してきた。彼はサデイズムや、マゾヒズム、性的倒錯を強く批判し、悪の思想。


 人間の間違いと、糾弾さえとした。


 フェラチオという言葉。イラマチオという概念、そういったものは、只の行為である。


 彼は、そういった行為は、知識さえあればいいと考えた。


 そういった、体位がある、と言っただけで十分であり、倒錯は必要ないのである。


 その為、そういった対物擬人化共感の様な、訳の分からい精神異常、性的倒錯は悪であり、排除すべきものだ。


 と彼はそれらを酷く非難し、正しい知識による、性交渉の理解を推奨した。


 彼は行為をするよりも、其の理論と、形を理解し、そのワードさえ分かっていればよい、性的倒錯は悪であり、そういった観念は、修行によって追い出し、思考によって殺すべきだとした。


 「最近のセックスの業界は、汚らしい。汚らわしい。」


 空助は、そういった業界の、誤った知識による、実践と快楽重視の、性に飽き飽き

していた。


 どうして快楽を求めるのか。


 こんなものは、考えればわかる事ではない、図鑑に載っている正しい知識により、こういった性交渉があるのか、体位があるのかと、知識さえあればよく、その実践は、大した意味を持たないのである。


「くだらない事だ。人間はセックスを楽しむ為に、生殖器が発達したと言われているが、全くのでたらめだ。セックスは、只の子供を産むための作る為の行為でしかない。」


 と、馬鹿らしく、厭になりました。


 生き物は解剖すれば、その形が分かりますし、その機能も、わかります。


 実にそうした正しい、科学的な知識を、知っている事が、大事なのです。


 母親に成って思った事は、どうして私は胸が大きく、女の子は胸が大きくなるのかという事であった。


 子供が生まれて、子供に母乳をやっている時に、私は気が付いた。


「私は、この為に女の子だったんだ。」


 女の子の体は、男に勝らないし、男はこの体で猿の様に興奮して、厭になるが、私は、子供に乳をやっている時、このうえない幸福を感じた。


 其れは、この子が大きくなるまでの、私が女である事を唯一許せる時だけれど、この子に、栄養を与える唯一の方法がこの方法で、私は、胸があって良かったと思った。


 かつて人間が、大量の動物を家畜化した時、多くの動物は退化し、飼いならされ、精神的苦痛を味わされて居たことでしょう、その時の、動物の痛みを人間も理解できていたはずで、現代の大量消費、大量生産の社会では、鶏や豚、牛は大量にボイラーで焼かれ死にます、人間はこうした行為への贖罪の心、犯罪染みた殺し、に耐え切れず、また、革命運動による、獄中生活にその、家畜と人間を重ね合わせて、人間の家畜といった脅しで、恐怖を植え付けられて、この様な、悪の性的倒錯が形作られたのでしょう。


 人間は、多くの罪があるが、其れを償うのに、奴隷の様に、労働をせしめられ、貧困者は資本家にその労働を搾取され、実に酷いこの世界の労働、そして、その労働と、特定の権力者に縋りその、悪の性質を助長するのはこの世の悪で、反抗心によって、権力者に盾を衝き、反発心により、この様な倒錯から逸脱するのが良いのだ。


 分かる。


 人間はクズなのだ。


 特に、近頃のこういった風潮には嫌気が差す。


 知性の欠片も、理性の欠片も在りはしない。

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