4 重人は、辮髪師 髪切 洋一に髪を切られた。

 未来ってのが何で構成されているかは知らないが、しかし、未来予知はその人間や生き物の出す微弱な電磁波から、その未来を予測するという。


 精神乗り移りは、脳波を送り込み他人の精神をコントロールしてしまう能力だという。


 辮髪師(べんぱつし)の彼、髪切 洋一 は、髪の毛を切りたがった。


 「髪型が気持ち悪いわよ。くるくると癖っ毛でカーブしていて、毛先の一つ一つも傷んでいるわ、散髪に行った方がきっといいわよ、其れに、その方が貴方の為だわ。」


廃墟に住む、ゴミ屋敷に住む、呪われた屋敷に住む、都市伝説染みた狂気が彼の部屋にはあった、入った瞬間呪われて終うかのような脅威が恐怖が不気味さが其処にはあったのだ。


洋一の子の髪切 重人は引きこもりのお宅だが、何を思ったのか外に働きに出かけた。


その時母の 豪快 愉快 が子供の禿げ散らかしたみすぼらしい髪型をみて、夫の洋一に連絡を寄越したのであった。


 「やはりあなた達は親子ね、そっくりだわ。」


 「そっくりってどういう所がさ。」


 「そういった処よ、よく似てるわ。」


 僕は、親に似ていると思われるのが厭だったし苦悩だった。


 「母さんは、父さんのどういった処に惚れたのさ?。」

 意地悪な質問をした。


 「あんな、奴の事は嫌いよ。好きだったのは昔の話よ。あなた達が生まれてきてからは鬱陶しくて仕方がないの。」

 何処かで聞いた事のあるような言葉を劇的に語っていた。


 見たことのある景色。


 何度も繰り返す質問、母さんと父さんの馴れ初め何処にでもある年の差カップルといっても五歳差だ。


 世界には頭の悪い馬鹿な歳の差夫婦や、その遺産や、財産目当てに結婚するものがあるが、人間何て生き物は利己的に、善人の皮を被っているだけで、いざと成るとその悪性をしめすのであろう。


 その証拠に、彼も、彼女も、ずっと以前から遊び呆けている。自分の命か子供の命を天秤に懸けた時、親は何方を優先するだろうか。


 僕は思う。


 親により蹴りだと、父親が子供を思う気持ちに何か、不可解な、くすぐったいものを感じていたが、どうだろうか、どうしてこんなに父親は子供の僕に優しくするのだろう。


 父親のきもちなんてものは父親になってからでないと分からないのかも知れない、僕は親になった試しはないし、子供を育てた試しもないから想像でいしかわからい、血のつながった子を持つ親の気持ちなんてものが、血のつながりなんてものは其処迄重要ではなくて、生まれた時から面倒を見てきた子供を思う親の気持ちなんて言うのは、考えただけでも、虫唾が走るような、深い愛情であった、期待であった、そして、気持ちであった。


 子供の為にと頑張る親は、大変そうだ、きっと、楽しいのだろう、家族で子供と話すのが、楽しいのだろう、嫁と自分と子供と三人で話すのが楽しくって楽しくって仕方がないのだろうと思った。


 

 丁度、僕が未だ幼くて幼稚園又は保育所にも、ましてや小学校にさえ入学していなかった、幼い頃から、僕を囲って、何処かへ連れまわしたり、話したり、遊んだり、母が居て、父がいた、僕達三人の秘密だった、きっと僕の性格の一部はこの時に創られたもの影響が大きいかもしれない、無差別に愛されていたこの頃の幼い記憶が、僕を真の犯罪者たらしめさせないのかも知れない。


 記憶の奥に、その頃の純粋な人間への信用が刻まれていて、僕は人間を酷く嫌い筒も、人間に悪い奴は居ないとそう思えるのは、やはりこうした、裏切りようのない絶対的信頼をよせた父や母が僕を幼い時にずっと面倒を見ていて、その時でさえ彼らは僕を決して見捨てなかった、僕を必ずあやしてくれた、だから僕は彼らに、彼等を酷く嫌って居ながらにして、殺せないんだ。


 激しい英才教育の果てに何があるのだろうか。僕は子供を厳しくは育てなかった。のびのびと育てた。決して叱る事は無かった。其れは例えばとても悪事を働いても絶対に叱らずに理由を聞いた、そして一緒になって考えた。


 其れは、ごくありふれた、けれどもオリジナルなかけがえのない家族の話だ、けれど僕はその絆を斬って殺して遂に、犯罪者となった。髪を切る為の道具で人間を刺して殺したのだ。


 「お爺さんの、紙霧 善弥は、死を覚悟していた。命はもう惜しくないと言っていた。僕は嘘だと思った。生に固執しない人間何て悟りを開いた人間位なものだから。」


 人間とは図太いものである。


 なかなか死なないものである。


 「命が惜しくないかあ。其れはもう思考が鈍って来るとか、体力とか気力も弱ってくるからかなあ。歳を取ると弱くなるからねえ。彼の言葉が聞けてよかったよ、もう喋ってくれないと思っていたから。」

 と言って、髪を切られている孫の重人と息子の洋一をみていた。

 

  重人はアルバイトの面接を受けていた、しかし誰一人として彼を受け入れるものは無かった。


 せっかく作った履歴書も無駄になった。


 遅刻をしただけで、不採用になるどころか、面接を行う前から門前払いとなった。ショックだった。


 これほど迄己を愚弄されたのは此れが初めてだ。罰が当たったのだなと思った。自分の言っている事は自分に還ってくる物で或る、詰まり、僕が此れ迄してきた悪の仕来りがこの様に社会の方が僕を普通でないとみなし、僕は社会のはみ出し者となってしまったようだ、高望みしすぎなのかもしれない、しかし、そうである、この様である。せっかく父さんに髪切ってもらったのにな・・・。別のバイトでも探すか・・・。


 重人は情なくなった。バイト何てするからダメなのかも知れない。社員登用された方がいいに決まっている。しかし、重人にはそうできない理由があった。


 如何にかしないとな。


 此の儘じゃ・・・。僕は社会に置いてけぼりにされる、此の儘じゃいけないんだ。


 何時しか敗北の味が美味しく感じるようになって居た、負けた後の味に浸るようになっていた。


 負け続けて僕は、此処にいる。


 上手くいかずに勝てずに此処にいる。


 悔しさも、感じなかった。負けるのが日常になっていた。


 僕は見放されたのだろうか、世界に神に、運に・・・。

 

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