第33話 少しずつ

「じゃあこの自生している芋は、そのままでも食べられるんだ?」


 この森で見つけた、両手の手の平よりも大きい方の芋をスコップで掘り返しながらラウルに尋ねると。


「そう、そのネロは粘りが多いから水を入れて団子にしてスープに入れて食べるとお腹に溜まるから、集落では栽培して食べてたよ。あっ、そのキャサの根もこの時期なら食べらるからたくさん採っておこう。冬の食料になるんだ」

「ええっ!これはただの野草だと思って、上の葉っぱだけ摘んでたよ。根も掘り返さないと、他にもたくさん見落としがありそう。本当にラウルは物知りね」


 そう私が言うと、目線で私が物知らずなだけだ、と語られてしまった。




 ラウルとリサと家族になろう!と決めた日から、早いものでもう半月が経った。この半月は、バタバタと四人で住むように部屋や服、寝床の準備から始まり、それが終わったらすぐ目の前に迫って来ている冬の食料の追い込みに追われている。


 ラウルの怪我も五日目には傷跡がうっすら残るくらいに回復し、リサちゃんも二日目にはすっかり治っていた。

 二日くらいはラウルにあまり動かないように注意をしていたが、翌日には家の前の草むらで角ウサギを獲って、レバーを食べていたから顔色にもすぐに血の気が戻っていた。

 人族よりも獣人の方が身体の作りが頑丈なのかもしれない。



 最初に準備したのは、動くとズボンが落ちるのはかわいそうなので、ラウルの服だ。それと同時にリサちゃんにも私の小さい頃来ていた服を同じように改造した。


 とりあえず一番簡単なのはズボンに穴をあければいいだけだが、ラウルは身長的には私より小さいが、男の子な分体型はガッチリしているから、私の予備の服ではまた上の長さ的に尻尾とウエスト部分の紐の高さが同じ位になってしまう。

 そうなるとお父さんの成人用の服を改造するか、新しく作るかしかない。


 前世で一度、無謀にも洋服を自分で縫おうと思ったことがあったけど、今思えば良かったわよね。型紙はないけど今の服を型紙として使えば大体の大きさになるし、あとは尻尾穴はどういう風になっていたのか聞いてみればいいかな。


 幸いシーツの替えとは別に商品としてあった布があったので、子供服を作る分くらいならまだ十分足りた。ただすぐに冬になるので、重ね着用までは布的に足りそうにないのが不安だったが。


「ねえ、ラウル。リンゼ王国の服はどうなっていたの?獣人でも色んな種族がいるでしょう?尻尾もそれぞれ違うと思うんだけど」


 犬や猫くらいならまだ兼用できそうだが、もしトカゲなどの獣人もいたらどんな服になるか想像もつかない。


「ああ、穴を空けても着る時に尻尾を通すのが大変だから、こう、切れ目が入っていたんだ。上で紐でしばったりボタンで止めたりする。上着も後ろは腰の部分までは切れ目を入れないとならないから、短めのが多かったかな」


 ふんふん、成程。じゃあズボンは後ろに切れ込みを入れてボタンかな。シャツも長くすると尻尾にかかっちゃうから、そこはスリットを入れる、と。


「そうすると、ズボンは上から腰布で縛って調節していたってこと?」


 私のズボンは日本でもあった紐があるズボンのように織り込んで縫ってある中に紐が入っている物だ。服は中古を買ったり自分の家で縫うかだったけど、テムの町ではみんなそんな感じのズボンだったと思う。


「うん。また上を長くしておけば調節もきくし、長く着れるから」

「わかった。じゃあちょっと作ってみるけど、二、三日はそのズボンで我慢していてね」


 それまでは尻尾の下に腰布を通し、ズボンがずれないようにウエストで結んで貰うことにした。尻尾が落ち着きなく動いているけど、仕方ないよね!


 結局小さくて動きにくい方がダメだろう、と尻尾切れ込み付の太目のズボンをなんとか縫い上げた。縫い目が大分怪しいが、まあ、そこは着れるだけいいと思って貰うしかない。ただボタンを作るのが意外と大変だったのだ。


 刃物はナイフと斧しかなく、ナイフでボタンの中央の穴を二つ、どうやってあけようかと悩んでいたら、ウィトがガブッとしてくれた。

 でも、ボタンにするには二つの穴が必要なので、ウィトにどう噛んで貰うか試行錯誤した結果、結局ボタンの大きさを大きくして、なんとかウィトの牙穴が二つ並んだボタンが出来上がったのだ。


 上のシャツは大きさ的に私のシャツではすぐに着れなくなりそうなので、お母さんのシャツの後ろに切り込みをいれてスリットと作り、少し長めの裾が尻尾の動きの邪魔にならないようにした。

 肩幅が大きくて肩が下がるけど、獣人は成長しだすと一気に大きくなる!というラウルの言葉を信じて、ズボンも裾は大分長めに作って折り、簡単に縫って止めてある。


 上着はウィトが狩った魔物の毛皮をラウルが鞣し方を知っていたから鞣して貰い、それで作ることになった。それまでは私のローブを羽織って貰っている。

 この間森で鞣しに使う木の実を見つけて作業をしていたから、鞣し終わったら急いでとりあえずベストだけでも仕上げる予定だ。



 あとは今の時期はまだ毛布だけでも寝れるが、やはり布団はあった方がいい、とファンナ草を川に探しに行った。

 ファンナ草はまんまファンタジーな植物で、川の比較的浅瀬に生えている水草の一種なのだが、茎が球形が連続しているような外見で、その球形の部分を切り離して天日で干しておくと、綿みたいにふわふわな感触に変化するのだ。

 

 私の布団もそのファンナ草が入っていて、前世と比べたらぺしゃんこにへっこんだ煎餅布団のような厚さだが、床板の上に毛布を敷いて寝るよりは格段に柔らかくて防寒にもなるのだ。

 本当は上掛布団も作りたいが、布が貴重なのでそこまでの余裕はなかった。


 そして川に出掛けた時に、私がいかに物知らずだったか、ということが判明したのだ。

 きっかけは川を泳ぐ魚を見た時で、私が「ここの魚が食べられたらいいのに」とポツンと言ったら、とても驚いた顔をしてほとんど食べられる魚しか泳いでいない、と言われ。


 ……テムの町では漁を生業にする人はおらず、町で魚を食べることも無かった。ってのは言い訳よね。恐らく食べてた人はいたんだろうな。ノアが知らなかっただけで。


 それからは次々に野草を指しては名前や食べられる、食べられないを教えられている、という訳だ。

 因みにここの川でもファンナ草を見つけることが出来たし、ついでにラウルが川魚を簡単な罠を作ってすぐに捕まえてくれたので、前世ぶりに、ノアとしては恐らく初めて魚を食べることが出来た。

 塩をふって焼いただけのヤマメのような川魚だったが、とても美味しくて感動してしまった。




 私の通販スキルについては、簡単に物をしまったり、材料があれば製品と交換できるスキル、と説明した。ラウルにはじっと見つめられたが、転生のことや両親の死についてなど、色々とまだ言葉として説明する程気持ちの整理がついていなかった。

 ただそれはラウルも同じようで、お互いに言えるようになったら言おう、ということでとりあえず終わりにしている。


 冬になって雪に閉ざされれば話す時間もたくさんあるだろうから、その時までにはもっと家族として親密になり、話せるようになっているといいな、と思っている。


 結界スキルについては驚いてはいたが、家で安全に過ごせる、ということでとてもほっとした顔をしていた。




「お姉ちゃーーんっ!こっちにアロの実がたくさん実ってたよ!ウィトお兄ちゃんが見つけてくれたの」

「はーーーい!リサちゃん、今そっちに行くねーーっ!じゃあラウル。アロの実を採りに行こう。天気がいい内に干しておかないと」


 リサちゃんは、あの家族になろうと言った日の翌日。寝て起きたら獣人の姿に戻っていた。心理的に安心したからじゃないかってラウルは言っていた。

 獣人の姿のリサちゃんは、明るめな灰色の中に黒の房があるちょっと変わった髪に灰色の耳、それにブルーグレイの大きな瞳をしている私の腰くらいの身長の色白な肌にぷくぷくほっぺのとてもかわいい女の子だ。


 因みに私は麦色と茶色の中間のような枯草色の地味な髪色で、肩より長めの髪を二つの三つ編みにしている。お父さんが茶色、お母さんが金茶の髪色でもっとお母さんのように明るめの髪色が良かったと、ずっと子供の頃からノアは言っていた。


 顔立ちも目の色も自分では水に写った姿しか見たことがないがいたって普通だとしか思わないが、お母さんによれば瞳の色はキレイな深緑のような緑でかわいらしい顔立ちらしい。当然身内の欲目だろう。

 でもこの世界では美人やかわいい子の方がいつ攫われて売られるかわからない世の中なので、普通が一番だと思っている。


 正直あんまり自分の顔立ちとか興味はないんだけどね。子供の顔なんて大人になったら変わるものだし、それよりも今は生き残るのが優先なのだ!


 それからひょいひょいと木の枝を移動しながらラウルとリサが落としてくれるリンゴのような甘酸っぱい味のするアロの実を、ウィトと一緒に布を広げてたくさん回収したのだった。







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やっと外見が出せました!……いや、忘れていたわけでは(ゴホゴホ) 

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