第21話 冬に向けて

 ウィトと一緒に行動するようになってから格段に安全に暮らせるようになった。

 夜眠る時は結界を張っておけば魔物に襲撃されてもウィトが撃退してくれるし、ウィトの狩りのお陰で私までお肉を食べられるのだ。


 毎日しっかりと眠り、たまにお肉を食べられるようになってから約二か月が経ち、ウィトに出会うまではどんどんやせ細っていた身体にしなやかな肉がつき、身長も伸びてすっかり成長期の少女らしさを取り戻した。


「ウィト、もうそろそろ冬の支度を始めようか。冬の間は移動するのは大変だし、どこか拠点になる場所を探さないとね」


 ウィトと出会ってからすぐに初夏になり、二か月が経った今はすっかり初秋だ。

 この世界にも明確ではないが四季はあり、今私がいる場所はランディア帝国の西部に位置しており、夏は暑すぎず、そして冬もどか雪はめったに降らない。

 それでも三十センチ程は毎年雪が積もるので、雪の中での外での野宿だけは絶対に避けたいのだ。


 ウィトと一緒になってから一度大きな枯れた古木に空いた洞を見つけたが、かなり枯れていたので雨が降った時に雨漏りがひどく、拠点にするのは諦めたことがあった。

 その後もあちこち森の中を移動しながら探しているのだが、なかなか見つからない。でも、冬が来る前に、なんとしてでも最悪雪をしのげる場所を見つけないとならない。


「ウォフゥ?」

「そう、ほら、前に見つけた木の洞とか、あとは洞窟とかかな。後は食べ物もなんとかして確保しておかないとね……」


 ただ確かに毎日の暮らしは楽になったが、人を警戒するのは前以上だし、ザッカスの街で買い出しもウィトのことも考えて取りやめた。


 まあ買い出しは、ウィトが私と離れるのを嫌がったからだけどね。かといって街にウィトを私が連れていったら、絶対に騒ぎになって人さらいに速攻遭うと想像がついたし。ウィトが人が近づくとすぐに匂いで分かるから、以前のように人と遭遇して襲われかけるなんてことは早々ないんだけど。


 ウィトが居てくれれば一か所にゆっくり留まることも出来たので、穴が開いていた靴も自分で皮を当てて補修出来たし、下着なども縫うことも出来た。洗濯しても、服が乾くのを待っている余裕まである。

 なので無理にザッカスの街へ近寄る必要はないのだが、それでも一冬分の食料はもうタブレットの中にはなかった。



「ウォフゥ、ウォンッ!」

「うんありがとう。お肉は助かるからお願いね。でも、お肉ばっかり、って訳には私はいかないのよ。今の内に果実を採れるだけ採って干しておきたいし、茸は怖いから出来たら芋なんかが欲しいのだけど……」


 タブレットに収納すれば名前は表示されるので分かるのだが、食べられるか、毒があるのかまでは分からない。なので知らない野草を食べるには、タブレットで変換できる野菜に変換して食べているが、それも一度収納に入れた野菜に変換できる植物に限られるのだ。


「クゥン?クウォンッ!」

「なあに、ウィト。もしかしてウィトが芋を探してくれるの?……これ、この芋に似たヤツが、土の中に実っている筈なんだけど、分かる?」


 タブレットから取り出した、残り少なくなった芋をウィトに見せると、クンクンとしきりに芋の匂いを嗅いで、「ウォンッ!」と元気よく一声鳴いた。

 そうして尻尾でパシパシと私の腰を叩くと、振り向きながらゆっくりと先を歩いて行く。

 どうやら匂いを嗅いだだけで、思い当たる場所があるらしい。


 ウィトは予想通り、まだ子供だったようでこの二か月で成長していた。出会った頃は小さめのラブラトールレトリバーサイズだったのが、今ではもう一回り大きく立派な大型犬サイズだ。

 ホワイトウルフが成獣になるとどれくらいの大きさになるのかは知らないが、もっと成長した時のことを考えて、冬の拠点は広い場所を探した方がいいかもしれない。


 くっついて寝ると温かいしもふもふで幸せだしで、それもいいかもだけどね。


 私よりも大きくなったもっふもふなウィトに寄り添って眠る自分を想像して、にんまりと笑顔になってしまった。


 日本では一度も自分でペットを飼ったことは無かったが、友人の家で犬を飼っていたので子供時代は良く一緒に遊んでいたのだ。

 そのもふもふな毛並みが忘れられなくて、大学に入る為に上京してからは良くドックカフェに行っていた。

 色々な犬種に出会ったが、もふもふな毛並み具合はウィトがダントツだった。


「ウォフッ!」


 つい目の前をフリフリと行き交う尻尾に目を奪われながら歩いていると、少しだけ木の間隔が空いた場所で止まり、コレコレ、と言わんばかりに一声鳴いたウィトが前脚をたしたしと足踏みをした。


 くぅう。ねえ、ウィト、可愛すぎない?可愛すぎるよね?もう、最高すぎる!


 少し大きくなったが変わらない、その可愛い仕草につい笑み崩れそうになる。

 そうしてニマニマしていたら、早く!と言わんばかりに迎えに来たウィトに、背中を頭でグリグリされた。



「凄い、ウィト、凄いよ!本当に芋だよ!やった、これで冬の間もなんとかなるかも!ウィト、ありがとう。また見つけたら教えてね!」


 改めてウィトがたしたしと示した場所に目をやると、まばらな短い草の間にぴょこんと飛び出た丸い葉っぱの植物があちこちに生えていた。

 そして生活魔法を使って少し土を柔らかくし、スコップで掘ってみるとそこには大きさは小ぶりだが、いくつも連なった芋が実っていたのだ。


 とりあえずその場所に生えていた芋を全て掘り出し、土を落としてからタブレットに全部収納してみると、予想通り、変換リストに町で買った芋、ダレモの名前が変換リストに表示された。


 変換効率としては、掘った芋が十個でダレモが二個だったが、大きさが倍違うことを考えればそんなものだろう。

 切り詰めればダレモ一個で一食になるので、残り大袋二つある小麦を今から節約すれば冬の間はなんとかなりそうだ。


 ひとしきり感謝を告げてから撫でまわしていると、ウィトの耳がピクリと反応した。スッと私から離れ、一点を見つめる眼差しはすでに野生の狼そのものだ。


「……魔物ね?結界を張るから行っていいよ」

「ウォフッ」


 その場で用心を兼ねて三重に結界を張ると、それを感知したかのようにすぐさまウィトが飛び出して行った。

 ウィトがすっかり回復してからは、自分の身体の三倍近くあるようなボアを狩って来たこともあって、あの時はとても驚いたが今ではすっかり慣れ、その大量にあるお肉をありがたいとも思う。


 解体をどうするのか、は通販スキルが解決した。タブレットに収納すると、肉と素材に変換できたのだ。

 ウィトがボアなどの大きな獲物を狩ると、まずその場でお腹に食いついて内臓を食べる。そして私の処に近くなら引きずって来るか、遠いと私を呼びに来る。


 それからタブレットに収納するのだが、その変換コストに残った内臓やその周囲の肉を、と念じながら変換すると、きれいなブロック肉になったから、変換のコストで肉の量が減っても何も問題は無かったのだ。

 そこら辺はこのスキルがチートスキルだったと実感する。当然それで神に感謝することは無かったが。


 そうして時間経過のことを考え、収納してすぐにブロック肉に変換し、それを改めて収納することで、腐敗はするが雑菌が無い一定温度の無菌室に保存しているような状態にあたるのか、十日くらいは焼けば食べられたのだ。


 ただ熟成させる菌もないから、熟成肉という訳ではないが、食べられるだけで十分だ。獲物があまり獲れない時は、ウィトにも軽く焼いて与えてみたが、美味しそうに食べていた。


 実際に血抜きをしていないからタブレットでの変換の時に血を変換コストに、と思い浮かべてもどうしても血の腐敗臭があり、前世の店で食べたジビエ肉には遠くおよばないが、魔物の肉には前世の肉よりも旨味が多いのか、臭み取りのハーブと一緒に焼いたりスープに入れたりすれば十分美味しく食べられる。


 今日は、どんな獲物なのかな?まだボア肉はあるけど、角ウサギも結構美味しいんだよね。何度も冷や汗をかかせられたけど、お肉に罪はないし!ああ、そうだ。秋の内にまだ塩の在庫はあるから干し肉を作ってもいいかも。燻製は匂いが出るから、ジャーキーは無理かな……。


 ウィトの帰りを待つ間今夜の夕食に想いを馳せながら、冬までにやるべきことをしっかりと頭で段取りをしたのだった。







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あと一話、夜に更新します。

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