第20話 旅の仲間

 温かな温もりと一人じゃない、という安心感からか、昼間に大分寝たというのに、結局夜明け近くまで爆睡してしまった。


 目を開けて、夜明けの冷えた空気と傍らの温もりの温度差がうれしくなり、すりっと頬をもふもふな頭にすり寄せる。


「クゥ?」

「あっ、ごめん、起こしちゃったね。おはよう。夜はありがとう。貴方のお陰で、安心してゆっくりと眠れたよ」


 これだけ安心して夜に寝れたのは、前世の記憶を思い出して以来のことだった。

 スリスリと頬ずりを返されて、そのもふもふな感触にうれしくなって声を上げて笑ってしまった。

 そうして落ち着くと、改めて少しずつ明るくなって来た周囲を見回す。そこにはやはり、予想通りに角ウサギにネズミの魔物、そしてヘビの魔物などの小物な魔物の死骸があちこちにあった。


 ……今日は一番内側どころか二番目の結界もまだ消えてないのに、なんで死骸は結界の中にあるのかな?三番目の、一番外側の結界が消えているのはこれだけ魔物の襲撃があれば分かるんだけどね。


 今日のはどう考えても、結界の外でこの子が魔物を撃退し、死骸を結界内に持ち込んでゆっくり味わって食べた、って感じのキレイな死骸の状態だった。毛皮や皮、牙などは残っているが、内臓や肉はキレイになくなっているから、惨殺死体という感じではなかったのだ。


「ねえ、やっぱりあなた、私の結界を自由に出入り出来るんだね?……どうしてだかは分からないけど、まあ、いいか。あなたは私を襲わないでしょう?」

「ウォンッ!ウォンッ、ウォンッ!!」


 勿論だよ!とばかりに元気よく鳴いて、ついでにペロペロと顔を舐められる。


「ちょっ、ちょっと、くすぐったいわ!」


 クスクスと笑いながらじゃれあいつつ、この子とこうやっていられるのも今だけか、と寂しくなってしまったが、別れるまでは笑顔でいようと無理に微笑んだ。


「さあ!怪我の具合を見るわよ。とりあえず私からね」


 離れがたいがもふもふな毛並みから身体を離し、向き合うように座りなおす。そうして右腕の巻いた腰布をほどき、バナの葉を剥がして傷口を確認すると、無事に傷はふさがっていた。明日には包帯もとれそうだ。


「うん、良かった、治って来てる。でも今日一日は傷薬を塗っておこう」


 傷口をしっかりと洗ってから昨日余った傷薬をタブレットから取り出し、薄く傷口に塗るとバナの葉で覆って手早く腰布を結ぶ。左手で結ぶのも少しずつ慣れて来ていた。


「さあ次は、あなたの番ね」

「ウォンッ!」


 お座りをし、尻尾をブンブン振る姿に、もう大丈夫だろうと思いつつ、腰布をほどいてバナの葉をどける。

 そこには傷口はきれいに盛り上がり、もううっすらと筋しか見えなくなっていた。とんでもない回復力だ。


「うん、もう大丈夫そうだね。でも雑菌が入っちゃうか心配だから、薬だけは今日も塗っておくね」


 傷口を洗うのに寝転がって貰い、しっかりと傷口を確認しながら洗う。今日はもう全く沁みないのか、尻尾がパタパタとご機嫌そうに揺れている。

 満遍なく傷口を洗ってからキレイな布で拭くと、傷薬をタブレットで二つ交換する。そして薄く傷口に塗っていくと、今日はバナの葉で覆うことなくそっと毛で覆い隠した。


 包帯がなくなり、白いもふもふな毛並みだけになった背中とお腹をゆっくりと撫でると、気持ち良さそうに「キューーン」と鳴き声を上げた。


 ひとしきり全身を撫でると、水をお皿に生活魔法で注いで出し、少しだけ残っていたベリーを添えた。そして自分は今日もパンを変換して食べる。

 昨夜肉は食べたからベリーはいらないだろうが、こうして他の人と食事をするのも久しぶりなので、最後に一緒に食べたかったのだ。


 今ならここでスープを作ってもこの子がいるから魔物が来ても平気だけど、これからお別れをしなければならないことを思い、自分に戒めるようにパンをもそもそと噛みつつ言い聞かせた。


 この子はもっと森の奥とか山の方で群れで生活している筈よ。お父さんとお母さんが待っているかもしれないし。ここで別れなきゃ。そりゃあ一緒にいられたらうれしいけど、でもダメよ。


 何度も何度も自分に自問自答しながら、いつも以上に美味しく感じないパンをもそもそと食べ終え、思い切るように立ち上がった。


「よし、朝食も食べ終えたし!さあ、私ももう行くから、あなたも群れに戻って。私はこれ以上森の奥へは行けないけど、あなたはもっと奥か山で暮らしていたんでしょう?群れの皆が心配しているわ」


 これが最後だと、頭をよしよしと撫で、出していた大皿をタブレットにしまうと別れを告げた。


「キャウン!!クゥーーーーウォンッ!グルグルグル、ウォンッ、ウォンッ!!」


 ええ、なんでっ!置いていかないで、僕も一緒に行くよ!って言ってる感じかな?

 慌てたようにうろうろとしながらキュンキュン鼻をならし、うるうるとした瞳で上目遣いでこちらを見る姿から、そう言っているのだろうと推測した。


「え、だって、貴方は普段、群れで生活しているんじゃないの?」

「キャンキャンッ!」


 ブンブンと首を振る姿に、やっぱりしっかりと私が言っている意味を理解しているのだと改めて認識する。


「じゃあ、お父さんとお母さんは?あなたが居なくなって心配しているんじゃない?」


 思わずお父さんとお母さんの優しい笑顔を思い出して、つい俯き加減になってしまう。


 お父さんとお母さんがいるのなら、家族一緒に暮らした方が絶対にいいのだ。成獣になるまでの期間なんて、短いのだろうし尚更だ。


「……キューーーン。クゥーーン。ウォワオーーンッ!」


 そう別れを納得しようとしたのに、目の前の子もシュンと顔を下げ、寂しそうに鳴いた後、森の奥に向かって物悲しい声で遠吠えをした。

 あまりにその遠吠えの声がせつなくて、ああ、この子も親を亡くして寂しいんだな、と自然に感じていた。


「そっか……。私ももう、お父さんとお母さんも、誰も家族がいないの。あなたもなんだね?」

「ウォンッ!」


 しょんぼりしていた子が、私の問いかけに顔を上げ、そして頷きながら返事をした。


「そう。なら……。私と一緒に来てくれるの?私が大人になって街に行くかもしれないけど、それでもいいの?」

「ウォンッ、ウォンッ!キュフゥー!」


 目を見て問いかけるとうれしそうに鳴いて、鼻を鳴らしながら私に飛びついて顔をペロペロと舐めた。


「ちょっ、ちょっと、危ない、危ないからっ!きゃあっ!」


 あまりの勢いに押し返そうとしたが間に合わず、ドスンと尻もちをついてしまった。それなのにそんな私にのしかかるように更に顔をペロペロ舐められる。


「もう、喜んでくれているのは分かった、分かったから!もうお別れなんて言わないから、ちょっと、落ち着いてっ!」


 なんとか手で顔を舐められるのを阻止すると、今度はスリスリと胸元や頬にもふもふな顔をすり寄せたられる。

 さっきまで今生の別れだと、別れなくちゃと暗くなっていたのに、全身でふわふわもふもふな毛を抱きしめてなんだかおかしくなって来てしまった。


「ふふふ、あははははっ!……ありがとう。本当は、一人でずっと寂しかったの」


 ひとしきり笑った後、ついポツリと弱音が漏れてしまった。

 一度何もかも失って、あまりの寂しさに何も感じなくなっていた時に触れた温もりを、何よりも求めていたのは自分だったのだ。


「ねえ、これから一緒に行くなら、呼び名をつけていい?契約じゃなくていいの。名前がないと不便だし、名前であなたのことを呼びたいから」


 魔獣と契約するには、双方が同意をして名前をつけるのだ。そう教えてくれたのは、テムの町で畜産をしていたおじさんだ。農場の友人の処に遊びに行き、ついでにおつかいで卵を買いに行った時に、町で見かけた魔獣のことを思い出して聞いてみたのだ。


 それだけしかしらないから、実際にどう契約するかは分からなかったが、この子とは友人、対等な関係でいたいから、契約を無理に結ぶつもりは全くなかったのだ。ただずっと一緒に、そう、家族のように寄り添っていたいだけだったから。


 じっと瞳を見つめていると、そこに嫌悪の感情が現れることなく、ただ、うん、というように「クウン」と甘えた声で鳴いたのだった。


「ありがとう。そうね、貴方の呼び名は……」


 ホワイトウルフだから白だけど、シロじゃさすがに安直だし……。白い毛並みに金の瞳……。白いけど、どこか艶が輝いて見えるし、白と金で白金か。……そうだ!


「白金のオランダ語からウィト。ウィトっていうのはどう?」


 確か白金をオランダ語でウィトグラウドだったかウィトクラウドだったかそんな感じだったよね。なんとなくウィトという響きがピンと来たのよね。


「ウォンッ!ウォンッ、ウォンッ!!キャフゥーー!」

「ふふふ、ウィト、私はノアーティ、ノアよ。これから宜しくね!」


 興奮して私の回りをピョンピョンと飛び跳ねたウィトにまたペロペロと舐められまくり、お返しとばかりに全身でもふもふなでなでしまくり、動き出したのは結局お昼近くになってからだった。









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連休だというのに、また朝仕事に行く時間におき……( ;∀;)

本日も他サイトのランキングが上がったので3話更新します!

……今日も頑張ってひたすらストックを書き続けます。

また3時、8時ごろにあと二回更新しますので、どうぞ宜しくお願いします<(_ _)>

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