第12話 通販スキルと結界スキル

 結局、疲れてはいたがほとんど眠れずに朝を迎えた。


 何度か物音とともに襲撃して来たのは、小さな鼠の魔物と虫の魔物、そして蛇の魔物だった。

 一番怖かったのは、蛇の魔物だ。大きさは三十センチくらいだったが、気づいた時にはすぐ頭の上の木の幹にいたのだ。


 あの時は大きな悲鳴を上げそうになったが、反射的に結界を張って落ちて来た蛇も跳ね返すことが出来た。

 あれで一気に肝が冷え、眠気が飛んでそれからまんじりともせずに朝陽が昇るのを待ちわびていた。


「……このままじゃあ、ダメだ。眠気に倒れたら確実に死ぬよね……。小説で良く、気づいたら森の中ってのがあったけど、どうやって生き延びられていたのかな」


 ぼんやりする頭をふり、両手を広げて生活魔法を使って水を出す。その水で顔を洗うと、少しだけ目が覚めた気がした。


「そうだ。魔法の検証もしないと……。でも、とりあえずは今夜の安全な寝場所を探すのが先かな」



 とりあえず移動の前に、昨日は暗くなって出来なかった通販スキルの検証を続けた。


 変換リストの薪の変換素材として表示されたのは木の枝と木材だったので、木の枝を選んで変換してみるとタブレットの下から出て来たのはしっかりと乾燥してすぐに使える状態の薪だった。

 変換率としては、私の腕くらいの太さで約六十センチくらいの枝一本で、三十センチ程の薪一本だ。


 次にパン(黒パン)は、小麦粉の大袋一つと塩で私の両手に乗るサイズが五十個換算だった。同じ材料で自分で作った場合はもっと数は多く作れるので、作業工程分の変換コストがかかる計算なのだろう。


 試しに一つ変換して朝食に食べてみたが、町で買った黒パンよりも更に固くでもそもそしており、水分なしでは飲み込むのが大変だが、小麦粉をそのまま食べる訳にはいかないのでそこは我慢するしかないのだろう。


 ただ、スープ(塩)がグレイ文字なのに、捏ねて窯で焼く工程がかかるパン(黒パン)が黒文字なのは、最低限の恩恵か何かなのか、それとも別の意味があるのか。そこはこれからも色々と検証の必要はありそうだ。

 因みに服(簡易)はまんま貫頭衣で、針と糸が消費されてしまう分、もう二度と変換はしない、と誓った代物だった。


「変換に魔力がそれ程かからなかったのが、一番助かったよね。いつでも結界を張れるようにしないとならないから、魔力がかかるなら通販スキルなんて使えなかったし」


 ただ、今回は検証の為に一つずつしか変換しなかったので、一度に数量を多く指定した時の魔力の消費は検証しないと不明だった。

 ただ今の時点では町で買ったパンがなくなったらパン(黒パン)を変換するくらいしか使い道がないので、当分は魔力を通販スキルで使う心配はなさそうだ。


 他の物を収納したらまた変換リストが増えるか、グレイ文字はどうしたら黒文字に変わるのか、などの検証もこれからする予定なので、今日は寝られる場所を探しながら色々と採取するつもりだ。


「……幌馬車用の布が倉庫にあったから収納してあるし、何か支柱にすれ物があれば天幕みたいに使えるかな。とりあえず今夜の寝る場所を見つけたら、できるだけ安全に寝れないか色々試してみよう」


 よし!と気合を入れて立ち上がり、毛布を収納した。


「飲み水は生活魔法でなんとかなるけど、洗濯とかもあるからまずは水場を探そうかな」


 水場を探すのは確か基本だった筈だよね。ただ生活魔法で飲み水がある分、水場の重要性はこの世界では下がるのかもしれないけどね。


 テムの町では農地の傍に森から流れる川が流れているので、その川の上流を探すのを目的に森と草原の境を川の方へと歩きながら、様々な草や木の枝、それに木に絡まっている蔦などを引っ張っては手あたり次第に収納して行く。


 そうして陽が頭上に来る前に川のせせらぎを耳に捉え、その水音に向かってつい速足で進んで行くと。


「あった、川だ!……とりえず着替えて、洗濯をしてしまおう」


 この世界では布は貴重な為、庶民は基本的に数着しか服を持っていないので毎日着替える習慣はない。でも、下着だけは前世を思い出す前からしっかり毎日取り換えていた。もしかしたら無意識下で佐藤乃蒼としての意識が作用していたのかもしれない。


 見回しても誰の姿もないが、森に入って太い木の影に入ると、収納から下着を取り出して手早く着替える。そうしてテムの町での三日分の下着と一緒に桶に入れて川に向かった。


 そうして川に下りて水を汲み、洗濯をしていると後ろで砂利を踏む音がした。

 嫌な予感がして無意識の内に結界を張ってから立ち上がって振り返ると、すぐ目の前に鋭い角があった。


「きゃあっ!」


 とっさに張った結界は範囲が狭く、すぐ目の前で攻撃を跳ね返した衝撃に尻もちをつくと、結界がゆらぐ。

 そうして目にしたのは、今まさに私をめがけてとびかかろうとしている角ウサギの姿だった。


「いやあっ!け、結界!結界っ!!」


 二度目の攻撃で最初に張った結界は破られ、そしてギリギリで二度目で張った結界がすぐ目の前で攻撃を弾き返した。そしてゆらいだ結界の内側に、動揺して張った三度目の結界が小さい円を描いた。


 え?結界って重ねて張れるの?


 範囲としてはとても狭くなってしまっているが、感覚としてきちんと張られているのが分かる。そのことに安心して二度目の結界に力を込め、角ウサギが諦めるまでしのぐことが出来たのだった。




 洗い終わった下着を森から出てすぐの草原に広げるとその内側に毛布を二重に敷き、その毛布の外側に鍬を三本収納から取り出すと三角の頂点の位置に立て、その上に厚めの布を掛けると重しに斧を乗せて固定する。これでテントもどきの完成だ。

 ぐらっと鍬が傾きそうになるのをバランスを取ると、その中へ四つん這いになって入る。


「うん、十分な広さだね。じゃあ、ちょっと試してみよう」


 さっき川原で結界を二重に張れたことで、あれから角ウサギが諦めていなくなった後も、どれだけ持続するかを試してみると、ずっと魔力を注いでいなくても最初に結界を張る時に込めた魔力の量で持続時間が変化することが分かったのだ。

 最初に結界を無我夢中で張った時に比べると、格段に負担が少なくなっている。これは何度も使ったことで結界を張る時に無駄な魔力が少なくなっているのではないか、と思う。それと緊迫した状況で絞り出すように魔力を使っていたか、自分の中の魔力量が増えたように感じている。


 それでも攻撃を受ければ受けるだけ弱まるし、その攻撃が強ければ一度で破れてしまう。だから張っていれば安心、という訳にもいかないが、まだ町に近いこの草原なら、結界を三重に張り、地面からや空からの虫を防げば少しは眠れるのでは?と思ったのだ。


 どの道昨日はほとんど寝てないから、ここで少しは寝てないと魔物が活性化する夜に神経が持たないものね。でも布団を敷いて寝たら魔物に襲撃されても気づく自信はないから、とりあえず座ったまま少しだけ眠ろう。


 しっかりと結界が三重に張れたのを確認し、体育座りに座って顔を膝に埋めると、もうダメだった。ここのところの心労と身体の疲れが一気にのしかかって来る。


「……少し、だけ。仮眠で起きなきゃ……」


 なんとか意識だけは残しておこうとうつらうつらと眠るつもりが、いつしか深い眠りについていたのだった。

 





ーーーーーーー

見直し修正に時間がかかり遅くなりました……。GW中は2話(私が仕事の時は夕方と夜、休みは少し早めに)更新予定です。

本日よりもふもふ登場カウントダウンです!どうぞ宜しくお願いします<(_ _)>

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