最終話 「私をお母さんにしてくれる?」

エピローグ



5月の第2日曜日



 ゴールデンウィーク明けの憂鬱な平日を過ごし、ようやく念願の休日がやってきた!!


 陽葵は、あのあと無事に進学に成功し、近くの大学に通っていた。


 俺は無事に……とまではいかなかったが、なんとか就職することができた。

 二か月間の大激戦を制し、ようやく近場の小さな不動産会社に勤めることができた!

 不動産会社を選んだきっかけはもちろん佳乃さんとあの田舎の土地にあるシェアハウスだった。

 覚えることがいっぱいで忙しい毎日を送っていたが、前ほどブラックな職場ではなく、いつも励ましてくれる陽葵がそばにいたのでなんとか頑張ることができている。


 ——今のところ、佳乃さんところにお世話になる予定はない。

 もっと自分が成長できたら、自信が持てたら、そのときは佳乃さんに連絡をするという可能性がゼロではなかったが、大切な知り合いだからこそ迷惑をかけたくないという気持ちが強かった。


 省吾くんは、あのあとコンクールに手あたり次第に自分の作品を出したらしい。

 惨敗続きだったらしいが、最近ようやくひとつの作品が入賞できたとのことだった。

 省吾くん自身は、「小さいコンクールなので大したことない」と言っていたが、メールの文面からはどこか嬉しさがにじみ出ていた。



 ——そして、待ちに待った本日。

 今日は雅文さんの試合の日だった。


 陽葵と雅文さんの試合を観戦をするのに現地に向かっているところだった。


 現地で、省吾くんと佳乃さんとも落ち合う予定だ。


「三人に会うの久しぶりだね!」


 陽葵は髪が伸びて少しだけ大人っぽくなった。

 心配性なのは相変わらずだったが、お互いの仕事や学校の愚痴を言い合いながら楽しくやっている。


 陽葵と付き合うというのが周知してからは、うちのオカンの陽葵への溺愛がさらに加速した。何かあるごとにヒマちゃんはどうした、ヒマちゃんを泣かせたら許さないと耳にタコができるほど俺に言ってくる。


 陽葵んちのおばさんは、何かイベントがあるごとに俺を陽葵のうちに呼びつける。

 お互いの親は、前にもまして、俺たちのこと家族同然として可愛がってくれている。


 今日は、そんなオカンたちから解放され、久しぶりに陽葵と二人でデートだった。


「冬のときもKO勝ちだったから今日も期待だな!!」

「うー、男の子はそういうの好きだよね……、私はいまだに知り合いが殴り合うところって慣れないなぁ」


 手を繋ぎ、二人でそんな会話をしながら雅文さんの試合会場に向かっていく。

 

 会場近くにいくと、手を振っている二人の姿が見えた。




※※※




「雅文さんがマジかっこよかったです!!!」


 興奮冷めやらぬまま、控室にいる雅文さんをみんなでねぎらっていた。


「今日は春斗のためにも負けられなかったからな」


 雅文さんが汗だくの体を拭きながら、俺に拳を突き出す。

 俺も雅文さんの拳にコツンと自分の拳を合わせた。


 2ラウンド KO勝ち。


 今日の雅文さんの成績だった。

 内容的にも雅文さんの圧勝。

 これからに繋がる大切な試合だったらしく、相手のノックダウン時には雅文さんが珍しく大きくガッツポーズをしていた。


「春斗、雅文が勝ったんだから忘れるなよ。これはあのときの罰ゲームでもあるんだからな」

「わ、分かってますって!」


 省吾くんが俺に肩を回して、そう言ってきた。


 やっぱりこの人たち、俺をおもちゃにして楽しんでる!

 そもそもこの人たちに最初に相談したのが間違いだった!

 

「三人とも何の話してるんだ?」


 佳乃さんの頭の上にクエスチョンマークがでていた。


「もし、うまくいったら佳乃さんにもちゃんと報告しますんで。ダメだったら慰めてください……」

「佳乃さんに慰めてもらうってどういうこと!?」


 陽葵が俺の服の裾をちょいちょいと引っ張り、怒りのスーパー陽葵ちゃんになりかけていた。

 見た目は少しだけ大人っぽくなった陽葵だったが、こういうところは全然前と変わっていなかった。


「じゃ、じゃあ皆さんあとで連絡しますんで!」

「はいよ、ちゃんと決めてこいよ」


 省吾くんが痛いくらいに俺の背中をバチンと引っぱたたいた。




※※※




「雅文さんすごかったね! 雅文さんって試合のとき髪あげるてるよね! 意外とイケメンなんだもん! これから人気でるかもね!」

「彼氏の前でそういうこと言う……」


 陽葵に中々言い出すことが出来ずに、ウチの近くまで来てしまっていた。

 このままでは、また賑やかなオカン共に陽葵との時間を邪魔されてしまう。


 あそこの電柱を曲がったら、ウチはもうすぐそこだ!

 そろそろ決めないと、それこそあの二人に何を言われるか分からない。


「あそこの電柱懐かしいね、あそこでむかし春斗くんと学校行く待ち合わせしたよね」


 ニコニコと陽葵が思い出話をする。

 こっちはそんな思い出話どころじゃなかった。


 心臓がバクバクするし、何だか喉もからからだ。


「ひ、陽葵!」


 ちょうど電柱のあたりにきたところで、ようやく陽葵に声をかけることができた。


「どうしたの春斗くん? 何か怖い顔してるよ」

「た、大切な話があるんだけど」


 き、緊張する!!

 ずっと陽葵とは一緒にいるのになんでこうも緊張するんだろう!


「なーに?」


 陽葵が不思議そうに首をかしげて、俺を見つめる。

 中々声が出すことができなかったが、省吾くんにぶっ叩かれた背中がじんじんと少しだけ後押ししてくれている気がした。


「じ、実は陽葵が高校卒業したらずっと言おうと思ってたことがあって……」


 ごそごそと自分のカバンからを取り出す。


「これ、給料三ヶ月分とは行かなかったけど……。ちゃんと陽葵に俺の気持ちを伝えときたくて」


 パカっとその指輪の箱を開ける。


「佐藤陽葵さん、俺といつか結婚してください! も、もちろんすぐにとは言わないから! これからもっと仕事頑張って、陽葵のこと幸せにできるようにもっと頑張るから! ただこれからの二人の約束としてこれを受け取って欲しくて……」


 緊張のあまりつい早口になってしまった……。

 場所は道端の電柱の近くだし、もっと良い場所でかっこいい言葉を陽葵に伝えたかったのに! 

 せっかく、あの二人に相談して色々とシミュレートしていたのに緊張と焦りでとんでもないところでプロポーズしてしまった!

 

「ふふっ、春斗くんすごい真剣な顔だったから何を言うかと思ったら」


 陽葵のことをよく見ると、顔は真っ赤になっていて今にも泣きだしそうな顔になっていた。

 多分、俺も陽葵と同じ顔をしていたと思う。


「……そ、それで答えを聞かせてもらえると嬉しいんだけど」


 恐る恐る俺がそう言うと、陽葵がこちらに左手を差し出した。


「えへへへ、指輪はめて。ちゃんと薬指だよ!」


 陽葵が甘えるように俺にそう言ってきた。


「心配だから、ちゃんと言葉で聞かせて欲しいんだけど……」

「……ねぇねぇ春斗くん、前にうちのお母さんがなんて言ったか覚えてる?」

「? なんのこと?」


 陽葵が、あの夏の日の眩しい太陽ような笑顔を俺に咲かせて見せた。



「春斗くんは私をお母さんにしてくれる?」



 オカン系幼馴染から彼女に。

 ――彼女から、オカンではなくお母さんへと。

 

 陽葵が未来への希望に胸をいっぱいにして俺にそう言ってきた。











リアルがつらいので山奥に逃げ込んだら、何故か年下のオカン系幼馴染もついてきた!! ~シェアハウスで一緒に過ごす彼女がすごくかわいい!!~


~FIN~ 






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おわりに



 ここまで、この作品をお読みいただき本当にありがとうございました。 


 たくさんの応援をいただき、読んでいただいた皆様には本当に感謝しております。


 皆様のおかげで、何よりも私自身が楽しくこの作品を書き上げることができました。

 お読みいただけた人の心に、少しでも爽やかな風が吹く作品になれれば嬉しい限りです。


 この作品を読んでいただき本当に本当にありがとうございました!

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リアルがつらいので山奥に逃げ込んだら、何故か年下のオカン系幼馴染もついてきた!! ~シェアハウスで一緒に過ごす彼女がすごくかわいい!!~ 丸焦ししゃも @sisyamoA

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