第四章 「好きなだけでも大丈夫?」
第31話 「大家さん再び」
8月4日
早朝の勉強の終え、今日も全員で佳乃さんの部屋の片づけをしていた。
昨日よりはまだ見れる部屋になってはきたが、いかんせんゴミの量が多すぎて中々片付かない。
佳乃さんの部屋のゴミはシェアハウスの庭で山積みになっていた。
「ゴミ捨てってどうしてるんですか?」
ふと、
「裏庭に溜めといて、ごみ収集所まで大家さんがいつも持っていってる」
「あれ? 省吾くんと雅文さん、前にドラム缶でゴミ燃やしてませんでしたっけ?」
「あれは、そこの畑の草木燃やしてただけ。普通にゴミ燃やしちゃダメなんだとさ」
「へぇ~」
陽葵の質問に省吾くんがそう答える。
田舎の人たちってゴミをドラム缶などで焼却しているイメージがあったのだが、どうもそういうわけにはいかないらしい。
「そう言えば大家さんってそろそろ戻ってくるんですか?」
「大体、週一とか十日に一回はくるからそろそろかなぁ」
「このゴミの処分は骨が折れそうですね……」
俺が大家さんについて聞くと、省吾くんがそう答える。
ちらっと佳乃さんを見る。
当の佳乃さんは、少しずつ綺麗になっていく部屋の真ん中で落ち着かなさそうにそわそわしていた。
このゴミの山を処分するなんて……なんて可哀想な大家さん……。
「大家ちゃんそろそろくるの?」
そんなことを考えていたら、佳乃さんも俺たちの会話に混ざってきた。
「そろそろだと思うんですけどねー、あんまりアテにしないでくださいよ」
「そっか~」
佳乃さんがニカっと笑う。
「ヒマリ、大家ちゃんきたらこの前話してたアレやろうな」
「はーい、楽しみです!」
陽葵と佳乃さんがそんな会話をしている。
「アレってなんですか?」
そんなこと言われると、当然気になってしまうので佳乃さんに質問してみる。
「春斗には、まだ内緒」
そう言われて、仲間外れにされてしまった。
※※※
「ただいまー」
昼下がりの午後、ガラガラっと玄関の引き戸の音と同時に澄んだ女性の声が聞こえてきた。
この声は大家さんだ! 大家さんが帰ってきたのだ!
省吾くんのカンがどんぴしゃで当たった!!
「あっ! ご無沙汰してまーす」
「あっ、佐藤さんこんにちはー」
佳乃さんの部屋のゴミを持ち出していた陽葵と大家さんが鉢合わせになる。
「……外のゴミなんですか?」
「今、佳乃さんのお部屋の片づけしてるんです!」
「あー……」
大家さんは何かを察したように頷いていた。
「大家さんお久しぶりです!」
「鈴木さんもこんにちはー!」
陽葵と話していた大家さんに俺も元気よく声をかける。
「もう二人ともすっかり馴染んだみたいですね」
「おかげさまで!」
大家さんが嬉しそうにクスクスと笑っていた。
「ほら、
「こんにちはー」
げぇ!
今日は娘さんも同伴だった!
ファーストコンタクトでやらかしてるので大分この子に苦手意識が強かった。
「こんにちは紬ちゃん、今度はお姉ちゃんと遊んでね」
にっこりと陽葵が紬ちゃんに挨拶をする。
その言い方はお姉ちゃんじゃなくてオカンだと何度言えば……。
「はい、宜しくお願いします。佐藤さん、鈴木さん」
どこか紬ちゃんのテンションは低いように見えた。
「お~~、大家ちゃん来たかーー」
「あーー! 佳乃さんお久しぶりです!」
佳乃さんが二階に下りてきた。
清楚系美女と妖艶系美女が初めて共演する!!
このシェアハウスに天国階段ヘヴンズドアーが開かれた……!
眼福、眼福。よく今の光景を目に焼き付けておこう。
「春斗くん-ーーっ!! あっ!」
隣の陽葵が突然俺の名前を呼ぶが、何かを思い出したかのように黙り込んでしまった。
「……どしたんだ陽葵?」
「うぅうう、言いたくなったけど我慢する」
「変な陽葵」
陽葵が一人でうめき込んでいる。
「あれあれ? もしかして二人って」
大家さんが楽しそうにニコニコと笑っている。
目には悪戯心が宿っていた。
「そうだよ、そこの二人付き合い始めたんだから大家ちゃんは邪魔しちゃダメだぞ」
「えぇえええ、詳しく聞かせてくださいよ!」
佳乃さんがそう言うと、大家さんのテンションが急に上がり黄色い声を出した。
※※※
「へぇー、じゃあ陽葵ちゃんから言っちゃったんだ」
「そうなんですよ!」
キッチンで陽葵と大家さんが夕食の準備をしながら、ガールズトークに花を咲かせている。
隣の和室のテーブルには俺と紬ちゃんが並んで座っている。
……居づらい、大変居づらい。
そんな俺の気持ちをよそに紬ちゃんは黙々と文庫サイズの本に目を通している。
「紬ちゃんは何の本読んでるの?」
「普通の本ですよー」
「そっかぁ」
「……」
会 話 終 了。
紬ちゃんとのコミュニケーションに挑戦するが、あえなく失敗する。
省吾くん! 雅文さん! 早くきてくれーー!!
この空気をなんとかしてくれーー!!
「きょ、今日のご飯何になる?」
この空気感から逃れるために、キッチンにいる陽葵に声をかける。
「んー、大家さんと今から揚げ作ってるところー」
「から揚げかー、いいねー」
「あっ、あと味噌汁は大家さんが買ってきてくれたからナメコにするね」
えっ。
まさかのナメコ再び。
なんでこのシェアハウス、ナメコ常備しようとするの?
「豆腐もあるから全部入れちゃっおうか、陽葵ちゃん」
「はーい!」
大家さんの提案により豆腐とナメコの混合軍が生まれた。
いや、美味しいから別にいいんだけどさ。
「そう言えば、省吾さんと鈴木さんって少し似てますよね」
「えぇええ、どんなところがですか?」
大家さんにとんでもなく不本意なことを言われてしまう。
「ほら、省吾さんもナメコの味噌汁好きだから」
ナメコ酷使の戦犯がまた一人見つかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます