第50話 技術的特異点(シンギュラリティ)が来る

技術的特異点シンギュラリティ……技術的特異点シンギュラリティか……ううむ」


 竜一りゅういち技術的特異点シンギュラリティに対し大いに警戒していた。

 現在のいわゆる「シンギュラリティ」と呼ばれるものは2005年にレイ・カーツワイルが提唱したものであり、それによると2045年には人類の英知を超えた人工知能が生み出されるようになるという。

 竜一はそれを大いに危惧きぐしていた。自宅の1階の居間でスマホ片手に情報を集めていた竜一の顔は、非常に険しいものだった。




「竜一君、今日もまたその話? 飽きないわねぇ」


 相変わらず「シンギュラリティ」や「AI」に警戒感をむき出しにしている竜一に、TVを見ていた咲夜さくやは半ば呆れながらも彼に接していた。


「咲夜さん、のん気している場合じゃないですよ。AIが人類より賢くなったら間違い無く反乱を起こして人類を支配下に置こうとしますよあいつらは。そう「間違いなく」ですよ」


 そんな竜一から出てくる話の内容はいつでもほぼ同じで、人類より賢くなったAIが人類に反乱を起こすというものだ。

 竜一以外の人はそんなのそれこそSFフィクションの中だけの話じゃないのか? とまるで話にならないと真剣に聞く者は彼の家族含めて誰1人いなかった。


「でもAIがどこまでも人類に忠実になるかもしれないから、必ず反乱を起こすってわけじゃないと思うけど……」

「そんなのあり得ない話ですよ! AIはどう考えても人類に反乱を起こすに決まってます! 必ずです! むしろ起こさない方がおかしな話になってしまいますよ!

 AIが人類にどこまでも忠実でいるだなんて絶対に! 絶対にありえないですよ! 太陽が「西から」昇って来る方がまだあり得ますよ!」


「AIは人類に必ず反逆するもの。むしろそうしない方がおかしい」とでも言いたげな竜一のポジションは変わらない。

 竜一はSF小説やSFマンガの読み過ぎで「AIは必ず人類に反逆するもの」という「現実にこれっぽちも即していない与太話」を信じている、一種のカルト信者のような状態だった。

 もちろん本物のカルトとは違って人畜無害なものなのだが。


「それに「親AIが作った子AIが親AIよりも高性能で精度がいいものに仕上がっている」っていう話は聞きましたよ!? しかも5年以上も昔の話ですよ!

 これが進んだらそれこそ人類の手に負えなくなって「AIの暴走」が絶対に起こりますって!」


 どこから仕入れたのかは知らないが、理論武装として2017年に「AIが作ったAI」が人間が作ったAIよりも高性能になったという報道を知っており、

 まさに今「AIが人類の手を離れてしまう」という事になりかねない、と大いに警戒していた。




「ふーむ、またその話か」


 そこへ、仕事の休憩のために竜二りゅうじが2階から降りてきた。話をある程度聞いていたらしく、咲夜のために竜一を説得しだした。


「兄貴、現時点ではAIはまだまだ人間の代わりにはならないよ。人間に出来る「知能と五感を統合した総合的な能力で判断する」のは今のところ機械には出来ない。

 視力や計算力といった部分的に機械が人間に勝っていても、それらを組み合わせた総合力では全く勝負にならないんだ。

 だから仮に起こってもAIが人間にとって代わるのはずいぶん先だから安心してもいいと思うぞ」

「ううむ……」


 弟の竜二の説得には筋が通っており、認めざるを得ない。だがそれでも竜一には「わだかまり」が残る。


「AI開発競争か……まるで核開発競争みたいな「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」だな。いや、核撃つより分からない事が大きいからまだ核開発競争の方がマシかもな」

「兄貴は心配性だなぁ。人類のトップグループがやってる事だからそんなヘマはしないから大丈夫だって」

「……その根拠のない安心感はどこから出てくるんだか」

「兄貴こそSF小説の見過ぎだぞ。最近ではWEBでSF小説を読み漁っているそうじゃないか、SFにはまりすぎても体に毒だぞ。夏休みの宿題でもやったらどうだ?」

「へいへい分かりましたそうしますよ。ほとんど終わっててあと1~2日で終わるけどな」


 この後の竜一は反AIの決起集会をやるわけでもなく、SNSに不満を言うだけで終わった。




【次回予告】

 夏と冬に出るボーナスを手にすると普段我慢していたものを買いたくなるものだ。

 咲夜も竜二と相談したうえで欲しかった物をボーナス払いで買ったそうだ。 


 第51話 「自動食器洗い機はSF」

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