第49話 ハイブリッド自動車はSF

 お盆が終わった8月下旬のある日の夕方、午後5時35分ごろ……竜一りゅういちは車オタクの友人と一緒に、県内の幹線道路沿いで「馬」が来るのを待っていた。

「馬」とはいうものの、もちろん動物の「馬」が来るわけじゃない。馬は馬でも「跳ね馬はねうま」だ。


「時刻は……午後5時37分か。そろそろ来るはずなんだがなぁ」


 車オタクの友人はスマホで時刻を確認する。彼の統計によると午後5時40分から50分ぐらいの間に「来る」のだそうだが……。

 アスファルトやコンクリートが熱を反射する上に、車の排気熱でクソ暑い中を待ち続ける事さらに5分、その時だ。



──オォオオオオオ!



 竜一にとっては普通の車のエンジン音とさして変わらないが、友人が言うには「100メートル離れた先でもわかる」という独特のエンジン音を、騒音の多い幹線道路で聞き分ける。

 直後、車群の中でも飛びぬけて目立つ口紅のように魅惑的な深紅の、なおかつ美しいボディを持つ車体がその姿を現した。世界的に有名なスポーツカー「フェラーリ」である。




「っっっくーーーっ! やっぱり生で見る本物のフェラーリは格別だぜ! 俺学校を卒業したら絶対フェラーリに乗れるくらい儲かる会社作るんだ!」


 車オタクであるこの友人は生のフェラーリを見るために目撃情報を集め、通勤でもしているのか平日は一定の時刻にこの道路をフェラーリが通るという情報を探し当て、こうして見ているそうだ。


「……満足したか?」

「ああもちろんだとも! にしても竜一が来てくれるとは思ってなかったぜ。いつも1人で見てたけど2人で見るのもおつなもんだな」


 一応は付き合いのため、社会人で言う「接待ゴルフ」や「接待麻雀マージャン」みたいなノリで一緒にフェラーリを見ようとなったのは昨日の話。

 図書館で宿題を片付けているところ偶然会って、久しぶりに会って話をしたらいつの間にかそういう流れになっていたのだ。

 こんなクソ暑い目に遭うとは思ってはいなかったのだが。

 お目当てのモノを見れてあとは家に帰るだけとなった時、竜一の目にとある車が映った。それは「家でよく見ているけど違う車」だった。


「!? オイ! あの車! うちの車と同じだぜ! 車種も色も全く同じだ!」


 車種と色が竜一の家にあるものと完全に同じ車を見て竜一は声を上げた。それを見た友人はパッと見ただけで車種を特定する。


「へーそうなんだ。まぁよくあるハイブリッドの軽自動車だね」

「? ハイブリッド……? 何が「ハイブリッド」なんだ?」


 ハイブリッド……スマホが言うには確か「雑種」とでもいうべき単語だが、うちの車のどこがハイブリッドなんだ? 竜一は初めて聞く言葉だ。




「? なんだ竜一、お前「ハイブリッド」も知らないのか? じゃあ教えるよ」


 2人は自転車に乗りながら話を始めた。


「ハイブリッドっていうのは、簡単に言えばガソリンエンジンと電気モーターの2種類の動力源がある車の事さ。

 ガソリン車と電気自動車の「雑種ハイブリッド」っていう意味でつけられたんだ。まぁ実際に登場したのはハイブリッド車の方が電気自動車よりもずっと早いんだけどね」


 友人はここぞとばかりに自動車トークをしだす。竜一は「ハイブリッド」の解説として素直に聞いていた。


「へぇ! ガソリンエンジンと電気モーターの2刀流か! スゲェな! でも何でそんなことするの? 別にガソリンエンジンだけでも十分でしょ?」


「電気モーターの方がトルク、要は車を動かす力が強いから速度が遅いうちは電気モーターを使って、速度が出てきたらガソリンエンジンに切り替えることで燃費が大幅に向上するんだ。

 実際、ハイブリッド車初登場時には燃費が31キロっていう当時は驚異的な数値を叩き出したんだ」


「へぇ! そうなんだ、スゲェな! でもさぁ、モーター使うなら電気の充電しなきゃいけないだろ? それはどうやってするんだ? 俺の家の車は充電している様子はなかったんだけど」

「ハイブリッド車には「回生ブレーキ」っていうのが付いててブレーキの力を電力に変換する機能が付いてるんだ。

 それでも足りなければガソリンエンジンから電力を供給するシステムが出来上がってて、外部からの充電をしなくてもバッテリー切れの心配はないんだよ」

「へぇ! スゲェなぁ! 電気を使うのに充電いらずと来たか! センスオブワンダーを感じるなぁ」

「そうかそうかい。あ、俺の家は向こうだから、じゃあな!」


 そう言って友人は竜一の家とは違う方向に自転車をこぎだして去っていった。




【次回予告】

 シンギュラリティ……「技術的特異点」ともいわれるそれはAIが人類の英知よりも賢くなる地点。

 一般的に2045年に来るとされるそれに竜一は大いに警戒していた。


 第50話 「技術的特異点シンギュラリティが来る」

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