第29話 自動運転車はSF

 その日、竜一りゅういち咲夜さくやと一緒に夕食の買い出しに出かけていた。無事に買うものは買ってあとは家まで帰るだけ、となったのだが……。

 竜二と咲夜を乗せた軽自動車が市街地を走っていた時、道路沿いのとある家の前から突然! 子供がひょこっと出てきた。


「なっ!」

「あ、危ない!」


 まさか子供が飛び出してくるなんて予想もできなかったので、竜一も咲夜も気づくのに遅れてしまった。2人が危険を感じた瞬間! アラーム音と共に急にブレーキがかかった。

 車の中の2人はもちろん、子供もけがはなく、無傷で済んだ。



「うわ……危ねぇ。咲夜さんナイスですね」

「う、うん。助かったみたい……」


 その後騒ぎを聞いて子供の母親が出てきて、咲夜と5分ほどやり取りをした後「何もなかったから」という理由で今回の話はお互いに無かったことにしよう。となって終わりになった。




 自宅に帰り夕食を取った後、咲夜と竜一は竜也たつやが部屋に行って居間にはいないのを確認したうえで今日起きたことを正直に竜二りゅうじに話した。


「そうか……そんなことがあったのか。お前たちも子供も怪我しなかったってのは幸いだな」

「ええ。あの車を買って正解だったわ。もし自動運転システムが付いてなかったら絶対ひいてたと思う」

「ええ!? じ、自動運転システムがついた車が既に市販化されているのか!? ス、スゲェ! もうそんな時代が来てるのか!」


 門河かどかわ家の人間からしたらすっかりおなじみの「スゲェ」がまた出てきた。


「竜一君落ち着いて。自動運転って言ってもせいぜい「アクセルとブレーキの踏み間違い」を防止してくれたり、バックでの駐車をサポートしてくれたり、といった程度よ。あとは今日の件みたいな急な時に自動でブレーキがかかる機能があるくらいかな」


「車の自動運転システム」というSFにしか出てきそうにない言葉に咲夜はそう言って「自動運転」と言ってもせいぜいが運転の補助程度のものだというのを説明する。

 現代の車には「自動運転機能」が付いている。と言っても竜一が想像していたような目的地を入力すれば全自動でそこまで走ってくれる、というものとは程遠いものだ。おそらく竜一が頭の中でイメージしているであろう「自動運転」は、現代で言う「レベル5の完全自動運転」であり、それとは違うのを理解してもらった。


「そ、そうなんだ。でも30年でそこまで行けたんだからそのうち完全自動運転もできそうだな。

 そしたらカーナビみたいに目的地を入力すれば自動的にそこまで運転してくれるっていうのも、もしかしたら俺が生きてるうちに出来そうだな」

「自動運転か。そういえばまだ最新車種に限られてるけど手放しで運転できる車もあるとは聞いてるぞ」

「えええ!? 手放しで車が自動的に運転してくれるのか!? ス、スゲェ! もうそんな時代にまでなっているのか!?」

「手放し運転ができるって言っても、高速道路で渋滞した時みたいな特定の状況でないと使えないけどな。あと車線をはみ出さないように自動運転してくれるのがせいぜいかな」

「はー……でも自動で運転してくれるのかー、スゲェや着実に未来に近づいてるじゃないか! 良いことなんじゃないのか?」


 竜一は相変わらず未来は今よりもっと良くなると無条件に信じていて、将来は科学の発展が見せる新しい世界が見れると思っていた。

 そこへ竜二からさらに凄いニュースを聞くことになる。




「俺としてはそれよりも自動車メーカーが次世代車技術の実証実験をするために都市を丸ごと1個作るって事の方が凄いと思うけどなぁ」

「な、何ぃ!? 車の実証実験のために町1つ丸ごと作るのか!? そんなとんでもないことを日本の車メーカーがやるのか!?

 ス、スゲェ! そんなのSF作家でも思いつかないよ! いやぁーさすが平成の先にある世界だけあるなー!」


 車のために都市1つ丸ごと作ることまでやってのける日本の自動車メーカーの本気ぶりに大興奮だ。

 まだまだSFにあった物そのまんまとはいかないが、それでもSFの世界目指して現実が近づいている事、それに車のために町を1つ作ることまでやってのけるという、SFの世界にも無かった自動車メーカーに大満足だった。




【次回予告】

 今日は6月17日。竜二と咲夜が夫婦となった日。その祝いにダイヤモンドの指輪を愛する妻に送った。

 この指輪が竜一にとってはSFの世界で出てくるものだったのだが……。


 第30話 「人工宝石はSF」

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