Day2 廊下にて

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朝起きると、夜寝る時と同じ光景が広がっていた。

つまり、迫間はまだアイヌ語の教本と睨めっこしていたのだ。


正直、異常だと思う。


ここまでの執念を生み出した、七加瀬達の過去。


いつか、私にも話してくれる日が来るのだろうか?


「あら、起きたのね。もうそんな時間か。今日はここまでね」


起きた私に気づいた迫間は、教本を閉じる。


時計を見ると、時間は7時前。


昨日に朝食の時間と言われていた9時には少し早い時間だ。


「せ、洗面所に行って顔を洗ってくる」


「そう、鍵は開けっぱなしにしとくわ。私は軽く朝の体操でもしようかしらね」


そう言い、懐から取り出した鍵で扉を開けてくれる。


「あ、有難う。それじゃ行ってくる」


そう言い部屋を出て、大浴場に備え付けの洗面所へと向かう。


しかし、これだけ大きい屋敷なのに、洗面所もトイレも部屋に備わってないとは。

絶妙にめんどくさい。


そう思いつつ洗面所に向かう私は、昨夜と同じく腰に鍵束を携える仮名山と遭遇する。


「おやおや、これは斑井君。迫間嬢とは、よく眠れたかね?」


「あ、ああ。い、色々興味深い話が聞けたよ。そ、それより私の名前、しっかり覚えてくれてるんだな」


「それは勿論。あんな印象的な自己紹介は初めてだよ」


このセクハラ親父、なかなかに痛いところをついてくる。


「そういえば、斑井君。君は、七加瀬君と付き合っているのかい?」


「は!?な、ば、ば、ば、ば、馬鹿じゃないのかお前は!!」


突然何を言っているんだコイツは。


確かに、そういう言動はあったかもしれないが!それでも、面と向かって聞くか?!


「ふむ・・・その反応は本当に付き合ってなさそうだな。ならば、」


「ご主人様」


仮名山が、次の言葉を発する前に、こちらに駆け寄り、声を掛ける者がいた。

それは使用人の一人、たしか名前はルイーゼだったであろうか?


南欧出身の胸のでかい使用人だ。


「ご主人様。三戸森が、急ぎで話があるとの事でロッジにて待機しております」


「おお、そうか。新作の件かな?行ってみよう。それでは斑井君、まだまだ島のバカンスは始まったばかりだ。話はまた今度しよう」


そう言い仮名山は、二階の客室の廊下を抜けて一階へ降りて行った。


「いやー、相変わらずお盛んだねぇ。アンタ、危なかったね」


ルイーゼは、仮名山が見えなくなった事を確認してから話し出す。


・・・私には敬語じゃないんだ。まあ、良いけど。


「あ、危なかったって、何がだ?」


「今の流れで、アンタ分かんないの?仮名山のあの後の言葉はね、『今晩セックスしないか?』だよ」


「なっ!せせせっ!せっ!セックス!?」


「ハハ、慌てすぎだろ。その感じ、処女かい?守ってよかった」


「しょ、処女じゃねぇし!!」


勿論処女なのだが。


にしても、その言葉が本当ならば、仮名山から守ってもらったということになるのだろうか。


「あ、有難う。ど、どうやら、助けてもらったみたいだ」


「いやいや。礼なら今頃ロッジで何のことか分からずに、適当に仮名山をあしらってる三戸森に言ってやってくれよ。私は私で打算の上でやってる事だからね」


「だ、打算?」


「なぁ、あんたさ・・・」


そう言いながら、こちらへドンドン距離を詰めてくるルイーゼ。


私も合わせて後退するが、背中が壁に激突する。


そんな私に、身長差が10cm以上ある彼女が、覆いかぶさる様に豊満な身体を押し付けてくる。


お、溺れる・・・!!色んな意味で!


「仮名山なんかとじゃ無くて、私とセックスしないかい?膜は破らない様にするし、絶対に気持ち良くする自信があるからさ」


そっちの人だったのかよ!!


ルイーゼも仮名山の事言えないじゃないか!


た、確かに私もルイーゼをエロい目で見てたけども!さ、流石に、同性は・・・!


と思いつつも、仮名山の話を聞いた時よりも不快感が無いのは、やはり見た目が関係しているのであろう。



現在進行形で顔に押しつけられている豊満な胸に冷静な判断が出来なくなる。


ああ。サヨナラ、私の貞操。せめてアブノーマルじゃなく、ノーマルな卒業を果たしたかったよ。


欲に負けそうになり、ルイーゼの胸と同じく豊満な尻に手を伸ばそうとしたその時、突然ルイーゼは私を解放する。


「まあ、考えといてくれよ。別に強制や襲ったりなんてしないさ。ただ、お互い気持ち良くなりたい時に話しかけてくれれば良いよ」


そう言い、手を軽く振りながら廊下の奥に消えていくルイーゼ。


・・・悶々とした気分で放置される私。これでは生殺しではないか。


「ねぇ、ウェスタ。見て見て。またルイーゼに堕ちそうになってる女の子がいるよ」


「あれはもう時間の問題ですね。今日の晩には百合の花を咲かせているでしょう」


ルイーゼを見送った先と逆の廊下から、声が聞こえる。


そちらを振り返ると、予想通りに双子の使用人、ウェスタとイェスタが廊下の角から首だけを出して、こちらを覗き込んでいた。


「ど、何処から見てたんだ?」


「貴女がルイーゼの胸に顔をうずめて、興奮しながらルイーゼのお尻を揉みしだこうとしていた所からですね」


「そ、そうじゃなくて!あ、アレは、不可抗力で!」


確かに、そうだが!そうじゃないんだ!


「ウェスタ、虐めないであげなよ〜。どうせルイーゼが強引に誘惑したに決まってるじゃん。それでキワキワで止めて生殺しにさせて、相手から求めてくる様にする作戦だよ。内気な子はこの作戦にハマって、ルイーゼにハメられちゃうんだよね〜」


「姉さん、下品です」


「いやいや、失敬。でもルイーゼも、今回はかなりヤル気だねぇ。わざわざご主人様の斑井さんへの呼び掛けすら邪魔するなんて」


「私には分かってましたよ。明らかに、斑井さんは、ルイーゼの好み、いうならドストライクって感じですから」



「ど、ドストライク・・・」


「ええ。内気で、身長が少し低くて、平均体型より少し痩せ型。そして、中途半端に美人」


「成る程、中途半端に美人か!確かにルイーゼ、そういうの好きかも!」


「ちゅ、中途半端に美人で悪かったな!」


「ああ、ごめんごめん!本当に怒らせるつもりはないんだよ。それにセックスの件も、嫌だったら嫌ってルイーゼに言っても良いと思う。そんなんじゃ、ルイーゼは気分を悪くしないし。でも、ルイーゼは本当に“上手い”から、その気になったら声をかけても良いかも。ルイーゼも相当喜ぶと思うよ!」


「保証します」


「ほ、保証しますっていったって・・・」


同性なのだから。


答えはひとつだ。


「か、考えておくよ」


・・・性欲に負けた訳じゃない。


そう、興味本位だ。


しかし、何故最近になってこんなにも性に興味が湧いてきたのだろうか?


やはり、生活に余裕ができたからであろうか?


それでも同性、特に胸に対しての興味がやたらに高い気がするのは何故だろうか。不思議である。


「それでは、朝食の準備がありますので私達はこれで」


「斑井さん、また朝食の時にね〜、」


「あ、ああ」



昨日は使用人は誰もが無言で、礼儀正しい振る舞いをしていたが、どうやらそれは仮名山の前だけの様だ。


しかし、フランクすぎるのも考え様だ。


もうちょっとだけ、敬ってほしい。客人なのだから。


いやまあ、ボディーガードという名の付き添いではあるのだが・・・。


そう思いつつ、たどり着いた洗面所にて顔を洗う。


髪の毛は起きた時から癖づいているので、これといって整える必要はない。


こういう朝の場面だけ、自分の癖毛に感謝する。

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