2 内気な少女

 結局打ち上げに行く人は50人を超えたため、五グループに分けて10人前後でそれぞれ違う店に行くこととなった。ちなみに優輝は違うグループとなった。それどころか顔見知りが一人も同じグループにいないのである。つまり、俺は現在まわりに一人も知り合いがいない状態で焼き肉屋に来ていた。

「とりあえず適当に三人、三人、四人に分かれて席に座ろうか」

 たまたま同じグループになった部長が指示を出してくれている。グダグダにならず、スムーズに事が進むので、こういった存在が同じグループにいることは非常にありがたい。ちなみに俺は端の部長のいる四人席になった。席順は目の前と隣の席に女子が、斜めに部長が座っているといった感じだ。

「とりあえず、まずは注文しようか。今回は俺たち上級生のおごりだから、一年は遠慮なく食べてくれ」

 部長はそう言ったものの、やはり遠慮してしまうものだ。俺は他の人が頼んでいるものと同じものを注文した。

「さてと、では初めにとりあえず自己紹介から始めようか。ちなみに俺は知ってると思うけどテニス部部長の三年、長谷川直哉はせがわなおやだ」

 知ってると思われていたのか……全く知らなかった……

「はいはーい!私は宮内桃葉みやうちももは、二年です」

 目の前に座っている人はとても明るい先輩だった。正直俺はあまりこういった明るい人が得意ではない。単純に疲れるからだ。

島崎しまざき雅也、一年です」

 部長に目配りされたのでとりあえず無難に自己紹介した。

「な、中川栞なかがわしおりです。一年です」

 隣の女の子はかなり緊張しているようだった。しかし、実をいうと俺も内心かなり緊張していた。その女の子はとても綺麗な黒髪ロングであり顔も整っていた。さすがに一目惚れをしてるわけではないと思うが、そういった人を前にすればどんな人でも緊張するものではないだろうか。

「よろしくね、島崎くん、中川さん」

「こちらこそ、これからよろしくお願いします」

 俺は無難に返事をした。中川さんもぺこりと会釈していた。

「部長、私に対しては何もないんですか?」

「逆に何を言えと?」

「うーん、これからもよろしく...とか?」

「お前も曖昧じゃないか。そもそも別に俺たちは初対面なわけではないじゃないか」

「それもそうですねー」

 なんとなくだが部長と宮内先輩は仲がよさそうだ。部長が宮内先輩をお前呼びしているあたりのことを考えると。

「ところで二人は高校生活慣れた?」

「最初はあまり高校生になった実感がありませんでしたが最近少しは感じるようになってきた感じです。これって慣れてきたんですかね?」

「きっとそうだよ。実感が湧くということはそういうことを考えるだけの余裕ができたということだろうしね」

 確かに入学当初は新しいことばかりであり、新環境に慣れるのに精一杯だった気がする。

「そう思っておこうと思います」

「それがいい。ところで中川さんはどう?」

「わ、私は全然です...あまり仲の良い人もいませんし……」

 中川さんの性格を考えると、友達を作るのもひと苦労なのかもしれない。もしも宮内先輩のような性格だったらクラスのマドンナ的存在になってた気がする。

「きっとこれからできるさ。この部活の中にも気が合う人はいると思うよ。せっかくの機会だし今日の打ち上げでいろいろな人と話してみたらいいんじゃないか?」

「が、頑張ります」

 とは言うものの、中川さんにとっては難しい気がする。この性格では自分で話しかけるだけでもかなりハードルは高いだろう。そんなこんなで最近の近況を語り合っていると注文したものが届いた。それを食べ終わったころには部長と宮内先輩が楽しそうに会話を弾ませていた。

「・・・・・・」

 中川さんは静かに座っているだけである。これは間違えなく打ち上げという交流の場を考えると、なにか会話をしたほうがいいだろう。こういう場合は先輩が会話の発端を作ってくれるとありがたいがなんでも先輩任せというのもよろしくないだろう。中川さんの内気な性格を考えるとこっちから喋りかけるほかあるまい。

 しかし、内気とはいえ美少女であることに変わりはないため正直緊張してしまう。でも今話しかけなければ、どんどん話しかけずらくなっていく気がする。なんやかんや考えた結果、俺は意を決して中川さんに喋る決意を固めた。

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