ひと夏からはじまる愛染

土岐なつめ

1 打ち上げに行かない?

 六月も中旬に入り本格的に暑い日も増えてきた。高校生活が始まり気づいたらすでに二か月が過ぎていることを考えると、ここまでの高校生活はかなり充実していたのではないだろう。

 だがその充実が楽しいという意味での充実というよりかはむしろ忙しいという意味での充実かもしれないが……

 そんなことはともかく、今日俺は一つの節目を迎えていた。

「みんなお疲れ様、俺たちの学校の結果はベスト8が最高だったがこの大会はみんなが力を存分に出せていたと思う。一人ひとり課題も見えてきたことだろう。これからも練習に励んで次の大会ではよりいい結果が出せるように頑張ろう!」

 現在テニスの大会が終わり、ありがたい言葉を部長からもらっていた。

 そう、俺は露原つゆはら高校テニス部に所属している。

「これから打ち上げに行く予定だけどみんな来る?これまで練習ばかりできちんとしゃべったことがない人も多いだろう。どうだろう、これまでの練習、そして今回の新人戦のお疲れ様会兼、新入生同士、そして先輩との親睦を深める会と行こうじゃないか」

 確かに部活の時はテニスに集中していたり、同級生とも先輩ともテニスの話ばかりしていたため、話したその人本人については良く知らない。それどころか顔と名前が一致してない人がほとんどな気がする。

 でもテニス部内にも友達は何人かいるし、テニス部に所属している人は100人は超えないものの50人は軽く超えているため、どのみち全員を覚えるのは困難だろう。

 ならば今仲良くしている人だけ覚えていればいいのではないかという考えがよぎった。

 挨拶する程度の知り合いが増えるのも面倒なため、中途半端な関係が増えるであろう打ち上げに行くのは正直乗り気になれなかった。

「俺は行きますよー。楽しそうだし。なぁ、雅也まさやも行くだろ?」

 友人の一人である横山優輝よこやまゆうきが話しかけてきた。

「疲れそうじゃないか?人も多いしあまり乗り気にはなれないかな」

「まあまあそう言うなって、意外な出会いがあるかもしれないじゃないか」

 なんだよ意外な出会いって……

「そんなの本当にあるのか?」

「さあ、そんなの俺にはわからないよ。そういえばお前好きな人とかいたっけ?」

「いないけど」

「じゃあ好きな人とかできるかもしれないじゃないか。このテニス部けっこう女子いるし」

 好きな人か……中学の時に彼女はいたが、告られて振る理由もなかったため付き合っただけであったため、その相手のことは嫌いではなかったが好きだったかといわれると微妙である。

 さらに付き合ったはいいものの、恋人っぽいことは一切やっておらずに受験期に入り、そのまま自然消滅したのも自分の恋愛観の印象の薄さを際立たせているのかもしれない。

 一応恋人がいただけあって今は特に彼女が欲しい欲などはあまりなかった。

 しかし俺も思春期真っただ中の高校生。

 恋人らしいことをすることに関心がないわけでは決してなかった。

 だが恋人を作るにはまずは好きな人を作る必要がある。

 その好きな人ができるかもしれないと考えると少しは打ち上げに行ってもいいかなという考えが湧いてきた。 

「まあ、行ってもいいか」

「そうこなくっちゃ。でもまあ、出会いはともかくとしても打ち上げ自体普通に楽しいと思うぞ」

「そう期待しておくことにするよ」

 こうして最初は全く乗り気ではなかったが、結局は打ち上げに参加することになってしまった。

 この打ち上げがこれからの俺の人生に大きな影響を与えることになることをこの時の俺は知る由もないのである。


 

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