2-20:新たなる世界へ

「・・・ほぉ・・・、ふむ、なるほど。おおっ!これは随分と珍しい。楽しくなってきましたね。」

 

「ん・・・ここは?」


 見知らぬ男性の声で目を覚まし身体を起こすと、そこは真っ白で闘技場の控室のような空間が広がっていた。


「おや、もう起きましたか。少し待ってくださいね。現在あなた様の身体を調整中ですので。」


 調整中?何の話だろうか?少し待ってといった男性は見たこともない不思議な機材の前で何かの作業をしている。こんな何もない場所で何をすればいいのだろうか?この場には私と謎の男しかいない。寝て時間を潰そうにも特に眠くない。暇なので謎の男の後ろで何してるか覗いて時間を潰しておこう。



「ふぅ、調整完了です。お待たせしてしまい申し訳ございません。私、転移の管理者『ヨーグルトソース』と申します。あ、外なる神とは全く関係ありませんのでご安心を。」


 関係ないと言われても、名付けは絶対に意識してるよね。普通に高身長イケメンなのに名前が残念すぎる。


「カケル様、こちらの箱に入っていただけますか?」


「えっ・・・?」


「あぁ、大丈夫ですよ。別に捉えようというわけではないので」


「は・・・はぁ。」


 一瞬不安になったが、直ぐに大丈夫だと気を持ちなおし、大きな箱の中に入る。


「では、閉じますね。そのまま待機してください。」


 そして、箱が閉じられ私の視界は真っ暗になる。


ピコン『 「バケルの鍵」を吸収しました。「弐ノ封・化ニノフウ・バケル」の解除を開始いたします。強制ログアウトを実行。再ログイン可能時刻は30分後となります。』

ピコン『ログアウト失敗。本体の所在を確認。意識の転送を試みます。実施に伴い、一時的に意識をシャットアウトします。』


 とても不安になるメッセージが流れ、声を上げようとするが、そのころには既に全身の力が抜け、意識を完全に落としていた。




「んー、ん・・・」


「お、起きましたか。体の調子はどうですか?」


 目を覚ますとそこは先ほどと同じ空間。違うのはベッドに横になってるところか。ってなんでさっきと同じ場所に?ログアウトしたのでは?


「あの・・・ここは?」


「ここは天上ノ間です。カケル様をこちらに召喚する際に、色々と不都合がありましたのでその調整を行ってました。」


「えっと、それはゲームの話ではないのですか?私はログアウトしたはずなんですけど。」


「あぁ、SLAWOのことですか?えぇ、ログアウトした結果がここです。ここは現実の世界です。といっても地球ではなくアステラ。SLAWOの世界なんですけどね」


「は・・・はい?」


 それから更に詳しく話を聞き、ここはアステラという実在する星にある空間だということが判明。SLAWOは地球とアステラを繋ぎ、交流することを目的に作られたゲームだという説明を受けた。そしてこの場に来たのは英雄召喚の儀により召喚されたためであり、現在はここ「天上ノ間」にて最終調整を行っていたらしい。あのログはゲームの話じゃなくて現実世界の話だったのか・・・。それと、今はまだ帰れないようだ。正直全然納得いかないけど、そういうものだと思っておこう。


「ここまではいいですか?」


「えぇ、まぁ大丈夫です」


「かしこまりました。では次にステータスをご確認ください。こちらに転移する際、本来はSLAWOで使用していたステータスがそのまま使用できる想定だったのですが、あなたの場合それができませんでした。なので少し調整しております。ご確認ください。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■名前:カケル

■レベル:25

■種族:半人半妖(九尾の妖狐)

■種族特性:擬装(獣人(妖狐))

■個性:零距離戦闘陣

■職業:妖術師

■所持金:0z (ギルド預かり 1Mz) 

■ステータス:

 HP :110

 MP :2300

 STR:71   [65 * 1.1]

 VIT:11   [16 * 0.7]

 INT:230  [100 * (1.5 + 0.5)]

 MND:100  [63 * (1.1 + 0.5)]

 DEX:100  [91 * 1.1]

 AGI:71   [65 * 1.1]


■通常スキル

 鑑定Lv1、看破Lv1、言語Lv1、魔力制御Lv1、魔力強化Lv6、軽業Lv5、魔力視Lv1、料理Lv4


■人化時専用スキル

 ・古武術Lv5


■獣化時専用スキル

 ・爪撃Lv3


■種族スキル

 ・妖術Lv2

   -狐火(白、蒼、紅)

   -紫炎

   -人化の術

   -獣化の術

 ・封印(九尾)残7

 

■称号

 暴徒鎮圧、身体ヲ破壊スルモノ、格上殺し

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 地味にステータス欄の表示変わってるし。見やすいからいいけど。・・・色々変わってる。種族もそうだし、スキル欄も地味に変わってる?私のリアルスキルも反映されてる?なんだこれ。


「さて、ではご説明します。まず種族について。これはカケル様ご自身の種族になります。それに伴い、ステータスの種族補正が変化しております。ステータスについては、二つ目の封印を解除するためにこちらで再設定させていただきました。スキルについては、一部統合したりカケル様ご自身の技術を反映させております。それからお金についてはこちらの不備ということで100万Zを支給してます。概ねこんなところでしょうか。何かご質問はありますか?」


 おぉ、説明してくれるのね。って、二つ目の封印は何で解除したんだ?


「あの、二つ目の封印を解除した理由はなぜでしょうか?」


「はい、SLAWOで使用していたアバターの能力をカケル様の身体に反映するためです。解除しないまま反映させると、カケル様が死ぬ可能性がありましたので」


 えぇっ、まじか。かなり怖いことしてるじゃん。うっかり死ぬ可能性あったってことでしょ?生きててよかったぁ。


「他になにか確認したいことはございますか?」


「えぇっと、スキルの試しうちをしたいんですけど」


「かしこまりました。ではこちらをご利用ください」


 パチン!


 ヨーグルトソースさんが指パッチンすると、いままでいた場所が突然屋外訓練施設へと置き換わった。


「この場はご自由にお使いください。武器はこちらに。魔物と戦いたいときは声をかけてください。ご用意いたします。」


 おお、魔物も用意してくれるのか。それはありがたい。ひとまず身体を動かそう。尻尾が二本に増えてるからね。新しく生えた尻尾は獣化専用の尻尾のようで、魔力を流せば獣化の術を使用でき、SLAWOの時に慣れ親しんだ狐になれた。もっと使いこなしていけば、色々なものに変化できそうだ。


 それからしばらく訓練場に設置されてる巻藁に対して殴ったり蹴ったり、魔力強化を使って走ったり、武器を持って素振りしたりと、とにかく色々と試した。


「ヨーグルトソースさん、ウルフを用意できますか?」


「かしこまりました。何体必要ですか?」


「まずは一体でお願いします。」


 ある程度体が温まってきたら、今度は実際に戦闘を行う。最初は一体、二体と増やしていき、ウルフ5体に対応できたところで次はブラックウルフ、ゴブリンなど今まで戦ってきた敵全てと対峙していった。SLAWOの時は武器防具装備不可だったが、いまはそういう制限はないようので、槍に剣、薙刀などを使って色々と試していった。尻尾が増えた以外は特に変わりなく、問題なく動くことができた。

 

「ふぅ、まぁこんなところかな。」


「お疲れ様です。カケル様。この後は予定通り聖妖国に転移するだけなのですが、何かありますか?」


「あの、地球に帰れないんですか?」

 

 とりあえずダメ元でもう一度聞いてみる。

 

「無理ですね。地球からアステラに来ることは可能ですが、今はアステラから地球に行くことはできないので」


 やっぱりだめらしい。


「あ、そういえば言葉はどうなるのでしょうか?」


「あぁ、それは大丈夫です。SLAWOのゲーム内で使用している言語はアステラの標準言語になってるんです。いまカケルさんが話してる言語もアステラで使用している標準言語になってますよ」


「え?そうなんです?全然意識してないんですけど。」


「はい、その辺を意識せずとも会話できるようにSLAWOで刷り込みを行ってたんですよ。もちろん、日本語とも切り替えられますよ。」


 ・・・なんつー怖い話だ。ただの洗脳じゃないか。


「そ、そうですか。あとは大丈夫です。」


「かしこまりました。では転移を始めますね。」


「は・・・、はい、お願いします。」


 ふぅ、なんかドキドキしてきた。大丈夫かな?私英雄ってほど強くないと思うんだけど。・・・てかなんで私が召喚されたの!?ちょっ、それも聞いておきたい・・・って、もう転移始まってる?!闘技場の時にみた魔法陣が私の身体を覆っているからもう話聞けないみたい。残念。

 そしてすぐに視界が真っ白になり、再び眼を開けるとそこは怪しい地下室になっていて、多分偉い人と武装した騎士団に囲まれていた。


 えーっと、・・・殺されたりしないよね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る