2-19:緊急事態

ピコン『聖妖国君主「アベノセイメイ」により、英雄召喚の儀が実施されました』

ピコン『儀式の内容を確認中・・・問題なし』

ピコン『適合率確認・・・80%。セーフティーモードにて召喚されます。』

ピコン『アステラは申請を受理。これより、聖妖国への転移を開始いたします。』


「カケル!!」


「はっ?えっ、ちょっ!?なにこれ!!?」


 私の視界に突然魔法陣が現れる。あたりを見回すと、私の周囲が全て魔法陣で囲まれているようだ。


ピコン『想定モジュールとの差異を確認。天上ノ間にて調整の実施を申請。』

ピコン『アステラは申請を受理。天上ノ間へ転移、調整が完了次第、聖妖国に転移します。』


 次々とよくわからにログが流れ、やがて目の前が真っ白になり、音も聞こえなくなった。


「翔!!!!行かないで!!!」


「「「カケルさん!?」」」



ピコン『天上ノ間へ転移しました。』



【side-運営】


ビービービー!!


 ここはVR執務室・イベント専用統合ワールド。そこでけたたましくアラームがなる。


「何事だ!!」


「アステラへの転移が実行されてます!!」


「はぁ!?急いでキャンセルしろ!!戻ってこれなくなるぞ!」


「キャ・・・キャンセルできません!」


「アステラへ転移した人は『カケル』です!今は天上ノ間にて調整実施中とのログが流れてます!」


「そこからなら何とかこっちに戻せないか!?」


「無理です!すでに我々の手からは離れています!」


「くそがっ!」


ビー!ビー!ビー!


「まだ何かあるのか!!」


「同じくアステラへの転移が強制実行されました!対象は・・・現時点でログインしてるユニーク種族を選択したプレイヤーに対して実施されてるようです!」


「キャンセルしろ!」


「無理です!!というかもう転移が終わってます!!」


「はぁ!?なんでそんな早く終わるんだよ!というかアレにはそんな機能つけてなかっただろうが!」


「しゅ・・・主任・・・。どうしますか?」


「各地域の責任者にログと共に連絡を入れろ!それとアステルの監視者にも連絡して転移した人が無事かどうかの確認をしろ!大会配信には映ってないよな?!」


「映ってないです!」


「OK!じゃぁ上に報告してくる!」




 主任はログアウトして、本社の執務室へと移動する。


「瀬戸内さん!」


「あぁ、わかってる。もう依頼主には報告済み。あっちで調査中だ。」


「手が早いですね・・・。マスコミは出てきますかね?」


「出てこないでしょー。スポンサーにとっても不都合だからね。」


「ですよね。被害者の家族にはなんて説明を?」


「そっちも手を打ってるから大丈夫。それよりももっと大変なことが起こってる」


以上に大変なこととか聞きたくないんですけど・・・」


「ムー大陸が出現した」


「・・・、何言ってるかわからないっす。」


「そのままの意味だよ。とりあえず外を見てごらん。」


 執務室の窓から見える外の景色には、いままではなかった天をも貫く巨大な塔が立っていた。


「な・・・なんすかあれ」


「ムー大陸に立ってる塔だよ。依頼者曰く、次元ノ塔と呼ぶらしい。アステラにも同じ塔があるってさ。」


「ちょっ、じゃぁあの塔は向こうと繋がってるってか!?」


「まだわからない。それも含めて調査中だよ。ただ、ムー大陸にはいわゆる魔物っていう存在がいるみたいだから、僕らの生活はもっと変わりそうだよね」


「はぁぁぁ・・・、これ、僕らのプロジェクトと関係あるんすかね」


「はっはっは、だとしても僕らにはどうしようもないからね。あれは依頼者に任せるしかないよ」


「そうっすか・・・」 




【side-宮田一葉-】


「えっ、翔?」

 

「あら、カケルさんログアウトしたみたい。さっきの演出は気になるけど、落ち着いて一旦ログアウトしてきなさい。」


「そ・・・そうだね。うん、ありがとう。」


 そうだよね、一瞬もう会えないんじゃないかって思ったけど、ログアウトすれば会えるよね。すぐに落ち着きを取り戻した僕はRinに言われた通りログアウトしてリビングにいく。


「翔ー?・・・あれ、いないのー?トイレかな?」


 少し不安になった僕は、トイレに行く。


「トイレにもいない。じゃぁシャワー?」


 風呂場にいくもいない。寝室にもゲーム部屋にもクローゼットにも玄関にもいない。靴はそのままで出かけた形跡はない。携帯も財布もおきっぱなし。


「え・・・?翔・・・、翔、どこにいるのー!?」


 え、いないとかそんなわけないよね。ベランダから落下したとか?いやいや、鍵は締まってるし。・・・早く出てきてよぉ。



ピンポーン


 いくら探しても翔が見当たらず、不安になったときエントランスのチャイムがなる。気が重たいが、現実逃避気味にチャイムに出る。


「はい、どちら様ですか?」


「SLAWO運営の丸井といいます。雨宮さんの件で説明に参りました。」


「えっ!?翔についてってどういう!?」


「それについてお話しますので、エントランスの鍵を開けてもらえますか?」


「あ、あぁ、そうですね。はい。開けました」


「ありがとうございます。そちらに向かいますね」


「はい。」


ピンポーン

 

 少しして今度は部屋のチャイムがなる。


「はーい。」


「宮田さんですね。SLAWO運営の丸井です。雨宮さんについて説明いたしますので、中に入れてもらってもいいでしょうか?」


「あっ、はい。上がってください。」


「失礼します。」


 丸井さんをリビングに入れ、ついでにお茶とお菓子を出す。


「あぁ、お気遣いいただきありがとうございます。」


「いえ、それでその。翔についてってどういうことでしょうか?」


「まず確認なのですが、宮田さんがログアウトしたとき雨宮翔さんはいま家にいなかった。これは大丈夫です?」


「え・・・、えぇ、といってもまだ探し始めたばかりなんですけど。家から出た形跡もないですし。・・・あの、今更ですけどなんでSLAWOの運営がここに?」


「端的にいうと、雨宮さんの失踪は今お使いいただいてる機器が原因なんですよね。」


「というと?」


「私もどこまで言えばいいのかわからないですが、いま雨宮さんはSLAWOの統合ワールドにいます。」


 ・・・???えーっと、それってどういうこと?ゲームの世界に転移した?えっ、はぁ?


「そうですよね。いきなりこんなこと言われても訳わからないですよね。」


「そりゃまぁそうですね。ゲームの世界にいるってことです?えっ、じゃぁ翔は死んだ・・・?」


「あぁ、死んではないので大丈夫ですよ。そんな酷い顔しないでください。少し落ち着いてください。」


 どうやら相当酷い顔をしてたらしい。丸井さんに心配をかけてしまった。震える手でお茶を飲んでどうにか息を整える。


「そ、それで?」


「私の説明の仕方が悪かったですね。前提としてSLAWOは電子世界で遊ぶゲームではなく、実在する惑星で遊ぶゲームです。地域ワールドというのはその惑星をベースに仮想惑星を産み出したものであり、統合ワールドというのはオリジナルの惑星です。で、雨宮さんはオリジナルの統合ワールドにいます。」


「・・・えーっと、SLAWOというゲームは遠い星のどこかにある遠隔ロボットをVR技術で操作してるってことです?で、今はまだ地域ワールドでしかプレイできないから翔に会えないけど、統合ワールドが解放されれば会えるってことであってますか?」


「まぁ、概ねその認識であってます。最終的には生身で惑星間を行き来して交流することを目的として作られたゲームですからね。」


 あぁ、なるほど。だから星間通信という会社名なのか。・・・それだと星間交流の方がいい気がするけど。


「それは私に話してよかったんですか?何か秘密の話に思うんですが。」


「本当はダメだったんですけど、明日明後日にはバレるので問題ないです。ニュースは見ました?」


「いえ、見てないです。翔みたいな被害にあった人が沢山いるんですか?」


「いえいえ、雨宮さんと同じことが起こったのは6名だけです。他の方は大丈夫でした。これを見てください。」


 丸井さんが取り出したタブレットには、ムー大陸が何だとかデカい塔が云々といったニュース記事が表示されていた。こんなしょうもないフェイクニュースを見せてどうするんだろう?


「では次にこれを」


 そして丸井さんはタブレットを操作して様々なニュースサイトを開いていく。中には国営のニュースサイトなんかもあった。


「・・・えっ、これは現実で起きてることなんですか?」


「そのようですね。SLAWOに関係あることなので、それについての発表が先ほどの話と合わせて明日明後日に発表される予定です。」


「・・・なぜこのようなことに?」


「正直に申しますと原因は不明。現在調査中です。それがまとまるのが明日明後日の予定ということです。そんな直ぐにわかるのかどうかは不明ですが」


「・・・そうですか。わざわざご説明いただきありがとうございます。」


「いえいえ、ひとまず今回被害にあった方々の親族や婚約者には早急に説明するということになってますので。」


「あ、それで、その、翔は帰ってこれるのでしょうか?」


「行くことは今でもできますが、帰ってくることが出来ないんですよね。それを解決するためのSLAWOというゲームでもあるんです。」


「えーっと、つまりゲームをクリアすれば行き来できるようになるということですか?」


「はい、その通りです。エンドコンテンツの内容はお話することは出来ないんですよ。申し訳ありません」


 そっか・・・。じゃぁ、さっさとゲームクリアしないと。


「あまり無理しないでくださいね。それから今日話した内容はインターネットには上げないようお願いします。翔さんは体調を崩したという事でお願いします。同意いただけるのならこちらにサインを頂けますか?」


 そして丸井さんは誓約書を出してきた。内容は今話した内容を関係者以外に言いふらさないこと。ただそれだけ。


「あの、これ初めに出すものなのでは?・・・まぁ、いいんですけどね。」

 

 内容は特に問題ないので誓約書にサインをする。


「まぁ、何かあったときの保険ですからね。それに今話した内容はインターネットに上げられないようにしてもらってますから。」


「・・・本当にそんなことできるなら不要だと思うんですけど。」


「大人の都合です。さて、それでは私からの説明は終わりましたが、なにか聞いておきたいことはありますか?」


「・・・いえ、特には。」


「そうですか。とりあえず今日はもう休んだ方がいいですよ。顔が酷いですから。事務所のマネージャーさんを呼んでるので面倒は彼女に診てもらってください。彼女にも今回のことは説明してあります。それでは私はこれで。失礼します。」


 そして丸井さんは家から出ていき、その後すぐに陣さんが家に来た。そしてあまりにも顔が酷いということで直ぐにベットで寝るように言われた。なにやら僕が落ち着くまで泊まり込みで面倒を見てくれるとのこと。なんていい人なんだろうか。とにかく今は色々とショックすぎて何も頭に入ってない。まずは寝て、起きてからどうするか考えることにしよう。

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