2-7:予想外の出来事

 とりあえず魔法を当てるにも近づかないことには意味がない。しかし湿地帯は足場が悪く、何かしらの対策をしないことには移動速度が極端に落ちる。そもそもレベル差がありすぎるし、何より今の私が扱える技じゃたいして効かなそうだ。なので森に戻って逃げているのだが・・・


「どこまで追ってくるのさ!!」


 そう、こいつは泳げるうえに飛ぶこともできるらしい。私は結構な速さで駆けまわってるのだが、決して見逃すことなく的確に水弾を飛ばしてくる。たぶん魔力感知系のスキルを持っているのだろう。それも高性能なやつを。


「ギギッ!?ギュギュッ!!ア”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」


「っつ!?」


 またこのあまりにも汚い鳴き声。この声がするたびに私の身体は委縮し、動きが止まる。しかも今度は動けるようになるまで時間がかかり、その隙に私の真上まで近づかれてしまった。


「ギギャァ!!」


そしてそのまま身体を下に向けて凄いスピードで急降下してくる。


「うっそでしょ!?」


ドンンン!!


 さすがにそれは予想してなかったが、ギリギリで回避することに成功。劣沼竜は爆音を立てて地面に突き刺さり、地面には大きなクレーターができている。そして何やら大きな魔力を感じる。魔力視を使ってないのにクレーターの細かなヒビから魔力の光が見える。どう見てもやばいので、とにかく全速力で遠くへ離れる。


ドオオオン!!!


 そして少しすると物凄い爆音とともに地面から水が噴き出し、津波のごとく辺り一面を呑み込みながら私の元へと水が寄ってくる。私は更に魔力強化を強めて全力で走り本当にギリギリでその範囲から逃れることができた。


 水の流れが落ち着いた辺りで後ろを振り返ると、半径200mはあってもおかしくないくらいの範囲が沼地へと変貌していた。これほどの範囲だと他のプレイヤーを巻き込んじゃったかもしれない。もしそうならゴメン。にしてもあれほどのことをやって劣(レッサー)って、本物の竜はどんだけやばいんですかね・・・。


 しかしこれで相当力を使ったはず。とりあえずMPポーションを飲んで回復して今のうちに逃げ・・・


ドン!


「ギギギュギュ!!」


 どうあっても逃がしてくれないらしい。泥の上を泳ぎ、私に一直線に向かってくる。さっきの大技で消耗しているはずなのに、何なら私を追いかけまわしてた時より遥かに速い。相当離れていたはずなのにもう私の目の前にいる。


「くそったれ!!!!」


すでに逃げるのは間に合わない。ならばと置き土産に全魔力を込めた紫炎を放つ。


ピコン『HPが0になったため、???の森でリスポーンします』


その直後、私は喰われたのか視界が真っ暗になって死亡し、リスポーンした。



「はぁ・・・なんでいきなりあんなのが・・・」


ピコン『レベルアップしました。』

ピコン『アクアバレットの解析に成功しました。以降、本来の威力・MP量で使用可能になります。』

ピコン『飛行の解析に成功しました。以降、本来の威力・MP量で使用可能になります。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<ワールドアナウンス>

 フィールドレイドボス「劣沼竜(レッサースワンプドラゴン)」が「カケル」によって撃破されました。これにより「始まりの街・エンジ」と「アラン街」間の交通規制が解除され、一部アイテムの店売価格が通常の価格に戻ります。

 以後、劣沼竜は第二エリア「湿地帯」にて通常のフィールドボスとして出現するようになります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ピコン『フィールドレイドボス討伐において、MVPを獲得しました。MVP報酬をインベントリに贈ります。』


 ん・・・?えっ、ちょっと待って!!あれレイドボスだったの!?うっそでしょ!?ソロ討伐って相当やばくない!?大丈夫なの!?てかどうして死んだの!?




「やぁやぁ、まさかの相打ち!!でも来訪者は死なないから実質君の勝ちだね!おめでとう!」


 そしてアナウンスが出てすぐにここの家主が出てきた。出てくるの早くないか。てかまるで見てたかのような言い草だね。


「あぁ、そうそう。あれを倒せた理由だけど、まず君の個性により威力が二倍。そして劣沼竜は恐慌状態に陥ってたから『暴徒鎮圧』の称号効果によりダメージ3倍。さっき君が全魔力を込めた紫炎の威力は、君が普段使用している紫炎の6倍。それらが全部かけ合わさって計36倍の威力となった上、体内からの攻撃だったために、防御とか装甲とか全部無視された結果・・・何とビックリ!劣沼竜が一撃で死んだという訳!君が戦う前に偶々通りがかったグリフォンに襲われてだいぶ消耗していたってのもあるけど、それでもすごかったよ!」


 え、見てたの?なら助けて欲しかったんだけど。・・・いや、こいつは戦えなさそうだから無理か。多分。

 ・・・あっ、まってグリフォン!?いやいや、それよりも魔物同士で喧嘩ってあるの!?例えレイドボスだろうとフィールドにいる以上、魔物同士で争うことあるってことだよね!?これ結構重要な情報なのでは??


「とりあえず冒険者ギルドには僕から映像付きで報告しておくね。」


「えっ・・・っと?」


「君は街に入れないでしょ?あ、街に入れないのは規則云々じゃなくて結界の仕様だからね。それは諦めて。んじゃ、先に討伐報酬を渡しておくね。」


ピコン『冒険者ギルドからの感謝状を受け取りました。ギルドランクがDランクにアップしました。』

ピコン『劣沼竜初回討伐報酬として、「万能走法の技術書」「エンジ⇔アラン間の転移券」「50万z」を受け取りました。』


ちょっ、なんで感謝状とか報酬がここにあるの!?


「あ・・・あの・・・」


「じゃ、僕はこれから報告にいってくるから。今後も頑張ってね。」


 少しは私の話を聞いてくれるようになったかなって思ったけど、全然そんなことなかった。あと、聞いてもいないことも話してきた。街に入れないのって結界のせいだったのか・・・。単に魔物と勘違いされるからとかそういう問題だと思ってた・・・。



「と・・・とりあえず、一つ一つ確認していこうか」



さて、まずはレベルだけど、これは3つも上がって22になった。


SPはSTRに5、INTに5、MNDとDEXに10振ってこんな感じになった。


■名前:カケル

■レベル:22

■種族:九尾の妖狐

■種族特性:擬装(妖狐族)

■個性:零距離戦闘陣

■職業:妖術師

■所持金:500,000z (ギルド預かり 150,162z) 

■ステータス:

 HP :110

 MP :1700

 STR:81  [74 * (1.1)]

 VIT:11   [28 * 0.4]

 INT:181  [79 * (1.8 + 0.5)]

 MND:85  [50 * (1.2 + 0.5)]

 DEX:60  [60 * 1.0]

 AGI:75  [69 * 1.1]


 SP :0

■取得スキル

 妖術Lv1、封印(九尾)Lv2、鑑定Lv1、看破Lv1、言語Lv1、無手格闘術Lv1、魔力操作Lv7、魔力感知Lv8、魔力強化Lv4、軽業Lv2、爪撃Lv2、魔力視Lv1



 んで、次は妖術についての確認。なんかアクアバレットと飛行っていう技の理解度が戦闘中に100%になったらしく、本来の性能で使えるようになったらしい。


 狐火・白を使用した記憶はないから、ありえるとするなら単に魔力感知で魔法を察知してたから解析中になってたとか?なんか他にも色々と解析中のスキルありそうで怖いけど、確認してみよう


◆妖術Lv1

 ・狐火(白・蒼・紅)

 ・紫炎

 <魔技記憶リスト:記憶可能枠14、使用済12、空2>

  <解析済>

   ・ウィンドアロー

   ・ウィンドカッター

   ・ライトボール

   ・ライトヒール

   ・ヒール

   ・アクアバレット

   ・飛行


  <解析中の魔技>

   ・木根鞭       [理解度:7%]

   ・木根弾       [理解度:5%]

   ・ポイズンウェブ   [理解度:20%]

   ・スパイダーウェブ  [理解度:30%]

   ・ポイズンクリエイト [理解度:70%]

   ・沼地創造      [理解度:1%]


 ちょっ、えっ、なんかボスモンスターの技も解析中に含まれてるし、最後に劣沼竜が使ったと思われる沼地創造ってのも解析中に入っちゃってる!?


 とりあえず、沼地創造はレイドボス専用技っぽいから破棄しておこう。仮に覚えたとしても使い道がない。狐火・白を出せばいいのかな。

 えーっと、沼地創造を破棄します。


ピコン『魔技:沼地創造の破棄が選択されました。実施しますか?』


 おっ、記憶するのは自動でも破棄するかどうかはちゃんと確認してくれるんだね。どうせなら記憶するかどうかも選択できたら良かったんだけど。言っても仕方ないか。そのまま破棄を実施する。


ピコン『魔技:沼地創造が破棄されました。現在の使用済枠は11、空枠は3になります。』


 他は・・・、一旦保留で。零距離戦闘陣のせいで使いにくそうな物しかないけど、合成したら使えるかもしれないからね。


 さて、うっかり解析完了しちゃったやつを確認しよう。


◆アクアバレット

 ・水で出来た弾丸を飛ばす魔技


◆飛行

 ・飛行する魔技


 うん、やっぱり説明が雑。魔力視の丁寧さはどこに行ったんだろうか。本当に酷いと思います。とりあえず使ってみないことにはわからないので、これは後回し。次はボスドロップを確認しよう。


 えーっと、劣沼竜の尾、爪、牙、肉、翼、逆鱗。水属性の魔石(中)が一つ。そしてMVP報酬は「沼地適応の書」だった。素材は肉以外全部倉庫へ。一葉の装備作るのに使えそうだからね。私は使えないけど。


 で、沼地適応の書についてはスキルブックのようで、これを覚えると沼地での行動阻害がなくなるようだ。・・・私は使用不可なんだけどね・・・。ひどい。


 最後に冒険者ギルドからの討伐報酬の確認。


 まず感謝状だけど、討伐してくれてありがとう的なことと、特例でDランクに昇格ということが書かれていた。どうやらアラン街の方は相当困っていたらしく、これによりランクアップ条件の一つ「街に貢献する」という条件を満たしたらしい。いきなりDランクなのは、依頼達成数が既に必要回数を満たしていたらしい。知らなかった。


 Dランクになった結果、ギルドの資料室にある本のうち閲覧権限がDランクまでの本を見れるようになった。それから倉庫の容量が増えた。あとDランクまでの依頼を受けれるようになった。まぁ、資料室は街に入れないから見にいけないし、依頼も納品依頼しかこなすつもりないから気にしないでおこう。


 そしてエンジ⇔アラン間の転移券。これは名前の通りで、エンジとアランの間を転移できるというもの。でも私はまだ街に入れないからしばらく使えないね。


「で・・・、万能走法の技術書だけど・・・」


 これはスキルブックではなく、最初に読んだ「魔力操作のコツ!」のような指南書になっているようだ。中を軽くみるとタイトル通りどのような環境下でも走れる技術らしい。水面を走るのみならず、空を走るとかいうことも記載されていた。さすがにこれは超上級技術らしいが。


 とりあえず詳しく読んでみる。まず前提として魔力操作による放出に吸引、そして魔力強化が出来ること。この3つがあるようだ。


 ・・・まって魔力の吸引ってこれが出来たら賢者を名乗れるとかそういうレベルって話じゃなかったっけ!?とっ、とりあえず中を読み込んでいこう。


 えーっと、吸引は非常に難しい技術だが、放出した直後の魔力であれば比較的容易とのこと。そして魔力は強い力で吸引すると一瞬固まるという性質があるらしい。その性質を利用して放出した直後に思い切り吸引して足場を作りそれを蹴る。これを繰り返していくことで、極論、沼地だろうと水面だろうと空だろうと何だろうと、関係なく走れるという技術らしい。


 ちょっ・・・えっ!?なんかとんでもない技術じゃない?絶対このタイミングで覚えていい技術じゃないよね。ていうか無理だよね。難しすぎる。


 ・・・あっ、もしかして本来の報酬はレア武器とか防具とかそういうものだけど、私はそういうの使えないから仕方なくこれになったとか?九尾の妖狐シリーズの本はまだ早いし、かといってそもそも覚えられるスキルも限られるので渡せる指南書も限られる。その結果がこれってこと?なら仕方ない・・・のかな?


 そして、ちゃんと細かいやり方も書いてある。この走法は魔力の足場を作ることが全てなのでその練習についてだった。これはまた時間があるときに確認しよう。今始めるとあっという間に時間が過ぎそうだ。



 これで確認すべきことは確認したかな。そしたら今度は掲示板に報告に行こうか・・・。ワールドアナウンスで私の名前出ちゃったしね。

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