2-2:無事回復・・・?

「ん・・・?ここは・・・?」


 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋。点滴が付いてるということは病院だろうか。最後の記憶は事務所から外に出たら猛烈に暑かったことか。熱中症で倒れた?倒れるどころか風邪だってひいたことないのに、珍しいこともあるもんだ。


 顔を横に向けると、一葉が椅子に座ってベットに突っ伏して寝ている。部屋を見るにお泊りセットもあるので、どうやら結構な時間寝ていたらしい。その間、ずっとそばにいてくれたのだろう。


なんとなく、一葉の頭をなでる。


「・・・ん、翔?」


「おはよう、一葉。心配かけたね」


「翔・・・翔・・・う”う”・・・、起きるの遅いよ・・・、心配したんだから・・・。良かった・・・。」


本当に心配かけたようで私にくっついて泣いている。


「ごめんね。心配かけたね。ずっと看病してくれたんでしょ。ありがとう。」


「う”う”ん・・・、無事で本当によかったよ・・・」



「おぉ、翔。起きたか、調子はどうじゃ?」


 私が一葉をよしよししていると、爺ちゃんが入ってきた。珍しく白衣を着て、ネームプレートを付けてる。


「爺ちゃん。うん、大丈夫だよ。爺ちゃんが診てくれたんだ。珍しいね。」


「あー、まぁそうなんじゃが。ホントに大丈夫かの?その尻尾とか耳とか・・・」


 尻尾・・・耳・・・?一体何のこと・・・?そう思って布団をめくると尻尾があった。ということはと思い、頭に手をやるとこっちにも耳が。えっ・・・?


「ほれ、これが今のお前の姿じゃ」


 そういって私に渡された姿見には狐耳と狐の尻尾が生えていた。姿はSLAWOで最初にキャラを作ったときの状態まんま。髪色は白く、狐耳は内側が紅く、外が白い。尻尾も根本が紅く先が白い。ゲームで見慣れた格好だ。あと、魔力・・・?とは違うけどそれっぽい何かも感じる。


は・・・え・・・んーっと・・・?


「え・・・えぇーー!?!?!?なにこれ!?」


「うるさいわ!!ここは病室じゃぁ、静かにせい!!」


ゴン!


爺ちゃんから拳骨をくらう。痛いなぁもう・・・。


「落ち着いたかの?」


「私病み上がりなんだけど・・・」


「うちの人間が病気になんてならんわ。とりあえず、いまのお主の状態について説明するぞ」


 話を聞くと、何でも雨宮家の先祖には妖怪と交わったものがいるらしく、その妖怪の力が強く表に出てきたのではないかとのこと。

 元々、雨宮の家系には数世代に一度に超能力を発揮する者がいるらしく、私のはそれがさらに発展したパターンだという。古い文献には猫耳と二股の尻尾が生え、数百年生きた記録もあるとか。半妖化と呼ばれる現象らしい。


「えぇー、妖怪とか本当?SLAWOの影響って言われた方がまだ納得できるんだけど・・・」


「SLAWO・・・お主が最近ハマっとるというゲームじゃったか。あれも脳波を読み取って色々するからの。作ってるとこに問い合わせはしたが、そのような事象は確認してないとの回答じゃ。だいたい仮に脳を弄ったからといって、身体のつくりそのものが変わるなんてことは有り得ないというのが今の常識じゃ。妖怪のような不思議な力と言う他ない。」


「そっかー、それで私はどうしたらいいの?」


「翔!!僕と結婚しよう!!」


「えっ!?ちょっ!?いきなり何言ってるの!?」


「はっはっは!大胆なプロポーズじゃないか。よいよい。貰っていけ。」


「爺ちゃんまで!!」


「はっはっは!まぁ一葉くんも落ち着きなさい。少し話が飛び過ぎじゃしの」


「あ・・・はい。」


「さて、まずは今のお主の恰好では気軽に外には出れないからの。買い物いったりとかは難しいの。大学の講義はインターネットで受けたほうがいいじゃろ。常に隠すのは難しいじゃろうからな。」


 まぁ・・・そうだよね。それはわかってた。家で講義受けるのは余り気が入らないかもしれない。勉強用の部屋用意したほうがいいかも?


「それと芸能事務所?のようなものに所属することになってたみたいじゃの。まぁそっちは問題ないじゃろ。リアルの身体を映したところで、映像を見てる人にはCGかコスプレかという風にしか見えないからの。会社の人には事情を説明しておく必要はあると思うがの」


「そういう意味だと、コスプレOKなところならいけるかなって感じだね。」


「そうじゃな。外出するときは基本車になるがな。」


 おお、そっちは問題ないのか。ショッピングとかに出るのが難しいというだけで、コスプレOKな場所ならいけるのか。確かに最近のコスプレはVR技術を応用して耳や尻尾を動かしたりできたりするもんね。本物だと思われることはないかな。デートとかは難しくなったけど、それは仕方ないかな。そのうち妖怪の力で尻尾と耳を隠せるようになると期待しておこう。・・・それはあまり期待できないけど・・・。


って結局一葉との結婚はなんで?


「それでじゃ。今のお主の姿が元に戻るというのはあまり期待できん。そうなったという記録はあるが戻ったという記録はないからの。」


うんうん、それはそうだと思う。


「では、誰と結婚するのかという話じゃが、いま丁度一葉くんと同棲しておるじゃろ。事情も知っとる。お金も持っとる。特に狐っ子になったからといって忌避するわけでもない。ならもう一葉くんと結ばれてしまえばいい。そういうわけじゃ。」


いやいやいやいや。何がそういうわけなの?一葉はそれでいいの??


「僕は翔と結婚したいなーって割と前から思ってたよ?一葉は?」


「え・・・あ、うん・・・その、よろしく・・・?」


「はははは!よし、これで万事解決じゃな!曾孫が楽しみじゃ!」


「ちょっ!爺ちゃん!気が早いよ!」


それに何も解決してない!!ただなるようになっただけじゃん!!


「さて、とりあえずベットから降りて歩いてもらえるかの?一週間も寝とったら軽いリハビリが必要になるんじゃが、お主は普通に身体を起こしとるしのぉ。」


「えっ!?私一週間も寝てたの!?」


そんなに寝てたんだ・・・。


「そうじゃぞ。その間一葉くんは大学も行かずにずっと看病してくれとったんじゃ。ちゃんとお礼いっとけ」


「そっか。一葉、ありがとね。」


「ううん、どういたしまして。立てる?」


 そして体を横に向け、ベットから足を下ろして立ち上がる。一週間も寝てたってことでちょっとビックリしたけど、普通に立つことができ、その後部屋の中を軽く歩いてみて特に問題ないことを確認した。


「ふむ・・・検査ではわかっておったことじゃが、やはり問題ないか。不思議なものじゃの。さて、問題ないことも確認できたし退院じゃな。手続きしてくるから少し待っとれ」


そういって爺ちゃんは部屋を出ていった。


「翔、服買ってきたからこれ来てみて。いつもパンツスタイルだけど、それだと尻尾隠せないから少しゆったりしたロングスカートにしたよ。あと耳を隠す用のキャップも。」


「ありがとう」


 そして渡されたのは濃い目のグレーのロングスカート。上は白の半袖Tシャツと日焼け対策にとUVカット仕様にと薄手で薄茶色のパーカー。キャップもパーカーと同じ色になっていて、被るといい感じに耳が隠れる。少し窮屈な感じもするが、外出する機会も減るからたいして問題ないかな。私の好みをよくわかっていて、全体的にクールな印象になるようにまとまっている。


「うん、似合ってるよ。ホントは巫女服とか着せたいんだけど、それはイベントのときのお楽しみだね!」


「えぇー、私ああいう可愛い系似合うと思わないんだけど・・・」


ってそれコスプレじゃない!?・・・狐耳と尻尾生やしておいて今更か。


「絶対似合うよ!!っていうか見たい!」


「そ・・・そう?一葉が見たいっていうなら、そうしようかな。」


 結局、一葉の押しには勝てず、いずれ巫女服を着ることが決定した。多分ついでにと色々着せられるんだろうけど、それは諦めた。仕返しに一葉に着せてやろうとも思ったが、普通に楽しみそうなんだよね・・・。


「おう、手続きが終わったぞ。着替えも終わったみたいじゃな。忘れ物なければ帰るぞ。儂の車で送ってやる」


「ありがとう。そういや母さんと父さんは?」


「瑞希さんは仕事が忙しいようでな。お主の容態が確認出来てからすぐに仕事に戻ったぞ。まぁ、しばらくは日本にいるから今日の夜にでも会えるじゃろ。隆も今日はどうしても外せない仕事があるみたいでの。今日は儂に頼んで仕事に行ったわ。今日は帰れそうにないみたいじゃ。すまんの」


「忙しいのは知ってるから仕方ないよ。海外から帰ってきてくれただけ嬉しいよ。」


「そうかの。いい子を持ったもんじゃ。じゃ、帰るぞい。」


 そして私たちは爺ちゃんの運転する車に乗って家まで送ってもらった。その後、爺ちゃんはまだ後処理が残ってるようで、病院に戻っていった。


「翔ー!おかえりー!!」


「ただいま、部屋の掃除とかもしてくれてたんだ」


「ううん、そっちは翔の両親がやってくれたよ。僕はずっと翔の病室に泊ってたからね。後でお礼言わないとね。」


「そうだね。」


 見慣れたいつもの部屋に帰ってきた。といっても私としては一日寝てたっていう感覚でしかないから久しぶりって感じはしないけどね。


 とりあえず寝室のクローゼットを開けて服をあさる。なにせスカートが落ち着かない。ズボンにしたいけど尻尾がなぁー。着れないことはないんだけど、その場合いつもよりすこし下げて履かないといけないから、少し不安になる。かといっていつも通りの位置まで上げれば尻尾の根本が持ち上がって落ち着かない。

 尻尾の部分は大きめの穴をあけて上をベルトみたいな留め具で止めるようにすればいいのかな。男性のズボンについてるチャックを後ろにつけるような感じでさ。上は大きめのサイズにするか、夏ならヘソ出しスタイルにすれば気にならないから大丈夫だけど。


母さんに頼んだらできるかな・・・?あとで聞いてみよう。


プルルル・・・


あっ、そう思ってたら母さんから電話だ


『翔ー、退院したって聞いたけど元気ー?今は一葉ちゃんと家にいるの?』


「おかげさまで元気だよ。うん、家にいるよ」


『そっかー、よかったー。「なんか尻尾と耳が生えてきた!」って病院で騒ぎになってたからさ。無事で安心したよー。服はいま手配してるからまってねー。パンツスタイルが好きな翔ちゃん用に尻尾を考慮したもの作って貰ってるから。』


「あっ、そうなんだ。ありがとう」


『どういたしましてー。18時にそっちつくから。ご飯はお寿司手配してるから退院祝いでみんなで食べましょ。父さんはこれないけどね』


「ん、了解」


『それじゃまたねー。』


そして電話が切れる。今は15時だからあと3時間か。


「翔ー?誰からー?」


「あー、母さんから。18時にくるって。あとお寿司手配してあるからこっちでご飯用意する必要ないってさ。」


「そっか。じゃ、復帰報告しないとね。」


「ん?何の?」


「翔のリスナーにだよ。体調崩したってことにしてるから、明日から活動復帰ですー。くらいの報告でいいよ」


「えっ、その報告必要だった?」


「配信はしてなくても活動してるんだってことを知らせておくのは大事だよ。そのためのTwoiterでもあるからね。」


 ふーん・・・。とりあえず言われた通りにTwoiterで体調が復調したことと、明日20時から配信しますとだけお知らせしておく。




「翔ちゃーん!一葉ちゃーん!結婚おめでとー!!」


 そして18時。時間ぴったしに私の母が来た。私の母は所謂年齢詐欺というやつで、実年齢はすでに50超えてるのだがどう見ても30代にしか見えない若々しい美人さんだ。そして口調が緩いのが特徴だ。


「母さん、結婚はまだしてない」


、でしょー。もうしたようなものじゃない!!一葉ちゃんもありがとねー、んーよしよしー」


「わわっ、あの、瑞希さん?」


「ふふふ、相変わらず本当に男なの信じられないわぁ。うらやましいほどの可愛さね。さ、お寿司もって来たから食べるわよ!」


 もって来たお寿司をテーブルに置き、お茶を用意。そしてみんなで食べる。やけに美味しいと思ったら特上寿司では・・・?大トロとかウニとか生の甘エビとかトロサーモンとか明らかに上質なネタばかり。


「あっ、そういや翔ちゃんのためにオーダーメイドした服たちは明日届くから楽しみにしててねー。あと櫛と石鹸もいくつか用意したから、使いやすいの使ってね。」


 あぁそうか。これからは尻尾と耳も洗わないといけないのか・・・。排水溝に毛がつまらないようにしないと。うわぁ、ただでさえメイクとかで面倒なのに、更に面倒になった。


「うん、ありがとう」


「ふふふー、後でその尻尾と耳触らせて!」


「ま・・・まぁ、いいけど。」


「やったー!!」


 こういうところを見ると30どころか20代前半って言われてもおかしくないんだよなぁ。父さんは父さんでいわゆるイケオジだし。


やだ、うちの家系私以外顔がいい?


「なんか変なこと思ってそうだけど、翔もそうだからねー」


はっ!?考えてることバレた!?


「そうねー、翔ちゃんも顔がいいわよー」


「なんで!?」


「「顔にでてたから(わよー)」」


うっそ恥ずかしい・・・


 それからみんなで美味しいお寿司を食べ、終わったあとは二人に沢山体を弄られた。主に尻尾と耳を。大分くすぐったかった。その後満足した母は帰っていき、私と翔はお風呂に入りその後寝た。


 案の定、尻尾を洗うのは大変だった。とりあえず夏毛とかそういう概念はないようであまり毛が抜けたりしなかったけど、そうでなくても洗うのが大変で、乾かすのも大変で、クシで梳かすのも大変だった。毎朝シャワー浴びる派だけど、これはめんどくさい。対策考えないと。

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