2章.新たなる世界へ

2-1:急変

「んあぁーー、おはよー」


「おはよー、翔ー。珍しく遅かったねー。ご飯出来てるよー」


「なんか昨日すごい疲れててさ。ありがとう。」


 昨日は22時頃に寝たのに、起きたのは8時。いつもなら7時ごろに起きて二人分のご飯を作ってるところなんだけど、随分長く寝てたみたい。


 一葉が用意してくれた朝ご飯を食べる。


「昨日話したけど、今日は10時から事務所にいくからね。翔の契約についての話だって。それが終わったらデートね!!」


「ちょっ、まだ契約するって言ってなくない?デートは楽しみだけどさ。」


「いい方は悪いけど、ゲームしてるだけでお金貰えるんだよ?昨日配信してたけど特に問題なさそうだったじゃん。」


「そうだけどさぁ・・・、まぁ、とりあえず話聞いてからね」


「うん、事務所はいつでも受け入れる準備できてるってさ」


「私そんな期待されるほど?」


「期待されるほどだよ。前もいったけど、見た目もいい、純粋に強い、トークも問題ない。配信に向いてるよ。その辺自覚してほしいなー」


 んー、そうなのかなー・・・。一葉の方が凄いと思うけど。強いのはまぁいいけど、見た目とトークは別に普通じゃないかなって思うんだけどね。


 そして朝ご飯を食べ終わり、出かける準備をする。事務所での用が済んだら、一葉と久しぶりの外デートする予定なので、いつもより気合いれてメイクをする。

いい時間になったところで家を出て、電車に乗り、事務所に向かう。



『はい、こちらFunkyAegis株式会社です。』


「こんにちわ!連絡してた一葉です!翔を連れてきましたー!」


『あぁ、一葉さんですか。こんにちわ。今ゲストカードを発行しますね』


 事務所についたのだが、まさか一等地のオフィスビルにあるとは思わなかった。事務所の場所は35階。エレベーターの手前にはゲートが設置されていて、関係者以外は入れないようになっている。受付とか特になく、代わりに来客用のブースが複数設置されている。そこから用がある会社へと電話をかけ、中に入るためのゲストカードを発行してもらうという仕組みだ。ちなみに一葉は自分のカードを持ってるので、発行されたのは私の分だけだ。


 ゲートをくぐり、35階へと移動。35階の全フロアがFunkyAegis所有になっているようで、配信用のルームとか、プロゲーマーが練習するための場所などが用意されているみたい。


 私たちが用があるのは執務室なので、執務室に向かう。


「こんにちわー!陣さんいるー??」


「こんにちわ、あちらにいますよ。」


 執務室に入るなり、大きい声であいさつして陣という人の所在を聞き、近くの人が答えてくれた。いつもこんな感じなのろう。執務室にいる人も特に動じることなく対応している。むしろ私が来たことに対して「あの人がそうか・・・」「かっこいい・・・」「YABAIHENTAI・・・」とかっていう声がチラホラ聞こえてくる。・・・まて、YABAIHENTAIだけは許さんぞ。



「陣さーん!こんにちわー!連れて来たよー!」


「こんにちは、一葉さん。それと雨宮さんですね。初めまして。一葉さんのマネージャーを務める陣と申します。」


「初めまして、雨宮です。一葉がいつもお世話になってます。」


 ミーティングスペースのような所に入るなり、陣という女性の方が私に名刺を渡してくれた。めっちゃ美人さんだ。


「昨日の配信見ましたよ。凄かったですね。仕事しながら見てたんですけど、ボス戦の迫力が凄くてみんなで見入ってました。トークもお上手ですし、今後伸びると思いますよ。」


「そ・・・そうですか?ありがとうございます。」


「そうですよ。さぁ、席に座ってください。色々とお話しましょう。」


 それから契約についての話を受けた。


 活動内容は昨日やったような配信をしてくれればOK。できれば月に80時間以上してくれると嬉しい。事務所を通して案件依頼がくることがあるので、それは極力受けて欲しいこと。グッズ販売等も行うので、その時にこんな感じにしたいとかあれば話して欲しいこと。公式配信を週1で行ってるのでたまに出て欲しいなどの説明を受けた。お金に関してはグッズと案件は5:5。自身のチャンネルで実施した配信の投げ銭やサブスク等で得たお金に関しては事務所は関与しないという話だ。


 で、まだ事務所と契約してないにも関わらず、SLAWOの広報モデルを一葉と共にやらないかという話が来ているらしい。というか一葉から事務所に提案して、それが事務所から向こうに行った結果、「それいいね!」って返事だったらしい。配信とかの実績は何もない私なのになぜそうなった。


 それはともかく、事務所との契約は受けることにした。道場を継ぐ予定ではあるけど、あっちはそこまで忙しくないからね。配信で稼げるならそれがいいし、もしダメだとしても貧乏になる訳でもない。やるだけやってみることにした。


 広報モデルの件は一旦保留に。というのも私に対する依頼の詳細がまだ固まってないから話せる状態にないとのこと。なのでそれが固まってから話を聞くことになった。


「今日はありがとうございました。書類はなるはやで提出お願いしますねー。うちの子たち提出書類いつも期限過ぎてからなので、期限よりも早く貰えると助かりますー」


「えっ、そうなんですね。もしかして一葉も?」


「僕はそんなことないよー!?むしろ一週間前に提出してるからね!」


「そうですね。雨宮さんと同棲を始めてからしっかり提出してくれるようになりましたね。」


「あー!余計なこと言わないで!だらしないとこ知られたくないのー!!」


「そうなんですね。今後もだらしなくならないように見張っておきます。」


「えぇ、ぜひお願いします。」


「むー!!」


 何やら隣で頬を膨らませてプンスカしてる一葉がいるが、それはただ可愛いだけだ。ここが家だったなら撫でまわしてた。


 今の時間は13時。少し遅めのランチを取りに行く。なんか今日はやけに暑い。なんで・・・こんなに・・・


【side-宮田一葉-】


「翔・・・?翔!?!?えっ!?ねぇ!聞こえてる!?」


 外に出てどこで昼食べようかと話してたら急に翔が倒れた。ととととりあえず救急車よばなきゃ。


「大丈夫ですか!?私は医者です。」


 偶々近くにいた人が、医師資格証を提示して助けにきてくれた。


「あの、翔が急に倒れて。さっきまで何ともなかったんですけど」


「なるほど。救急車を呼んでもらえますか。それと彼女の親族の連絡先がわかるのであればそちらにも連絡をお願いします。私は容態を確認しますね。」


 翔の応急処置とかはお医者さんに任せて、僕は救急車を呼び、翔の両親に電話をする。


『あらー、一葉ちゃんじゃない。どうしたのー?結婚の連絡かしら?』


「そうだったらいいというか。いやいや、そんなことより翔が倒れまして。」


『あらあらそうなの?それはふざけてる場合ではないわね。道場で怪我したとかではないんでしょ?』


「え・・・えぇ、直前まで普通に話してたんですが、いきなり倒れまして」


『そう・・・、私も夫もいま仕事で海外にいるのよ。お義父さん・・・旦那の実家がやってる道場の師範ね。あの人に連絡しておくわ。あの人も確か医師免許持ってたはずだから』


「そ・・・、そうなんですね。お願いします。」


『あっ、旦那から伝言なんだけど、もしお義父さんが来る前に手術が必要って話をされたらお義父さんの名前と一緒に来るまで待ってって伝えといて。そんなかからないはずだから。』


「???そ、そうですか。了解です」


『それともし関係性を聞かれたら婚約者って答えちゃっていいわよー。翔もその気だろうし。』


「えぇっ!?いやっ・・・そのっ」


『それじゃぁねぇー、私たちも急いでそっちに帰るわー』


 えぇっ・・・いきなり切られた。


 その後、救急車に乗り病院に向かう。親族として祖父が来ることを伝え、僕と翔の関係性については婚約者と答えた・・・というか言わされたというか。彼女だと診断結果は話せないけど、婚約者なら詳細を話せるといわれた。


 どっちにするか悩んだけど、婚約者にした。すでに互いの両親は付き合ってること知ってるしね。男だと訂正したかったが、それは微妙な空気になりそうなのでやめておいた。今の時代、同性での結婚も一般的ではないけど認められてるし、する必要もない。


 そして病院につき、翔は中へ運ばれる。診察が終わるまで待合室で待機。病院について少しして翔の祖父も来た。


「おお、一葉t・・くんか。連絡ありがとう。」


「お久しぶりです。和久さん」


「うむ、それでどういう状態だ?」


「私もよくわかってないのですが・・・、話している途中でいきなり倒れて。それとかなりの高熱を出してました」


「直前まではなんともなかったんだな」


「はい」


「ふむ・・・そうか。念のため医師資格証を持ってきておいてよかったかもな。」


「それはどういう・・・?」


「いまは診察結果が出るのを待つときだ。」


「???」


 意味深なことを言っていたが、これ以上追及はできなかった。会話はそこで途絶え、翔の診察が終わるのを待つ。


「宮田さん、診察終わりました。隣の方が雨宮翔さんのお祖父様ということであってますか?」


「うむ、雨宮和久だ。」


「かしこまりました。ではご案内いたします。」

 

 そして翔が寝ている病室に入り、お医者さんからの説明を受ける。


 説明では、腎臓の下付近に石のような何かがあること。ただの腫瘍であれば摘出すればいいのだが、様々な場所と血管で繋がってるため迂闊に取れないこと。


 これがどれほどの悪さをするのかが不明なため、大きい病院での精密検査が必要であるという話だった。


「ふむ・・・、失礼。」


 そういって和久さんは、何かを確認するように翔のお腹辺りを触る。


「あの・・?」


「あぁ、失礼。私はこういうモノでな。私が持ってる資料に類似した症状があったのでもしかしてと思ってな」


「あぁ・・・これは失礼しました。では国立病院に連れていきますか?」


「うむ、そうしようか。救急車をお願いしていいかな?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


 国立病院・・・?てかこの人道場の師範だよね?なんで医師資格証持ってるんだろう。国立病院て・・・?


「一葉くんも来てくれるかな?」


「は、はい。わかりました」


 そして再び救急車にのり国立病院へ。国立病院についてからは、何やら精密検査をするようにとの指示を出し、そして僕も精密検査を受けることになった。理由は同様の症状に感染してないかどうかの確認だそうだ。


 そして検査が終わり、翔は特別病室へと運ばれ、僕と和久さんも病室に入る。翔はまだ起きる気配がない。


「あの・・・、それで翔は大丈夫なのですか?あれは何なのですか?」


「大丈夫かどうかか・・・、正直にいうとわからん。翔と同じ症状を発症したという記録があるにはあるが、その記録はもう50年も昔の物だしの。翔に起こってることと同じかどうかはわからん。」


「そうなのですか・・・」


「じゃがまぁ、予想はつくがの」


「予想・・・ですか?」


「その原因も恐らくあの石なのじゃが・・・、まぁ何とも嘘くさい話じゃからの。話半分に聞いてくれ。」


 それから和久さんが話したことは、確かに信じがたい話だった

 

 曰く、あの石は雨宮家の血縁にあるものにはよくあるものらしい。そしてその石は遥か昔に妖怪と交わったことで出来るようになったとか。そのためかどうかは不明だが、あの石があるものは人間離れした回復力を得るという。普通なら即死するような怪我でも3か月で完治し、身体に穴が開く程度であれば1ヵ月も掛からず治るという。


 そしてごくまれに、妖怪の力と思しきものを得ることがあり、その前兆として前触れのない高熱があるのだとか。直近では和久さんの祖父が50年前に超能力を得たというが残っているという。


「そ・・そんなことがあるのですか?」


「妖怪云々の話は眉唾よ。じゃが、人間離れした回復力の話は事実である。何せ儂の身体にもあるし、経験しとるからの。超能力もまた公的記録に残っておる。儂の爺が得た超能力は透視能力と聞いておる。そして公的なものではないが、家の古い文献には猫耳と猫の尻尾が生えたという話もある。」


 話を聞いてもあまり信じられない。正直SLAWOをプレイした影響って言われたほうがまだ納得できるけど・・・。一部公的な記録が残ってるということなら概ね正しいのだろう。


「その、それが本当だとして翔はいつ起きるのでしょうか・・・?」


「ふむ、あの石が原因で、記録に残っておる通りならば1週間といったところか。仮にそれと関係なかったとするなら、3日もあれば回復するだろうて。とにかく様子をみるしかないのぉ。」


「そうですか・・・」


 それから、なるべく翔のそばにいさせて欲しいと伝えると、何なら病室に泊っていけといわれた。そのための特別室でもあるらしい。気が動転しててちゃんと見えてなかったが、よく見るとちょっと良いビジネスホテルみたいな病室になっていて、ベットも泊まる人ようのものがあった。


 お言葉に甘えて、僕は翔が起きるまでここに泊ることにした。大学には外せない講義だけ出ることにして、ストリーマーとしての活動はお休みする連絡を入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る