第十節 再び

少し開いた窓から、緩やかな夜風が流れてくるのはいつも通りだった。


その中に光を感じ、リオナはその青い瞳をうっすらと開いた。


揺れるカーテン越しに、光がちらちらと差し込むのが見える。もう陽が昇る時間かと周囲に目をやったが、まだ時間は夜の静けさをまとったままだった。


ジジジジジ・・


「サン?」


いつの間にリオナの左手から出てきたのか、サンがカーテンの外をその3つの瞳で睨み、警戒の声をあげていた。毛並みは真紅を呈し、激しく逆立っていた。



その時ーーーー、



ドゴオオオオオオオンーー!!!



密林の向こう側で、何かがぶつかり合う凄まじい轟音がした。


「何っ!?」


リオナは飛び起き、窓から身を乗り出すようにして外を見た。


密林のすぐ外で、閃光が走る。少し遅れて轟音と空気のうねりが、木々や草花の間を波動のように押し寄せてきた。


暗闇の中で照らし出された、リオナの美しい栗色の巻き髪が風になびいて揺れる。風と轟音の中、リオナが目を凝らすと、その閃光が徐々にベールの国へ近づいて来るのが見えた。


突如、部屋のドアが勢いよく開いた。


「リオナ様!!」


いつも冷静なシッダが、息を切らして開いたドアの側に立ち、早口でまくし立てた。


「何やら良くないものが近づいております!結界を張りますので、王宮へ避難を!」


リオナはーーー、


轟音と閃光に瞬きもせずに、その光景をじっと見つめていたが、ふいに。


シッダの視界から、その姿が消えた。


「リオナ様っーーー!!」


慌てて窓からシッダが身を乗り出す。


リオナは魔法を身にまとい、窓から眼下へと飛び降りていた。


シッダのすぐ隣を、風のようにサンがすり抜け、あとを追う。


リオナはまるで重力を感じさせない動きで地表に足が着く前にふわりと宙に浮き、そのまま地を蹴るように勢いをつけて、轟音に向かって飛んでいった。


リオナは思った。


(ーーー彼の、存在を感じる。)


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Fernweh 漆黒の片鱗とともに ぺんぺん @mixedup3_ma_coba

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