第五節 北の棟の老女


リオナは北の棟の入口まで来ると、魔術を全身に纏い、まるで無重力の中を跳ねるように階段を軽やかに登っていった。


五百段以上はあっただろうか。


登りきった最上階にあるその部屋に、老女がいた。ロワと対峙した、あの老女だった。


窓のある向こう側に視線を向け、古びた肘掛け椅子に座っている。

その部屋は、魔術や生み出した植物、動物のようなものでごった返していた。が、不思議と全てのものから同じ存在が感じられ、統一感があった。


「・・お久しぶりです、グランマ。」

リオナは老女にそう言うと、少し大げさに、グランマの背中に向かって深くおじぎをした。

「・・・おやおや。修行もせずに、無謀に戦いを挑んだおてんば姫様が、わしに何用だい?」

老女は、振り向かずに言った。その物言いは、意地悪そうな表情を想像させた。肘掛けにのせたその老女の手には、深いしわが刻まれている。


リオナは眉間にシワを寄せ、頬をふくらませて、もう一度老女の名前を呼んだ。

「・・グランマ!」

グランマと呼ばれた老女は、くっくっと肩を少し震わせ、低く笑った。


「見えていたんでしょう!本当、、情けないわ。」

リオナはため息まじりに言った。

「・・だから、修行せよと言ったじゃろ!命が助かったことに、感謝するんじゃな。悪意は、増大しておる。おまえは、、自分の力を、全く活かしきれておらん。」

グランマは、厳しくそう言った。

「お父様から、、、どうしても、お許しが出なかったのよ。でも、事態は一刻を争うわ。またここに、通ってもいいかしら?」

グランマは、その部屋の唯一の窓から外をしばらく眺めた後、少し間をおいてから言った。

「わしは、構わん。この世界のためには、お主の力が必要だろう。先見(さきみ)もそう、示しておる。ただ、、」

グランマがゆっくりと、リオナの方へ振り返る。その瞳には、母親が子を思う、その眼差しが宿っていた。

「リオナ、、、命を、大切にせよ。

お主の母親との、約束じゃからな。己の命を守るためにも、強くあれ。そして、力をコントロールするのじゃ。」

その優しい言葉は、リオナへの想いで満ちているようだった。

リオナはほっとしたように、にっこり微笑むと、

「わかったわ!グランマ、大好きよ!」

そう言いながら、駆け寄ってグランマに抱きついた。

「これこれ・・・まったく、甘えん坊は大きくなっても直らんか。」

グランマはため息まじりにそう言うと、愛おしそうにリオナの頭を撫でた。

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