第7話 今の私に出来ること

 試験開始の合図が放たれると同時に、奏と理夜の持つおもちゃの拳銃から大量の弾が恐竜に向かって発射される。

 奏はとりあえず星の形を一発、理夜は思い付く限りの様々な形を連射していた。

 2人の頭で思い描いているものがまるでコンクリートで形作られたような灰色の弾丸になり、恐竜の体躯へと激突していくが……それらの弾は恐竜の身体にひとたび当たると消滅し「0ダメージ」という文字を浮かべるだけであった。


 「全然ダメージが入りませんわねぇ、これだけ弾丸を撃ち込んでいますのにあいつめちゃくちゃ平気な顔してますわよ」

 「とりあえずいろんな形を撃ち続けるしか方法がない気がする……理夜さん、その調子でドンドン撃って」


 奏がそう言うと理夜はニヤッと笑みを浮かべて銃を構えなおす。


 「了解ですわ!とりあえず次は乗り物100種類あの恐竜にぶち込んでやりますわ!!」


 理夜はそう言うと、灰色の車やら電車やら飛行機やらを弾として次々と恐竜に撃ちこんでいく。しかし、その猛攻を受けても恐竜は平気そうな顔で立っており、相変わらず弾が消滅した後には「0ダメージ」という表記が浮かび上がるだけであった。


 (理夜さんがこれだけいろんな形を撃ちこんでも、あの恐竜にダメージを与えられる法則が分からない……私も沢山の形をあいつに撃たなきゃ)


 奏は恐竜に再び銃口を向け星以外の形を撃ちこもうとしたその時、奏の周りに大量のディスプレイが出現する。


 「これは……私のマインド」


 奏は思わずディスプレイに書かれている内容に目を通した。


 『さっきのシーンで見落としたところはないか?』

 『少し違う星の形にすればダメージが入るのでは?』

 『本当にもう星の形ではダメージが入らないと言い切れないか?』

 『とがっていた角を丸くすればいいのでは?』

 『ほかの形を撃ちこんでも法則は解明できないのでは?』

 『もう一回星の形を撃たないと後悔するのでは?』

 『もう一回星の形を撃てばクリアへの糸口が見つかるのでは?』

 『星の形を撃った方がいいのでは?』


 奏がディスプレイに書かれていることを見た瞬間、奏は心の中で少しだけ「そうかもしれない」と思ってしまった。

 その瞬間、奏がおもちゃの銃を構えている右手に勢いよく鎖が巻き付き奏の右腕部分をきつく締めつけた。

 その締め付けは星以外の形を撃とうとした瞬間に非常に強くなり、

星の形を撃とうと思った瞬間急激に緩んでいった。


 「今はそんなことしてる場合じゃないのに……」


 沢山の形を試して、いち早く恐竜のダメージの法則を解明したい。

 そんな焦りが出れば出るほど、奏の右腕の鎖の締め付けはきつくなっていた。


 「奏さん!大丈夫ですの?」


 そんな奏の異変を察知して、理夜が奏に声をかける。

 必死に色々な形の灰色の弾丸を撃ちこんでいる理夜を見て奏は試験前に理夜が自分に言ってくれたことを思い出す。


 『あなたは考えることに関してきっと誰にも負けませんわ。それでも不安で不安で仕方がないというのでしたら……わたくしが必死に動いてあなたを安心させますわ!!』


(そうだ私は今一人じゃない、理夜さんはデータが沢山必要って言ったから必死に動いてデータを集めてくれてる……それも少し見落としがあってもいいような勢いで)


 今の奏に自分のマインドを抑える方法は分からない。

 それゆえに奏がこの状態で星以外の形を撃ちこむのはほぼ不可能。

 しかし、奏が星以外の形を撃てなくともほかの形は理夜が大量に打ち込んでくれている。

 なにより奏と理夜が今何かを見落としているために恐竜にダメージが入っていない可能性も十分にあり得る状況である。

 この状況で試験をクリアするために自分を信じてくれている人のために奏が出来ることは一つだけだった。


 「理夜さん、私は大丈夫!!理夜さんはそのままいろんなものを恐竜あいつに撃ち続けて。私は違う切り口からあの恐竜の弱点を見つけ出して見せる」


 奏がそう言うと共に、先ほどとは少し形の違う星の形をした灰色の弾丸を恐竜に撃ちこむ。


 「ええ、奏さんならきっとできますわ!あの偉そうにしてる恐竜の顔に一発かましてやりますわよ!!」


 そうして奏と理夜は笑顔で顔を見合わせ各々の役割を遂行していった。

 そんな二人をスィンクは上から楽しそうに眺めていた。


 「お姉さんたちいいコンビネーションしてるね。だけど、今のまんまじゃ一生かかってもクリアできないんだよねぇ。お姉さんたちは気が付くかな、この法則に」



             試験終了まで残り19分

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試験をクリアするまで夜は明けない!! アカアオ @siinsen

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