第2話 運命ってあるよね

 舜のたくましい腕に抱かれて、女性がぐったりともたれかかっている。いーなー。そのポジション代わりてぇー!! だが事は重大。ふざけたことなんて言えるわけないし、なんなら舜より腕力の自信もないし。


 浜辺に着くと、待ちきれない様子で響が女性にタオルをかけた。


「大丈夫ですかぁ?」


 高等科二年生にして、このベビーフェイス。今度は響のかわいらしさに戸惑う女性。うん、それが正直な反応だな。


「お嬢様ーっ!!」


 なんと、場違いにもスカートをひらめかした妙齢の女性がこっちに向かって走ってくるではないか。だが、あいにくこの砂浜では、ローヒールであろうと年齢的になかなか前に進むことはできない。


「大丈夫ですよ。今、そちらに連れて行きますから」


 薫は丁寧にローヒールの女性に声をかけると、女性ははぁはぁと荒い息でその場に立ちすくんでしまった。


「まったく、お嬢様はなんて無茶をなさるのです。お体にさわるでしょうに、海なんかに入るだなんて。まるで子供ですわ」


 ローヒールの女性は、一気に呼吸が整ったのか、べらぼうな早さで言葉をつむいだ。


 正直に言おう。いくら男子校だからといっても、おしゃべりな女性は苦手だ。なぜなら終わりの見えない話を延々と聞かされてしまうからだ。断じて年齢は関係ない。それだけは言っておく。


 ようやく舜がローヒールの女性の元にたどり着けば、ローヒールの女性は遠慮なく、このじゃじゃ馬娘がっ! とののしった。


「まぁ、彼女もこんなですし。なんならその、病室までお運びいたしますが?」


 海に入った女性が、この緩和ケアセンターの患者であることはおそらく間違いはない。と、いうことは彼女の寿命がせまっている危険がある。


 とりあえず今は、一刻も早く病室で着替えてもらって、体を温めなければならないだろう。


「よろしいのですか? ええ、それではお頼みいたしましょう。よろしくお願いいたしますね」


 高校と横並びの緩和センターではあるが、病院の駐車場を横切るのはこれが初めてだ。


 あのあと、泣きじゃくる一方で、話ができる状態ではない彼女は、近くで見ると、おれたちとおなじくらいの年に見えた。


 あきらかに病床にありながら、あふれ出る色気に、おれは少しあてられてしまった。


 つづく

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