ゲキジョウ部 〜Between that world and this world〜

春川晴人

第一幕 ロミジュリ症候群

プロローグ

 けったいな夢を見た。


 地元の海岸でシャチが大量に暴れている夢だ。円の中心にはイルカの群れ。


 ああ、これぞ人生の縮図か、というところでおさななじみの海原かいばら かおるに頭を叩かれた。チョップだ。地味に痛いしひどくない?


「僕の脚本を二人が一生懸命演じてくれているというのに、ここで寝るかなぁ?」


 黙っていりゃあ、その辺の女子よりもかわいいツラをしてる薫は、頭から湯気が出そうなほどおかんむり。これ、いつもの日常。そんでもってここは、私立『音木おとぎ学園高等部』の資料室。もとい、おれたち劇場部の部室。


「つったって。男子校でロミジュリ演じられても身が入らないんだよな。それにおれ、死体の役だし」


 役者というよりは主に裏方の仕事がメインだしな。なんたっておれは、みんなと違ってモブ・オブ・ザ・モブだから。


「贅沢言うなよ、つとむ。おれなんかセリフが多すぎて覚えられないくらいなんだぜ?」


 図体がムダにでかい陸田りくた しゅんは、常に演劇部の主役を張れる男だ。王子様がリアルにいたら、こんな感じなんだろうな。


「それよりも、おれのことを努って呼ばないで欲しいのだが?」

「なら、フルネームで呼ぶぞ? 山口 努くん」


 ああ。よりによってなんで名前までこんなにありふれてるんだ。世に言うキラキラネームとか、うらやましすぎるぞっ。


「もぅ!! みんな集中してぇ!! ぼくがこーんなにかわいいのに、見てくれなくちゃ嫌っ!!」


 空野そらの ひびき、プレーリードッグみたいにかわいい。小さいしかわいい。だが男だ。そして男だ。間違いがあってはいけない。男なのだから。中性的な彼は、どちらかというと女性の役が多い。似合っているし、かわいいが、男の子であることに間違いはない。


 これが、おれたち仲良し四人組。四人しかいないが、部活として認めてもらっている。なんたって薫の親父さんは県議会議員様だからな。寄付金もたーっぷり払ってくれているだろうし、そこら辺はぬかりがない。


 え? なんで三人がこんなにイケメンなのに、モブのおれが混ざってるのか、だって? そんなの、おれが知りたいぐらいだ。


 そんなわけで、原作のロミジュリを大幅に改稿した台本を念入りに見直している薫。主に語り部が多い。


 な? おれたちの活躍、もっと見たいと思うだろう?


 つづく

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